久坂大和と中岡悠里は芹沢悠馬と藤堂エルザに絡まれる。
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「アレ?」
「何だか騒がしいね……」
俺とユーリが教室に向かうと、なぜか教室の前に人だかりができていた。
「キャー! 見た見た!? アレ、私に手を振ってくれたのよ!」
「違うわよ! 私に決まってるでしょ!」
「「「「「キャー!」」」
うお!? うるせえ!
つか、出入り口にそんなにたむろされると、中に入れねーんだけど!?
「うーん、掻き分けて無理やり……って、ユーリ?」
見ると、ユーリは人だかりの中にいる女子生徒の一人に声を掛けていた。
「ねえねえ、うちのクラスで一体何があったの?」
「それがすごいのよ! 何と! このクラスにあの“沖田晴斗”がいたのよ!」
あー、芹沢の奴、とうとう正体がバレたのか。
まあ、昨日のあのポンコツアイドルとの茶番を見れば、こうなることも時間の問題ではあったけれども。
「ねえねえ、“沖田晴斗”だって」
「おう、そうだな」
話を聞いて戻ってきたユーリが、さして興味もなさそうに話題を振ってきたので、俺も同様に気のない返事した。
「でも、“沖田晴斗”が教室にいるってことは、またうちのクラスに転校してきたのかな?」
アレ? ユーリは“沖田晴斗”が誰なのか、知らないのか?
うーん……まあ、幼馴染って言われるのを極端に嫌ってたし、芹沢の正体を知らないのも、なくはないか。
「と、ところで、ユーリは“沖田晴斗”っつーか、芸能人とかには興味ないのか?」
俺は何となくユーリに尋ねる。
や、だって、一応“沖田晴斗”の正体は芹沢なわけだし、やっぱり俺なんかより芹沢のほうがいいと言われたら……って、考えたら暗い気持ちになってきた……。
「へ? 私?」
「お、おう……」
「うーん、別に興味ないかなあ。結局はテレビの向こう側とかにいる人種だし。といっても、同じクラスにとうとう二人も芸能人がいることになるけどね」
「はは、ま、まあな」
ユーリの答えに、俺はホッと胸を撫で下ろす……って、ユーリの奴、何で俺の顔を覗き込んでるんだ!?
「じー……」
「な、何だよ……」
俺はユーリに見つめられ、思わずドキッとする。
「うん! やっぱりヤマトのほうが、“沖田晴斗”なんかより何倍も素敵だよ!」
「な、なあああああ!?」
満面の笑みでそう語るユーリに、俺は思わず仰け反った。
い、いや、いきなりそんなこと言うの、反則だろ!?
「そそそ、そんなことねーよ!」
「あるよ! ヤマトのほうが断然カッコイイ!」
く、くそう……必死で否定してるのに、なおも食い下がってきやがる……って。
「お、おい!」
「へ? モゴ!?」
俺は慌ててユーリの口を塞ぐ。
だ、だって……周りの女子達が、すごい形相で睨んでるんだもん……。
「プハ! も、もう! イキナリ何するんだ!」
「ユーリ! 周り! 周り!」
「周りって! ……あ」
うん、ユーリも気づいたようで、自分の口を慌てて塞いだ。
「と、とりあえず、教室の中に入ろうぜ……」
「そ、そうだね……」
俺達は人混みを掻き分けて、すごすごと中に入る。
すると、窓際の一角は、それこそすごいことになっていた……クラスの女子達で。
「ちょ、ちょっと! 何ですか皆さん!」
昨日転校してきたばかりの藤堂エルザが、怒りの形相で芹沢の周りに群がるクラスの女子達を追い払う。
まあ、ここまで見事な掌クルリを見せられたら、そうなるのも頷けるけど。
「ふーん……つまり悠馬が“沖田晴斗”、ねえ」
ユーリは一言そう呟くと、後は興味がないとばかりに自分の席にカバンを置いた。
え? それだけ?
「やあ、悠里。おはよう」
窓際の席からスッ、と立ち上がり、さわやかな笑顔を見せながら、芹沢がユーリの元にやってきた。
そして、それを露骨に顔をしかめながら睨むユーリ。うわあ……。
「ハイハイ、おはよう」
ユーリは面倒臭そうに手をヒラヒラさせる。
つか、これってむしろ、シッシッと追い払ってるみたいに見えるのは気のせいか? 気のせいじゃないな。
「悠里……これが、僕の本当の姿、だよ」
「へー」
まるで勝ち誇るようにユーリにそう告白する芹沢。
それを空気のように扱うユーリ。
うん、なんかシュール。
「晴斗……いえ、悠馬さん、あなたのような方が相手にする必要はありません」
すると、ス、といつの間にか藤堂エルザが芹沢の隣に現れ、ユーリを親の仇とばかりに睨みつける。なんで?
「中岡悠里さん、でしたでしょうか?」
「そうだけど?」
ユーリは怪訝な表情で藤堂エルザを見つめる。
今まさに一触即発の状態だ。
……俺も止めに……って。
「ん? 斎藤?」
「まあまあ、とりあえず見てみようじゃないか」
ユーリの傍に行こうとした俺の前に突然斎藤の奴が現れ、遮るように手で制した。何だコレ。
「では、“中岡さん”と呼ばせていただきます。あなたは、あろうことか悠馬さんの幼馴染であるにもかかわらず、あえて“沖田晴斗”としての正体を隠されていた彼をぞんざいに扱い、彼を貶めた……間違いありませんね?」
「は?」
藤堂エルザの言葉に、ユーリはキョトンとした。
や、そうなるよな。
「それだけじゃありません。あなたの一連の行動がクラスメイト達を増長させ、悠馬さんをこのクラス内で孤立させた」
「えー……それは悠馬や他のクラスメイトが勝手に「違います!」」
顔をしかめながら面倒臭そうにユーリが何か言おうとしたところで、二の句を告げさせないとばかりに藤堂エルザが遮る。
「今まで悠馬さんがつらい思いをしてきたのは、ひとえにあなたが原因です! 私は……私は、あなたを絶対に許さない!」
藤堂エルザはユーリを指差しながら叫んだ。
「おい……斎藤どけ」
「む……」
俺はグイ、と斎藤を押し退け、ツカツカとユーリの元へ向かった。
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