久坂大和は藤堂エルザにせがまれる。
ご覧いただき、ありがとうございます!
——ガラ。
風紀委員会室をの扉を開け、俺達四人は中に入る。
で、俺とユーリはいつものように並んで座るんだけど……。
「え、ええと……藤堂、さん?」
「はい、なんでしょう?」
なぜか藤堂エルザは、俺を挟んでユーリの反対側……つまり、俺の隣にチョコン、と座っている。なんで?
「え、ええと……他にも席はいっぱいあると思うんだけど……」
「そうですね。ですが、せっかくお友達とのお昼ご飯ですので、傍で食べたいではないですか」
純真無垢な瞳でそう言い放つ藤堂エルザ……コイツ、本当にアイドルか!?
「イヤイヤイヤ! 君が友達って言うんなら、少しはその……遠慮っていうか……ねえ?」
見かねたユーリが眉毛をピクピクさせながら藤堂エルザを諭す。
だがユーリよ、そんなオブラートに包んで尻すぼみになりながら言っても……。
「?」
ホラア! 彼女、これっぽっちも理解してないぞ!?
「そんなことより、早くご飯を食べないと、せっかくのお昼休みがなくなってしまいます」
そう言うと、藤堂エルザはおもむろに自分の弁当を取り出す。
だけど。
「な、なあ、弁当っていつもそんなのなのか?」
「? はい、そうですけど……」
藤堂エルザの弁当に驚き、つい尋ねると、彼女は不思議そうにそう答えた。
や、だけど彼女の弁当、完全に仕出し弁当……いや、いわゆる“ロケ弁”というやつか。
「そ、そんなんじゃ、栄養が偏っちまうぞ?」
「ふふ、大丈夫ですよ」
そう言うと、彼女は微笑みながらカバンから白いボトルを取り出した。
「ええと、それは?」
「これはサプリメントです。こちらがビタミンCで、こちらが……」
一つ一つ、その中身について説明する藤堂エルザ。
だが……なぜか俺はそれを許せなくなってしまった。
「バカヤロウ! 栄養ってのはちゃんとご飯で摂るモンなんだよ!」
「え? え!?」
俺の突然の大声に、藤堂エルザが目を白黒させる。
「ホラ! せめて今日くらいはコッチを食べろ!」
そう言うと、俺は自分の弁当の蓋を開け、ズイ、と藤堂エルザに押しやった。
「え? これ……」
「おう! 俺の自信作だ!」
そりゃあ何と言っても、ユーリに美味しく食べてもらうために丹精込めた代物だからな!
絶対美味いし、健康にもバッチリだ!
「あ、そ、その……食べても、いいんです、か……?」
「もちろん! つか、そんな弁当じゃなくてコッチを食べるんだ!」
すると。
「あ、ありがとうございます! 私……て、手作りのお弁当なんて久しぶりで……」
彼女はパアア、と表情を輝かせ、俺の弁当を受け取った。
「あ、そ、それなら! 私のこのお弁当を……」
藤堂エルザが申し訳なさそうに、ロケ弁を俺に渡した。
「ああ。んじゃ、コッチは受け取っておくよ」
「は、はい!」
藤堂エルザがすごく良い返事をしたのを見て、俺も良いことしたなー、などと考えていると。
「アイタッ!」
突然、太ももに痛みが走った!?
見ると……。
「え、ええと、ユーリ……?」
「むううううううう!」
ユーリが涙目になりながら頬をパンパンに膨らませ、俺の太ももをシッカリつねっていた……。
◇
「ご、ごちそうさまでした……」
結局ギスギスした雰囲気のまま、何とか食事を終えた俺は、そっと手を合わせた。
「はあ……本当に美味しいお弁当です……」
そ、そいつは良かったな……だけど、お前が感嘆の声を漏らす度に、俺はユーリから無言の圧力を受け続けるんだよ……。
つかユーリさんや、そろそろ機嫌を直しておくれ?
「あー美味しかった! やっぱりヤマトが、“私のためだけに”作ってくれたお弁当は最高だよ!」
そう高らかに宣言すると、ユーリは少し勝ち誇った目で藤堂エルザを見る。
いや、お前の言った通りで正しいけど、何というかその……なあ?
「ええ、本当に美味しいですね! そ、そうだ!」
何かを思いついたのか、藤堂エルザは胸の前で手を合わせると。
「久坂さん、そ、その……」
「お、俺!?」
急に上目遣いで俺の顔を覗き見る藤堂エルザに、俺は思わず自分を指差す。
い、嫌な予感しかしねーんだけど……。
「わ、私にもお弁当……作って、いただけません、か……?」
「「はあ!?」」
ほらあ! やっぱり碌なことじゃなかった!
あ、いや、ユーリさん? なんでコッチを睨んでるの?
「ム、ムムム、ムリムリムリムリ! 絶対にムーリー! つか、俺はユーリと文香と自分の分だけで精いっぱいなの!」
俺は両手を全力でバタバタさせて明確に拒否の姿勢を示す。
でもそのお陰で、ユーリの圧が和らいだ……かも。
「そ、そこをどうか! 私でよろしければ、どんなことでも協力いたしますから!」
「ちょ、ちょっと! 何言い出すのかなあ!」
見かねたユーリが、とうとう参戦してきた。
や、もっと早く介入しろよ!
「ヤマトのお世話はこの私がするから、藤堂さんはいらないの!」
「で、ですが、私が久坂さんのお弁当のお手伝いをすれば、その分作っていただけることに……」
え、いや、ホント、何を言ってるんだ!?
朝の時間帯に俺の弁当の手伝いって……家に押し掛けるつもりか!?
「そ、それに、こう見えて私は料理が、その、と、得意ですから!」
大声でそう語る藤堂エルザ。
なら、なんでそうやって目を逸らすんだ?
「とにかく! 朝っぱらから家に来られても困るし、弁当を四つも作る余力はない! よって、藤堂さんの分まで作るのはナシ!」
「えー……」
あからさまにショボンとする藤堂エルザ。
俺はそんな彼女に罪悪感を覚えつつも、先程までとは違い満面の笑みを浮かべるユーリを見て、自分の選択が正しかったのだと、ホッと胸を撫で下ろした。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




