中岡悠里は芹沢悠馬に辟易する。
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「悠里……」
久坂の家へと急ぐ私の前に、大嫌いな男……芹沢悠馬が待ち伏せするかのように現れた。
「はあ……何? 私は急いでるんだけど?」
思いつめた表情で私を見る悠馬に、私は溜息を吐いた。
「あ、いや……今日、君が久坂と一緒に仲が良さそうに話をしていたから……」
「それが何? 悠馬に何か関係があるの?」
この男が何が言いたいのか、何が聞きたいのか分からず、私はイライラしながらぶっきらぼうに聞き返す。
「うん……今まで、毎朝風紀委員室に呼び出すほど久坂にきつく当たっていたのに、急にどうしたのかと、その、気になって……」
はあ……本当に、この男は……。
「あのね、私は別に久坂に対してきつく当たっていたりしてた訳じゃないの。それについても誤解が解けたから、もうああやって呼び出したりすることもないだろうし」
そうだよ……だって、久坂とRINE交換したんだもん!
わざわざ風紀委員会室に呼び出さなくったって、久坂とはいつだって……えへへ、嬉しいなあ……。
おっとダメだ。今はそんな余韻に浸る場合じゃなくて、この悠馬を適当にあしらって、早く久坂の家に行かないと。
「とにかく、そういう訳だから私は行くね」
私は悠馬の隣を通り過ぎ、その場を立ち去ろうとして。
「ゆ、悠里!」
悠馬は大声で私を呼び止めた。
「はあ……もう! 何なの! 私は急いで「あの男は……久坂は、君には相応しくない!」……って、ハア!?」
悠馬の久坂を否定する言葉に、私の中で今までにないほどの怒りがこみ上げてくる。
けど、この男はそんな私に対し、お構いなしにさらに言葉をぶつけてくる。
「久坂は校則違反をするようなだらしない男だ! それに、見た目も成績もパッとしない、何も目を見張るものもない! そんな男に、君みたいな清楚で素敵な「ふざけるな!」」
私はこれ以上聞いていられなくなり、悠馬に向かって叫んだ。
「聞いてれば何? アンタみたいなつまんない男に、久坂の何が分かるんだよ! そんなこと言ったらアンタだって、ただの根暗なぼっちじゃないか!」
「っ!?」
私はもう我慢できず、悠馬に次から次へ辛辣な言葉を投げつける。
これまでの鬱憤を全て吐き出すかのように。
「大体、アンタの父親がうちのお父様と仲がいいからって、勝手に幼馴染面するのも止めてよね! しかもアンタ、勝手に私と幼馴染だって言いふらしてるでしょ! 私は迷惑してるの!」
「な!? だ、だって僕達は本当に……「幼馴染なんかじゃない!」」
私はもう止まらない、もう止められない。
「子どもの頃から、アンタは私にとってただの迷惑でしかなかった! 私の行動をアンタは逐一チェックして、それをアンタの父親を通じてお父様に報告して! おかげで私には自由がなかった! 私はしたいことも、やりたいことも、アンタのせいで全部できなかったんだよ!」
「え……ぼ、僕は……僕は君が心配で……! 君のために……!」
「うるさい! 何でもかんでも、私をアンタの行動の理由にするな! とにかく、金輪際私と久坂に近づくな!」
そう叫ぶと、私は踵を返し、今度こそ学校を出ようとする……んだけど。
「だ、だったら! どうすれば……!」
わざわざ私の前に回り込んで、悠馬は訴えるかのように私を見つめる。
けど。
「そんなの知らないよ!」
私は吐き捨てるようにそう言うと、もう追いすがられないように、走ってその場を去った。
「だったら……だったら……!」
不気味な表情を浮かべながらブツブツと呟く悠馬に振り向きもしないで。
◇
「え、ええと……さすがに二日連続でお呼ばれするんだから、手ぶらはまずいよね……」
そう考えた私は、久坂の家に向かう前に、駅前でお土産でも買おうと思ったんだけど……。
「うわあ……目移りするなあ……」
ケーキ屋のショーケースの前で、私は瞳を輝かせながらそのケーキ達を眺めていた。
「うーん、王道のイチゴショートも捨てがたいけど、和栗のモンブランも……いやいや、ここはあえてピスタチオのケーキなんてのも……」
そうやって頭を悩ませていると。
「うふふ、どちらかへのお土産ですか?」
背の高い、ものすごく綺麗なお兄さんに声を掛けられ、思わずドキリ、とした。
「は、はい……その、友だ……彼氏の家に……」
あああ……嘘吐いちゃった……。
で、でも! 私が久坂と付き合ったら、嘘じゃなくなるから、その……い、いいよね……?
などと、心の中で誰に対してなのか分からない言い訳をしていると。
「まあ! そうなんですね! でしたら、ケーキもいいですけどこちらの……」
そう言って、綺麗なお兄さんが色々とアドバイスしてくれたので、私はそれを聞き入れて、イチゴショート、オペラ、モンブランとクッキーの詰め合わせにした。
「すいません、それでは包装をお願いします」
「うっす」
私と同い年くらいの男の子が、お兄さんからケーキとクッキー詰め合わせを受け取ると、綺麗にラッピングしてくれる。
その間、お兄さんはジッと男の子を柔らかい表情で眺めていた。
……あ、この店員さん、お兄さんじゃなくて“お姉さん”だ。
それが分かった瞬間、私は平静を装うものの、心の中で平身低頭していた。
「「ありがとうございましたー!」」
店員さん二人に見送られ、ケーキ屋を出た私は、足早に駅に向かう。
ちょっと遅くなっちゃったな……。
でも、二人とも喜んでくれるといいな。
私は久坂の家までの道中、そんな風に色々と思いを巡らせていた。
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