久坂大和は中岡悠里と下の名前で呼び合う。
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「ふんふんふ~ん♪」
俺は今朝もいつもどおり、鼻歌交じりに朝食の準備をする。
なお、今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、サラダ、コーンポタージュスープという定番メニューなのだ。
「そういえば、中岡の家の朝食は和食はなのかなあ……」
うーん……中岡の家が和食派だったら、これからはうちも和食メニューを増やしたほうが……って、何で中岡がうちの朝メシ食う前提になってんだよ。
そうだよ。さすがに朝から俺ん家で中岡が朝メシ食うなんてことねーんだから、余計な心配ってもんだろうが。
いや、マテ。
万が一うちに泊まりに来たりしたら、その場合は朝メシを食う訳だから……うむ、これは中岡に確認しておいたほうが……。
「……お兄、キモチワルイ」
「ん? おお、文香、おはよう。ところで、朝イチからキモチワルイってのはどういうことだ!?」
「……何言ってんの? 浮かれるのはいいけど、チョットは今の自分の顔、鏡で確認したほうがいいと思うけど?」
文香が朝からジト目で俺を見ながら悪態を吐く。
む……何を言ってやがる。
俺は別に浮かれてなんか……は、いるけど。
「つ、つか、別に浮かれるくらいいいだろーが」
「はあ……でも、悠里さんがその顔見たら、絶対に引くと思うけど?」
「ナ、ナヌ!?」
オ、オイオイ!? そこまで俺はヒドイ顔してるのか!?
俺は不安になり、慌てて洗面所に駆け込んで鏡を見る……別に普通じゃねえか。
「何だよ、元々俺はこんな顔だったぞ?」
「……はあ」
文香がとんでもなく深い溜息を吐く。
まあいいや。
「とにかく、早く朝メシ食っちまえ。今日は遅れる訳にはいかねーんだ」
「へ? 何かあるの?」
「おう」
実は昨日、寝る前に中岡からRINEが来たんだよなあ。
『明日は一緒に学校に行こうよ! 七時五十分に駅の改札前集合だからね!』
可愛いウサギのスタンプと一緒に送られて来たもんだから、俺は興奮して寝不足なのは内緒だ。
「へーえ、ほーお、今日は悠里さんと一緒に登校するって訳ね」
「な、何で分かった!?」
「丸分かりだっての。それより、悠里さんに嫌われるようなこと、しちゃダメだからね!」
「する訳ねーだろ!」
全く……もし中岡に嫌われでもしたら、引きこもって今後一生二次元しか恋人作らねー自信があるぞ。
「つか、もうこんな時間じゃねーか! 早く! 早く!」
「もー! だったら今日の後片づけは私がやっとくから、お兄はさっさと行きなよ!」
「何ですと!?」
い、今まで家事炊事を全くしたことがない文香が、自分で朝食の後片づけをする……だと……!?
「お、お前……正気、か……?」
「うっさい! だったら待ち合わせに遅れて、悠里さんにフラれらたらいいのよ!」
「それは困る!」
ク、クソ! 仕方ない、今日は文香に後片づけを任せ、俺はサッサとメシ食って駅に行くぞ!
俺は朝メシを無理やり口に詰め込み、牛乳を一気飲みして流し込んだ。
「げふう」
「お兄汚い!」
うっせ、俺は急いでるんだよ!
そして俺は洗面所に駆け込んで、急いで歯磨きして身だしなみを整えると。
「んじゃ、俺は行くぞ! 戸締り忘れるなよ! ガスの元栓ちゃんと締めろよ!」
「もー! 分かってるよ! それより!」
玄関のドアノブに手を掛けている俺に、文香がビシッと指差した。
「悠里さんとちゃんと仲良く! だからね!」
「っ! おう! もちろんだ!」
俺は文香にサムズアップすると、家を出て急いで駅に向かった。
◇
「あ! おーい!」
駆け足で駅に着いた俺は、待ち合わせ場所の改札前に……って、まだ時間じゃないよな!?
なのに、なんで中岡がもういるんだ!?
