久坂大和は芹沢悠馬と藤堂エルザに絡まれる。(二回目)
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「ほ、本当に、嵐みたいな人だな……」
「ホントにねー……」
俺達は先輩の出て行った後の扉を眺めながら、そう呟いた。
「そ、それより、お弁当食べよ! せっかくのお昼休みがもったいないよ!」
「お、おう、そうだな」
俺は弁当を机に並べ、蓋を開けると。
「ふああああ……」
ユーリが感嘆の声を上げる。
今日は、梅の混ぜごはんにタコさんウインナー、プチトマトとレタス、ブロッコリーのサラダに、メインは……コロッケ。
「あれ? コロッケだー! 昨日の分、今日のお弁当のためにとっておいたの?」
ユーリは瞳をキラキラさせながら、俺に尋ねる。
だが……ふっふっふ、ただのコロッケと思うなよ?
「まあまあ、とりあえず食べてみろよ」
「うん! いただきまーす!」
ユーリは早速コロッケを箸で割ると。
「あ! これ、クリームコロッケだ!」
そう、実は昨日、晩メシ用のコロッケとは別に、クリームコロッケを作っておいたのだ。
そして肝心のクリームは、一昨日のシチューだったりする。
あらかじめシチューの残りを凍らせておいて正解だったよ。
「はむ……もぐ……」
「どうだ?」
俺はユーリの反応が気になって、顔を近づけて感想を催促すると。
「ふああああ! すごく美味しい!」
「そ、そうか!」
「うん! 本当にヤマトはすごいね! 魔法みたいだ!」
「お、おう!」
はあ……やっぱりユーリが美味そうに食べる姿は最高だ……。
「この梅ごはんもさっぱりして美味しいし、タコさんウインナーもザ・定番で安定感あるし……うわあ、私、幸せ過ぎるよ……」
ユーリはホクホク顔で、箸のスピードを一向に緩めない。
そして。
「はあ……ごちそうさまでした……」
瞬く間に食べ終わったユーリが、幸せそうな表情で手を合わせた。
「おう、お粗末様でした」
俺はユーリから空になった弁当箱を受け取り、袋にしまう。
うむ……今日のお昼も良き、でした。
「えへへー……ね、ねえねえヤマト」
ユーリがなぜかモジモジしながら甘えた声で声を掛けてきた。
「ん? どうした?」
「う、うん、その……ヤマトの隣、行ってもいいかな?」
「俺の隣? 別に構わねーけど……」
? なんだろう?
俺はユーリの考えがよく分からず、首を傾げながらもとりあえず頷いた。
すると。
——ぴと。
「え? え!?」
ユーリは隣に座ると、俺にもたれかかってきた!?
俺はその事実に、頭の中が混乱を極める。
「えへへ……ヤマトと付き合ったらしたかったこと、その一、だよ……」
「お、おう、そうか……」
俺はユーリの温もりといい匂いでドキドキしっぱなしで、昼休みの間中、そんな受け答えしかできなかった。
◇
——キーンコーン。
六時間目の授業の終わりを告げるチャイムがなると。
「ヤマト!」
ユーリが嬉しそうに、俺の席までやってきた。
「おう、そういや今日は何が食べたい?」
「今日は……うーん……ヤマトに任せる! ヤマトの料理は全部美味しいし、何より、今日はどんな晩ご飯かなって想像するのも楽しいから!」
「そっか。なら、楽しみにしとけよ!」
「うん! それじゃ、行ってくるね!」
「ああ」
俺は元気に手を振りながら教室を出て行くユーリを見送ると、帰り支度を始める。
すると。
「久坂君、話があるんだけど」
「俺にはねーよ」
俺はそう言うと、話しかけてきた芹沢を無視するかのように、視線も合わさずに立ち上がると。
「逃げるんですか」
俺の行先を遮るように、藤堂エルザが俺の目の前に現れた。
つか、『逃げるんですか』って何だよ。
「えー、俺もユーリも、ハッキリ言ってオマエ等に関わり合いになりたくないの。つーわけで、そこ退いて欲しいんだけど?」
俺は二人に呆れながらそう言うが、二人は一向に退く気配がない。
や、俺はユーリと文香の晩メシ作らなきゃいけないんだけど。
「……ねえ久坂君。君、悠里と釣り合うとでも思ってるの?」
オイオイ……芹沢の奴、勝手に話し始めちゃったよ……。
つか、釣り合うとかなんとか言い出したし……。
「それに俺が答える義理はねーよ」
「あっ!」
俺はグイ、と前に立ち塞がる藤堂エルザを軽く押し退けた。
すると。
——ガン。
「っ……!?」
突然、俺の額に衝撃が走る。
何事かと当たりを見回すと、どうやらクラスメイトの一人が、俺に向かって軽金属製の筆箱を投げつけたようだ。
はあ……メンドクセエ。
「おい、これは何の真似だ?」
俺は筆箱を投げてきたクラスメイトを睨みつける。
すると。
「うるせえ! オマエごときが馴れ馴れしくエルルンに触るんじゃねえよ!」
「オイオイ、人に筆箱投げつけときながら逆ギレかよ」
芹沢達とのやり取りのせいで少々頭にきてた俺は、ヅカヅカとそのクラスメイトのところへ向かおうと……。
「そこまでだ」
突然、女性の静かだがよく通る声が教室内に響き渡った。
見ると……木戸先輩とユーリがいた。
先輩はいつも通りの表情を崩していないが……あー……ユーリ、相当キレてるな……。
「島田くん……今、何したの?」
「え!? あ、いや……」
ユーリが筆箱を投げたクラスメイト……島田に鬼の形相で凄むと、島田はその迫力に思わずたじろぐ。
「何したのって聞いてるんだ! 早く答え「中岡、落ちつけ」……っ! で、ですが!」
今にもつかみかかりそうな勢いで凄むユーリを、先輩が窘める。
「とにかく、生徒同士の暴力行為は看過できない。この一件、風紀委員会として厳正に対処する。島田くんと言ったな……委員会から追って連絡する。それなりに覚悟しておけ」
先輩がそう言い渡すと、島田は困惑した表情を浮かべながらうなだれた。
「ヤマト! だ、大丈夫!?」
いつの間にか俺の傍に来ていたユーリが、心配そうに俺の額を見つめる。
全く……そんな顔しないでくれよな……。
「大丈夫だよ。だけど、心配してくれてありがとな」
そう言うと、ユーリは安堵の表情を浮かべる。
ああもう、可愛いな。
「さて、それと……芹沢悠馬、藤堂エルザ、そして久坂大和、三人は私達と一緒に風紀委員会室に来るように」
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次話は明日の夜更新予定です!
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