久坂大和は自分の想いに気づく。
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「遅いなあ……」
「遅いねえ……」
俺達はリビングにある時計を眺めながら、何度目か分からない呟きを交わしていた。
だけど、もう夕方六時半だぞ……。
「うーん……何かトラブルでもあったのかなあ……」
「どうなんだろ……お兄、悠里さんにRINEしてみたら?」
むむ、文香の奴、中々ハードルの高いオーダーを。
「ま、まあ、会議中だったりしたら逆に迷惑になるだろうから、とりあえずは止めておいたほうが……」
「ていうかお兄、さっきからそんな言い訳ばっかりして、全然悠里さんにRINEしようとしないじゃん!」
おおう……痛いところを突かれた。
お、俺だってRINEしたいけど、何というか、その……は、恥ずかしいというか、照れくさいというか……。
「はあ……お兄がモジモジしたところで、需要は皆無だよ」
「ヒドイ」
まあ、そんな軽口はこの程度にして……中岡、本当にどうしたんだ?
万が一トラブルとかに遭ってるんだったら……?
「……悪い文香、俺、ちょっと出てくるわ」
「あ、お兄……うん、もし入れ違いで悠里さんが来たら、すぐに連絡するから」
「頼む」
そう言うと、俺はマウンテンパーカーを羽織って玄関に向かう。
その時。
––ピンポーン。
「「あ」」
俺達は慌ててインターホンのモニターを確認する。
すると、中岡が一階ロビーのドアの前でモジモジしながら、落ち着かない様子で立っていた。
「はは、遅いぞコノヤロウ……文香、下まで迎えに行ってくる!」
「ハイハイ、いってら」
俺がそう言うと、文香はニヨニヨしながら手をヒラヒラさせた。
俺は靴を履いて急いで一階ロビーへと向かい、そして。
「ゴ、ゴメン! 遅くなっちゃった!」
「お、おう! ま、まあ、早く家に入ろうぜ!」
ヤベ、ちょっと声が上ずった。
へ、変に思われたりしてないかな……。
俺はチラリ、と中岡の様子を窺うと……あ、中岡め、なんだよ口元緩めやがって……可愛いぞチクショウ。
そんな中岡にドキドキしながら、俺達は家に入った。
「悠里さんいらっしゃい!」
「文香ちゃん! 遅くなっちゃってゴメンね! あ、そだ、これ……」
嬉しそうに出迎える文香に、中岡は手に持っていた紙袋を手渡した。
「あ、これ! ステラのケーキじゃん! うわあ、ありがとう悠里さん!」
「えへへー、晩ご飯食べたら、みんなで一緒に食べよ!」
「うん!」
おーおー、二人とも仲がよろしいこって。
「ま、すぐにコロッケ揚げるから、その間、中岡はリビングでくつろいでて」
「え? 私も手伝うよ?」
「えー、料理をか?」
「ち、違うよ! それ以外にすることだってあるでしょ!」
「ま、ごもっともだけど……ホラ、一応お客さ「ち、違うもん!」」
俺が気遣ってそう言ったのに、中岡は気に入らないのか、全部言い切る前に頬を膨らませて否定した。
「わ、私は“お客さん”なんかじゃ、ないもん……」
そして、少し悲しそうな表情を浮かべて、中岡は俯いてしまった。
はあ……ああもう。
「そうだな、お前はもう俺のメシを食った仲だもんな。確かに、そんな他人行儀はなかった」
俺が少し苦笑しながらそう言うと、中岡は途端にパア、と満面の笑みを浮かべた。
「う、うん!」
ああクソ、認めるよ。
俺は、どうやらこの中岡悠里って女の子を……好きになっちまったみたいだ。
「そ、それじゃあ、俺がコロッケ揚げるから、ごはんと豚汁よそってもらったりしていいか?」
「任せて!」
そう言うと、中岡は文香に器の場所なんかを確認しながら、テキパキと準備を進めていく。
いや、料理を作ること以外はマジ優秀だな……って、俺もボーッとしてないで、コロッケ揚げちまうか。
◇
「「「ごちそうさまでした!」」」
俺達は晩メシを済ませ、全員で手を合わせた。
「ふああああ……コロッケ、美味しかったあ……」
中岡が蕩けるような表情で、コロッケの余韻に浸っている。
はは、本当に作り甲斐のある奴だな。
「中岡が食べたくなれば、コロッケの百や二百、いつでも作ってやるよ」
「ふああああ!?」
俺がそう言うと、中岡が顔を赤くして手をワタワタさせた。
ああ……可愛いなあ。
「へえー、お兄もいよいよ……?」
文香がニヤニヤしながら何か呟いてるけど、無視だ無視。
「そ、それより! せっかくケーキ買ってきたんだから、早く食べようよ!」
恥ずかしくなったのか、中岡は話題を変えるためにそんなことを言った。
「おう、そうだな。じゃあ俺はコーヒー……っと、中岡は紅茶でいいか?」
「うん!」
「お兄、私には聞いてくれないの!?」
文香が、自分に聞かれなかったことに抗議の声を上げるが……。
「どうせお前はコーラだろうが」
「そ、そうだけど! 私だけ聞かれないのは除け者にされた気分よ!」
「あー、ハイハイ」
俺はぷりぷりと怒る文香に適当に返事すると、中岡がなぜか羨ましそうな表情をして文香を眺めていた。
あー……そういうことか。
「中岡はケーキの時は紅茶一択なのか?」
「ふあ!? あ、う、うん。私はミルクティーが好きなんだ」
俺が質問すると、ぼーっとしていた中岡が、慌てて答えた。
「そうか。じゃあ中岡にも、今度から質問する必要ねーな」
「あ……う、うん! えへへ……」
俺の言葉の意図が分かったようで、中岡が嬉しそうにはにかんだ。
そして、俺は中岡が持って来てくれたケーキと飲み物をトレイに乗せてリビングのテーブルに運んだ。
「私はモンブランだからね!」
そう言って、文香が真っ先に手を出す。
「このお子様め」
「うっさい!」
俺がジト目で皮肉を言ってやると、文香はベーッと舌を出した。
「中岡はどれにする?」
「私は……じゃあ、ショートケーキにしようかな」
「そっか、んじゃ俺は必然的にオペラになるな」
そうして、ぞれぞれ中岡が持って来てくれたケーキに舌鼓を打ちながら、楽しい夜を過ごした。
そして……俺は、笑顔の中岡をずっと目で追っていた。
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