「お、おう、おはよう。つか、まだ七時半だぞ!?」
「えへへー、待ちきれなくて早く来ちゃった」
そう言いながら、中岡がはにかんだ。
ああもう! 何だって朝からそんな可愛いんだよ!
「そ、そか」
「そういう久坂だって、こんな時間に来ちゃって。ひょっとして、私に早く逢いたかったのかなあ?」
中岡が悪戯っぽい笑みを浮かべながら、上目遣いで俺の顔を覗き見た。
そんなこと聞かれても、答えなんて一つしかないんだけど。
「ああ、そうだよ。俺は早く中岡に逢いたくて、急いで来たんだ」
「ふああああああああ!?」
俺がそう言うと、そんな話を振った中岡のほうが顔を真っ赤にして変な声を上げた。
全く……俺は惚れた女の子にはストレートで言う主義……というか、二次元だと素直に言わないと好感度下がるからな……って、ひょ、ひょっとして!?
「あ、な、中岡……ひょっとして、ここは照れくさそうにするか、ツンを発揮するのが正解だったりするのか!?」
「ふああああ……って、何言ってるの!?」
「あ、や、素直に伝えないほうが良かったのかなあ、と……」
すると。
「そ、そんなわけないよ! も、もちろん……そうやってハッキリと言ってくれたほうが、その……う、嬉しいよ……?」
「はう!」
な、何だよ、その顔を真っ赤にしながらモジモジして……。
あーモウ! こんな可愛い女の子がホントに俺の彼女なのかよ! 最高かよ! 夢じゃねーだろうな! ……うん、痛いから夢じゃないな。
「そ、それなら良かった……その、お、俺、二次元以外で好きになった女の子、中岡だけだから、これが正解なのか、その、よく分かんねーんだ……」
「あ、う、うん……私も久坂が初恋の人だから、その……世間一般がどうかは知らないけど、私はそれでいいと、思う……」
「お、おう……」
「え、えへへ……」
あーチクショウ、こんなに恥ずかしかったりドキドキしたりするのに、何でこんなに幸せなんだよ!
「そ、それじゃ、そろそろ学校行こうよ!」
「あ、そ、そうだな!」
俺達は駅前で身悶えるのを止め、ようやく学校に向けて歩き出した。
「あ、そ、それで、今日も弁当作ってきたんだけど……」
「ホントに? やったー! 久坂の弁当だー!」
嬉しそうに満面の笑みで元気にガッツポーズする中岡を見て、俺もつい顔がほころぶ。
「だけど、昨日みたいにもし弁当「今日は持ってきてないから大丈夫!」お、おう、そうか」
うん、最初から中岡は俺が弁当をつくってくるのを予測済みか。
「そ、それよりさ……その……」
「? 何だ?」
急にモジモジしながら俺をチラチラ見る中岡。
何か頼み事でもあるのかな?
「ええと……俺にできることなら何だってするぞ? 俺は中岡のためだったら……」
「ふあ!? あ、いや、その、そんな大したことじゃないんだけど……」
「だったらなおさらだ。何でも言ってくれよ」
俺はそう宣言すると、中岡の顔を覗き込む。
すると、中岡が顔を逸らしながら恥ずかしそうに……。
「な、名前……」
「? 名前がどうかしたか?」
「久坂のこと……“ヤマト”って呼んでも、いい?」
「な、なああああ!?」
な、名前呼び……だと……!
や、そりゃあ嬉しいかどうかって言ったら、嬉しいに決まってるし、しかも、何だか恋人同士みたい……って、恋人同士だった!
と、とにかく!
「お、おう……もちろんいいぞ……!」
「ホント、に……?」
俺が首肯すると、中岡がパア、と嬉しそうに俺に聞き返す。
「た、ただし!」
「え!? た、ただし!?」
「そ、その……俺も中岡のこと、“ユーリ”って、呼んでも、その、いい、か……?」
そう言うと。
「っ! も、もちろんだよ! うわあ……嬉しいなあ……!」
「おう……嬉しいな……」
「えへへ! “ヤマト”!」
「な、何だよ“ユーリ”」
俺達はそうやって嬉しそうにお互いの名前を呼び合いながら、校門をくぐった。
……教室から覗く、一つの視線に気づきもしないで。
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