久坂大和はウザい二人を論破する。
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「おい……斎藤どけ」
「む……」
俺はグイ、と斎藤を押し退け、ツカツカとユーリの元へ向かった。
横を通り過ぎる時に見えた、斎藤のしかめっ面が気になるが、今はそれどころじゃない。
「よう、面白そうな話してるな」
「ヤマト!」
キョトンとしていたユーリだったが、俺が彼女の隣に来ると、嬉しそうな表情を浮かべた。
うーん、やっぱり俺の彼女、超カワイイぞ。
「何ですかあなたは。部外者は「イヤイヤ、そっちこそ部外者じゃないの?」……は?」
俺が間髪入れずに指摘すると、藤堂エルザが顔をしかめる。
つか、アイドルなのにその表情はどうなの?
「だーかーらー、部外者だっつーんなら、藤堂さんも部外者だろ?」
「な! 私は部外者なんかじゃありません! 私は「私は? 何なの? ひょっとして、芹沢の彼女とか?」」
そう指摘すると、藤堂エルザが俺を忌々し気に見つめた。イヤ、何なの?
「……ねえ、ヤマトにそんな視線向けるの、やめてくれないかな」
「っ!?」
ユーリの恐ろしく低い声に、藤堂エルザが一瞬息を飲んだ。
や、俺も思わず腹の底から震えそうになったのは内緒だ。
「……まあいいや。で? さっきユーリのこと“許さない”っつったけど、聞いてりゃそんなの、全部芹沢の自業自得だよな?」
「ハア!? なんでそうなるんですか! そんなの、中岡さんのせいに決まってるじゃないですか!」
ホント、何なのコイツ?
アイドルっつーのは、自分中心に世界が動いてるとでも思ってる訳?
全く……一つ一つ説明しねーと分かんねーのか……。
「いいか、そもそも芹沢がクラスメイトに変な目で見られてたのなんて、“沖田晴斗”であることを隠して、陰キャボッチを演じてたのが原因だろ? それが嫌なら、最初から言えばよかったんじゃねーか」
「な!? あなた、何を考えているんですか! そんなことできる訳ないじゃないですか!」
「……そんなの、影響を考えたら、できないよ……」
俺の指摘に、藤堂エルザがふざけるなとばかりに噛みつき、芹沢はなぜか憂いを帯びた表情でかぶりを振る。
だから俺は、そんな二人にこう告げよう。
「イヤイヤ、オマエ等何言ってんの? 現にオマエ、今日になって“沖田晴斗”って正体明かしてんじゃん」
「あ、ホントだねー」
俺の言葉に、ユーリは呑気にウンウン、と頷く。
「ま、でも、これからは、“陰キャ”だの“ボッチ”だの言われなくて済むじゃん、良かったな」
「ねー」
「じゃ、これで話は終わりってことでいいよな?」
俺は二人に向かって手をヒラヒラさせ、ご退場願おうとしたんだけど。
「ふ、ふざけないでください! それじゃ、悠馬さんが受け続けてきた今までの苦痛はどうするんですか!」
「イヤ、だから自業自得だって言ったじゃん。それに、苦痛だ苦痛だっつーんなら、“陰キャ”だの“ボッチ”だの言った奴に直接文句言えよ」
そう言うと、俺はクラスメイト達に視線を送ると……うむ、全員綺麗に目を伏せやがった。
「つーことで、今度こそ話は終わりでいいよな?」
「「…………………………」」
俺が二人に視線を戻すと、藤堂エルザは悔しそうに唇を噛み、芹沢は……うん、なんか呆然としてる。ま、いいか。
「だったら、さっさと向こう行けよ。俺もユーリも、二人に用はないからさ」
俺はシッシッ、と手で払う仕草をする。
「……久坂君、一つ聞きたい」
「え? 俺は話したいことなんかないんだけど?」
どうせ、コイツが聞きたいことなんて分かってる。
俺とユーリがどんな関係なのか、だろ?
「君は「知らね。自分で考えろよ。ユーリ、気分悪いから外の空気吸いに行こうぜ」」
「へ? あ、う、うん」
俺は今度こそおしまいとばかりに、ユーリの手を引きながら教室を出た。
俺を射殺すような視線を送る、芹沢を無視して。
◇
「ふう……いや、余計なまねして悪かった!」
廊下に出るなり俺は軽く溜息を吐くと、ユーリに深々と頭を下げた。
「え!? イヤイヤ、そんな謝ったりしないでよ! だって……ヤマトは私のこと心配してくれたんでしょ?」
「……心配っつーか、ユーリを悪く言われて、腹が立って……」
俺はユーリに申し訳なさ過ぎて、顔を上げられない。
ハッキリ言ってこんなの、ユーリの気持ちも無視して一方的に俺の感情だけで動いて……。
すると。
「も、もう! ヤマト、顔を上げてくれないといい加減怒るよ!」
「ええ!? だ、だけど……」
「だけどじゃない!」
謝ってるのに、むしろ怒られた……。
仕方なく、俺はおずおずと顔を上げると……なぜかユーリは顔を上気させ、瞳が潤んでいた。
「ヤマト……私ね、あの二人に絡まれた時、キミが真っ先に飛び出してくれて、ああやって私のために怒ってくれたこと、すごく嬉しかった」
「あ、お、おう……」
「しかも、知ってる? あの時、二人のファンのクラスメイト達が、全員ヤマトのこと睨んでたよ?」
「へ? そ、そうなの?」
うーん、クラスメイト達を敵に回したか。
ま、関係ないけど。
「なのに、そんなのお構いなしに私の擁護なんかして……こんなの、もっともっとキミのこと、好きになっちゃうよ……」
「う、うん……」
ああモウ! 『もっともっと好きになっちゃう』だって!? そんなの、むしろ俺のほうがだよ!
——キーンコーン。
「あ、もうHRの時間か」
「そうだね。じゃ、教室に戻ろ?」
そう言うと、さっきとは反対に、今度は俺がユーリに手を引かれて教室へと戻った。
お互い、満面の笑みを浮かべながら。
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次話は明日の夜更新予定です!
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