久坂大和は中岡悠里に救われる。
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「……母さんが死んだあの日、母さんの最後の言葉を受けて俺は心に決めたんだ。俺が文香を大人になるまで、絶対に一人前に育てるんだって。この家を、俺が守るんだって」
俺は中岡を見つめ、すう、と息を吸った。
「だから、文香が大人に……幸せになれるまで、俺は自分が恋愛をしている暇なんて、そんな時間なんてないんだ」
俺はまるで中岡を拒否するかのように、語気を強めてそう言い放った。
「そ、そういうことだから……」
そして、俺は中岡から視線を外すと、また駅へと向かおうとする。
だけど。
「じゃあ……じゃあ、どうして久坂は私を晩ご飯に誘うんだよ!? どうして私を突き放そうとしないんだよ!? 恋愛ができないなら……暇がないなら、私なんて無視するなり放っておくなり、すればいいじゃないか!」
中岡は俺の前に躍り出て、声を荒げる。
その瞳は、涙で溢れていた。
何だよ……何だよ……!
「何だよ! 俺の気持ちも知らないで! ああそうだよ! 俺だって中岡のことが好きだよ! 恋愛なんて浮ついたものはしちゃいけないからって二次元だけに頼った俺が、そんなのどうでもよくなるくらい、俺はお前のことが好きだよ!」
俺は中岡の言葉にかあ、となり、気がついたら人目もはばからずに大声で叫んでいた。
中岡と同じように、思い切り涙を流しながら。
「だけど……だけどなあ! 俺は家のことも、文香のこともこなさなきゃいけないんだ! 守らなきゃいけないんだ! だったら……だったら、お前に家に来てもらうしか、一緒にいられる方法がないじゃないか……文香が幸せになるまで恋愛できない俺が、お前の想いに応えられるわけ、ないじゃない……かあ……」
俺は自分のこのどうしようもない感情のやり場に困り果て、拳を強く握りしめながら、ただ涙を零して俯いた。
すると。
「久坂」
中岡はいつの間にか俺の傍に来て、泣き腫らした目で俺を下から覗き込む。
「なんで、そんな一人で抱え込むんだよ……だったら、誰かに頼ればいいじゃないか……」
「頼るって? 誰に? 親父だって仕事で忙しくて家のことなんて面倒見れねーよ! 親戚だって、母さんが死んでから誰も相手にしてくれなかったよ! 無責任なこと、言うな……」
俺は中岡の言葉に苛立ちを覚え、吐き捨てるようにそう言った。
だけど。
「ここにいるじゃないか! 私がいるじゃないか! 確かに私は料理が下手だし、キミと同じ高校生で頼りないかもしれない……だけど! 私はキミの……久坂大和のためだったらなんだってできるんだ!」
中岡は俺の胸倉をつかんでグイ、と俺を引き寄せると……鼻が触れ合うほどの距離で、大声で訴えた。
「……お前、なんでそんなこと言い切れるんだよ……それに、なんで俺なんかのために、お前はそこまでしようとするんだよ……」
俺は、涙の奥で見せる中岡の凛とした瞳に耐えられなくなり、ぷい、と顔を背ける。
俺には……苦し紛れにそう言葉を返すのが精一杯だった。
「そんなの、決まってるよ……キミが……久坂大和が、世界中の誰よりも大好きだから」
「っ!」
ああ、チクチョウ……なんだよ……なんなんだよ……。
せっかく今まで、俺は一人で頑張ってきたのに。
誰にも頼らないで……俺の全部を捨てて頑張ってきたのに。
なのに……なんでそんなに、お前はあっさり俺の中に入り込んで、そうやって俺を受け止めてくれるんだよ……!
そんなの……そんなの……!
「っ!」
気がつくと、中岡が俺を抱きしめていた。
「……久坂、偉いね。今までそうやってお母様の言葉を大切に守って、一人で文香ちゃんや家庭を支えてきたんだね」
中岡が俺の背中を優しくさする。
「私はね……そんな優しい久坂だから、好きになったんだよ? そんな素敵なキミだから、キミを支えたいって、そう思ったんだよ? だから……だから一緒に……二人で、頑張ろ?」
「中岡……中岡……」
俺は中岡をギュ、と抱きしめ返すと、その力をさらに強くする。
華奢な中岡が、壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに。
そして。
「うう……うあ……うあああああああああああん!」
俺は泣いた。
まるで子どものように、大声で泣き叫んだ。
今までの俺が、報われたような気がして。
今までの俺を、認められたような気がして。
俺は今日……中岡悠里という最高の女の子に、救われた。
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次話は明日の夜更新予定です!
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