久坂大和と中岡悠里は決して切れない”絆”を紡ぐ。
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「ぐす……わ、悪い……」
俺はひとしきり泣いた後、ふ、と抱きしめる力を弱め、背中をポンポンと叩いて合図した。
「ん……久坂、落ち着いた……?」
「あ、ああ……」
中岡が抱きしめる胸の中から俺の顔を覗き込むと、俺はその綺麗な瞳に吸い込まれそうになって、頬が熱くなった。
「そ、それで……久坂は……答え、出た……?」
中岡が不安そうに尋ねる。
だけど、もう俺の中で答えなんて一つしかなかった。
そんなの、もうこの答えしか選びたくなかった。
「……俺は、中岡悠里……君が好きだ。君さえ迷惑じゃなかったら、その……俺、家事とかしながらだから時間もないし、他の奴等みたい学校帰りに、寄り道しながらデートとか、できないかも、だけど……って、わ!?」
俺がそこまで言うと、中岡がまたもやグイ、と俺の胸襟をつかんでその顔を寄せた。
俺は至近距離で見る中岡のその可愛い顔に、思わずどぎまぎしてしまう。
「久坂。家事なんて、私と二人ですればあっという間に終わっちゃうよ。それに、別に寄り道デートなんかしなくても、そ、その……おうちデート、いっぱいできるから……」
「あ……う、うん……」
「だ、だから……その……」
中岡がここまで言ってくれたんだ……ここで……ここで言わなきゃ、どうするんだよ!
「な、中岡悠里、さん……こんな俺で良ければ、その、付き合ってください……!」
「っ! ……うん……嬉しい、です……」
俺のなんとも間抜けな告白だけど、それでも中岡は涙をぽろぽろ零しながら、笑顔で頷いてくれた。
「あ、そ、そうだ! これ!」
俺は思い出したかのように左手薬指の指輪を外すと、中岡に差し出す。
「こ、これって……お母様の形見でしょ!?」
「ああ……母さんからも言われてたんだ。『これから先、大和が家族と同じくらい絆を結びたいと想った人が現れたら、その指輪を渡しなさい』って。俺は……中岡と家族にも負けない“絆”を結びたい。だから、その、中岡に……受け取って欲しい」
そう言うと、俺は中岡の左手を取り、そして……その薬指に、その指輪をはめた。
「あ……」
「あ、あはは……俺がつけてたから、サイズが全然合わねーな。ま、また今度、一緒にサイズを直してもらいに行こうぜ」
「う、うん! ……うん……嬉しい、よお……!」
中岡は涙を零しながら、左手を胸に抱くようにキュ、と握り締めた。
「そ、それじゃ、その……よ、よろしくお願いします……」
「はい……」
俺と中岡は、お互い見つめ合いながらぺこり、と頭を下げた。
「はは」
「あはは」
そして、どちらからともなく、笑い声が零れる。
「って、もうこんな時間じゃねーか! 早く帰らないと、中岡のご両親も心配しちまう……「だ、大丈夫だよ!」」
俺が焦ってそう言うと、中岡はなぜかそれを否定した。
「な、何でだ? 普通、中岡みたいな女の子だったらこんな夜遅く、心配するだろ?」
「あ、あはは。ちゃんと久坂の家でお呼ばれするってお母様には伝えてあるから」
「そ、そうか……?」
「そうそう」
ま、まあ、中岡ん家がいいってんなら、いいんだけど……。
「そ、それより、さあ……実は私も、久坂に言わなきゃいけないこと、あるん、だ……」
「言わなきゃいけないこと?」
中岡がくるり、と俺へと向き直ると、上目遣いでそんなことを言った。
一体なんだろう……。
「ええと、それって?」
「あ、うん……これ……」
中岡は制服のポケットから綺麗な布の包みを取り出すと、それを開いて…………あ。
「え? コレ……」
それは、小学校の名札だった。
名札に書かれていたのは、『五年二組 久坂大和』という文字。
「……私もね、久坂に救われたの」
「俺、に……?」
俺は中岡がなぜ俺の小学校の時の名札を持っているのか、なぜ俺に救われたというのか、それが全く理解できなくて頭の中が混乱する。
「うん……私が両親に絶望して、一人公園で泣いていた時……久坂、キミが私の前に現れたの」
「え? えーと……」
そ、そんなこと、あったっけ……?
「そして、こう言ってくれたよ?」
『決まってんじゃん。お前の父さんも母さんも、お前のことなんか嫌っちゃいないと思うぞ』
『自分の子どもが嫌いな親なんて、絶対にいねーよ! だったら、お前は自分の父さんや母さんとちゃんと話をしたのか? お前がつらいこと、悲しいこと、ちゃんと話したのか?』
『だったら簡単じゃねーか! 今からでも話せばいいじゃねーか! 直接逢えないんだったら、電話だってすればいいだろ! ほら!』
「……って」
「あ……」
思い出した。
あれは、俺が母さんの病院にお見舞いに行く途中で、同い年くらいの女の子が公園で泣いていて……。
その時の俺は、母さんが病気で苦しそうでも、それでも、いつも俺に微笑んでいてくれて。
だから、その女の子が両親が自分のこと好きじゃないって泣きながら言った言葉を否定したくて、そんなことないよって、教えてあげたくて。
だから俺もむきになって、無理やり電話を掛けさせたんだった……。
「あ、そ、その……あの時は強引な真似して、悪かった……」
「あ、ち、違うよ! 私はあの時、久坂が私の背中を押してくれたお蔭で、お母様と気持ちを通わせることができて! あのことがあったから、今でも私は、お母様のことが大好きでいられるんだから!」
俺が頭を掻いて謝ろうとしたんだけど、中岡は焦った表情で手をわたわたさせた。
「と、とにかく……久坂は私にとって、颯爽と現れて泣いている女の子を助ける、本当のヒーローなんだ。それは今でもそう思って……ううん、久坂はそれ以上に素敵な男の子になってた」
「そ、そうか……なんだか照れくさいな……」
「え、えへへ……だけど、やっと名札を久坂に返せるよ」
そう言うと、中岡が名札を俺の前に差し出した。
「ああ……確かに受け取ったよ」
「うん……」
俺は名札をギュ、と強く握りしめた後、ポケットにしまった。
「さーて……んじゃ、今度こそ帰ろうぜ」
「うん!」
で、俺達は再び駅に向かって歩き出すんだけど……。
「ふあ……!」
俺は、中岡の手をキュ、と握った。
「い、行こうか……」
「うん……」
そして、俺達はお互いの手を握り合いながら、幸せな気持ちで中岡の家を目指した。
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