中岡悠里は大嫌いな男に待ち伏せされる。
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あの後、家に帰った私はお母様の帰りを待っていると。
「悠里!」
「お母様!」
帰ってきたお母様は私の部屋に駆け足でやってくるなり、私を強く抱き締めてくれた。
「悠里……悠里……ごめんなさい……!」
「お母様……お母様あ……!」
私達は涙を流しながら抱き合う。
「さあ……一緒に晩ご飯、食べましょ?」
「はい!」
私とお母様は一階のリビングへ向かうと……そこには、頬を腫らして正座をするお父様がいた。
「お、お父様……?」
「あの人のことは気にしなくてもいいわ。それより悠里、お寿司を買ってきたから早速食べましょう」
そう言うと、お母様はお父様を蔑むような目で見てから、寿司桶の蓋を取った。
「さあさ、どんどん食べなさい!」
「う、うん……」
私はチラリ、とお父様を見るけど……お父様はただガックリとうなだれていた。
「ふふ、あなたはあのゴミのことなんて気にしなくていいの。それより、早く食べましょ。そして、あなたの話を一杯聞かせてちょうだい」
「は、はい!」
私はお母様の言う通り、お父様のことは気にしないように心がけながら、お母様といろんなことを話した。
そして。
「悠里……お稽古事もつらかったら止めてもいいし、あなたが本当にしたいことを思いっきりしなさい。私は、あなたを応援するわ」
「お母様……」
お母様は柔らかい瞳で私を見つめ、そして、微笑んだ。
すると。
「明里、だ、だが、中岡家にふさわし「黙りなさい」………………」
お母様にキッ、と睨まれ、お父様は俯いた。
「誰がしゃべっても良いと言いましたか。大体、婿養子のあなたが、中岡家を語らないでください」
「…………………………」
お母様の一喝に、お父様が肩を震わせて押し黙る。
こうなってくると、お父様が可哀想に思えてくる……。
「ふふ……そんなことより、電話越しに聞こえた男の子の声……あれは誰?」
お母様は私へと向き直ると、少しニヤニヤしながら私を見つめた。
「あ、そ、その……実は……」
私はあの男の子……久坂大和くんのことを話すと、お母様は嬉しそうに微笑んだ。
「そう……悠里は素敵な出逢いをしたのね」
「ですが……私が分かったのは『五年二組』ということと、名前だけで……」
「それだけで充分よ。お母さんに任せて」
そう言うと、お母様がスマホを取り出し、どこかへ電話した。
「私よ……ええ……『五年二組 久坂大和』という男の子を探してちょうだい……ええ……必ずよ……よろしく」
そして、スマホの通話を終えると。
「ふふ、その男の子を探すように言ったから、すぐに見つかると思うわ」
「ほ、本当ですか!」
「ええ、楽しみ待ってなさい」
その後も、私はお母様といろんな話をした。
久坂大和くんとの再会を心待ちにしながら……。
◇
「……けど、結局私は、久坂に逢えなかったんだけどね……」
久坂自体はすぐに居場所が判明したんだけど……。
『悠里……ごめんなさい……大和くんは今、あなたに逢うことができないの……』
お母様に訴えかけるけど、そう悲しそうに話すお母様を見たらそれ以上は言えなかった。
今ならお母様が私を久坂に逢わせなかった理由が分かる。
多分、久坂のお母様はその時に……。
月日が流れるけど、私は片時も久坂のことを忘れることはなかった……ううん、むしろ、私の中で久坂への想いは膨らみ続け……気づけば、久坂は私の全てになっていた。
それからの私は、腰まで伸びていたストレートロングの髪を今のショートボブに変え、言葉遣いも今のようにした。
これは、久坂と再会した時に、彼に純粋な想いで私のことを好きになってもらいたかったから。
そして、今ならそれが正解だってことが分かる。
多分、あの時のことを言えば、久坂は変に気を遣いそうだし、彼のお母様のことだって……。
でも。
やっと……久坂は私を見てくれた……そうだよね……?
私は、久坂のあの照れくさそうに晩ご飯に誘った時のことを思い浮かべていると。
「ん? 悠里、何だか嬉しそうだな?」
気づけば木戸先輩がニヤニヤしながら私の顔を覗いていた。
「へ? そ、そうですか?」
「ああ! ひょっとして、例の男の子とは順調なのかな〜?」
木戸先輩が語尾を少し間延びさせながら尋ねる。
「えっと……はい……」
「「「「「おおー!」」」」」
私がそう答えると、他の風紀委員を含め、みんなが歓声を上げた。
「そうか! 良かったじゃないか! 私も部屋の鍵と校内放送の使用の調整をした甲斐があったよ!」
木戸先輩はじめ、みんなが柔らかい表情を浮かべながら私を見る。
というか、木戸先輩は前に相談していたから分かるけど、なんでみんなが!?
「ホントホント、やっとかーって感じだけど」
「そうそう、まあ悠里は可愛いから、時間の問題だとは思ってたけどね!」
みんながワイワイと私のことを祝福してくれる。
それは嬉しいんだけど……!
「ていうか、なんでみんなそのことを知ってるの!?」
「えー、毎朝毎朝男の子をこの部屋に呼び出してるくせに、分からないほうがおかしいっての」
「そうそう、むしろ全校生徒が気づいてるんじゃない?」
そ、そんな……!
私はその事実に恥ずかしくなり、思わず手で顔を覆った。
「まあまあ、それで、どちらが告白したのかな?」
「ふあ!? こ、告白だなんてそんな……!」
そう答えると、急にみんなが怪訝な表情を浮かべる。
「ん? ……悠里は、久坂くんと付き合うことになったんじゃないのか?」
「ふああああああ!?」
わ、私と久坂が付き合う……付き合う……ふあああああああああ!?
「ま、まだですから!」
「「「「「えー……」」」」」
すると、みんながガッカリした表情を浮かべ、肩を落とした。
「はあ……あそこまで露骨なのに……ひょっとして久坂くんって、悠里のこと何とも想ってな……あ……」
風紀委員の一人がそう言うと、しまったとばかりに口元を押さえた。
「あ、あはは……そ、そんなことないから! ね!」
他の風紀委員がフォローを入れてくれるけど……久坂は、その……でも……。
私は自分の胸襟をキュ、とつかむ。
「だ、だが! 悠里は嬉しそうな顔していたから、それに近いようなことがあったんじゃないのか?」
木戸先輩がまるでフォローするかのようにそう尋ねる。
そ、そうだよ! だって久坂は今日も晩ご飯に誘ってくれたし、そ、それに、私が行くって言ったら、すごく嬉しそうにしてくれたんだから!
「ふふ、どうやら脈はあるようだな」
「そ、そうですよね! う、うん!」
「だったらそんな顔するな。さあて、そろそろ真面目に打ち合わせを再開しよう」
木戸先輩がそう言うと、みんな真剣な表情に戻って打ち合わせが再開された。
ですが……最初に話を振ったの、木戸先輩ですからね?
私は心の中でそう突っ込みつつも、打ち合わせに加わった。
◇
「それでは失礼します!」
打ち合わせが終わると、カバンを持ってすぐに風紀委員会室を飛び出した。
早く久坂の家に向かわないと!
私は逸る気持ちを抑えきれず、靴を履き替えて足早に校舎を出ようとしたところで。
「悠里……」
私の大嫌いな男……芹沢悠馬が待ち伏せするかのように現れた。
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次話は明日の夜更新予定です!
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