久坂大和は中岡悠里を晩メシに誘う。
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——キーンコーン。
今日の授業を全て終了したことを告げるチャイムが鳴る。
さあて、今日もスーパーに寄って晩メシの食材を……っと。
俺はカバンに教科書を詰めて帰り支度をしている中岡へと視線を向ける。
あ……誘えば、またメシ食いにくるかな……。
俺は少し期待を込め、席を立つと。
「よ、よう、中岡……」
気がつけば、中岡の席まで言って声を掛けていた。
「ど、どうしたの?」
中岡は少し驚いた表情で俺を見つめる。
あー……何というか、その……ええい!
「そ、その、お前さ、今日も俺ん家で晩メシ、食ってかねーの?」
「ふあ!? きょ、今日!?」
俺がそう提案すると、中岡はさらに驚いて声を上ずらせた。
そして。
「ゴ、ゴメン……今日は風紀委員会に顔を出さなきゃいけないから……」
「そ、そうか……」
そうかー……中岡、風紀委員会かー……って、なんで俺、こんなにガッカリしてるんだよ……。
「そ、そうだよな……お前が結構忙しいこと、忘れてた……悪い」
「あ……で、でも……そんなに頻繁に晩ご飯食べに行っても、その……大丈夫、なの……?」
すると、中岡は上目遣いでおずおずと尋ねる。
あ……ひょっとして、来てくれるかも? そう思ったら。
「も、もちろん!」
俺は思わず前のめりになり、大きく首を縦に振った。
「あ、そ、そっか……だ、だったら、その……風紀委員会終わってから、家……行こうかな……」
中岡は頬を染め、モジモジしながらそう答えてくれた。
「あ、ありがとう!」
「ふあああああ!?」
俺はその返事が嬉しくて、つい中岡の手を……って、あああああ!?
「あ、いや、その……悪い……」
「あ、う、ううん……」
俺は慌ててパッ、と手を離すと、中岡は後ろ手にして俯きながら首を左右に振った。
「そ、それで、中岡は何か食いたいメニューとかあるか?」
「え? あ、ああ、うん、そうだなあ……」
中岡は首を捻りながら思案顔をする。
そして。
「コ、コロッケ……」
少し恥ずかしそうにしながらそう答える中岡。
あ、ヤベ……可愛い……。
「コ、コロッケな。よし! 任せろ! 超美味いコロッケ作ってやるよ!」
「う、うん!」
俺がそう言うと、中岡は嬉しそうに頷いた。
「じゃ、じゃあさ、風紀委員会が終わったら……って、そ、そうだ!」
中岡は、カバンをゴソゴソ漁ると、スマホを取り出した。
「その……連絡するから、連絡先……」
「お、おお、そうだな」
俺はポケットからスマホを取り出すとRINEを立ち上げ、QRコードを表示させる。
「ホ、ホイ」
「う、うん」
中岡はスマホをかざしてQRコードを読み取ると、画面を見て「えへへ……」とはにかんだ。
——ピコン。
あ……これ……。
俺は画面に表示された可愛らしいウサギのスタンプを見て、思わず口元を緩める。
「そ、それ……私の……」
「お、おう、登録しとく……」
俺は中岡のIDを登録すると、照れくささからか、無造作にスマホをポケットにしまった。
「ん、んじゃ、家で待ってるから」
「う、うん! 終わったら連絡するね!」
「おう!」
俺は手をヒラヒラさせて教室を出ると……クルリ、と振り返る。
そこには、満面の笑顔で手を振る、中岡の姿があった。
◇
「ふんふんふーん♪」
俺は鼻歌交じりに商店街をねり歩く。
さーて……んじゃ、コロッケの材料を買ってくかー。
早速スーパーに飛び込んだ俺は、豚……いや、せっかくだし牛肉にしよう。牛ミンチとジャガイモ、玉ねぎ、キャベツ、プチトマトを買い物かごに入れる。
あー、今日も結構寒いし、豚汁も作ろう。
そう考えると、ニンジン、こんにゃく、ゴボウ、里芋、豆腐、豚肉のこま切れを追加で入れた。
さて、こんなもんか。
俺はレジに並び、会計を済ませると買い物袋に放り込み、少し早歩きで家を目指した。
すると。
「あ、お兄」
「おー」
ちょうど同じく家に帰るところだった文香を見つけると、向こうも俺に気づき、隣に並んだ。
「今日の晩ご飯は何?」
「おう、今日はコロッケに豚汁だ」
「へえー」
おっと、大事なことを忘れてた。
「そうそう、今日も中岡がメシ食いにくるから」
「ホント! やった!」
文香が嬉しそうに小さくガッツポーズした。
や、ホント仲良くなったな。
「あれ? でも悠里さんは?」
「ああ、風紀委員会があるってんで、終わり次第連絡もらうことになってる」
「そっかー」
そう言うと、文香は俺をじっと見つめた。
「ん? どうした?」
「んー、いや、お兄がこんな嬉しそうなの、久しぶりだなって」
「へ!?」
お、俺が嬉しそう!?
だけど……。
「そう、だな……」
俺は嬉しいんだろうな。
いつも中岡とは風紀委員会室に呼び出されては言い争いをしてたけど、俺はそんな毎日が嫌じゃなかった。
それが昨日、中岡が俺の家に待ち伏せして、俺ん家で晩メシ食って、中岡のいろんな表情を見て……そして、可愛いと思っちまったんだ……。
それこそ、向こうの世界にいる奥さん達のことも忘れてしまうほどに。
「……ま、急いで帰ろうぜ。アイツから連絡もらった時にメシできてなかったら、アイツがキレそうだ」
「はいはい」
そんな軽口を言い合いながら、俺と文香は家路に着いた。
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