久坂大和は中岡悠里とランチタイムを楽しむ。
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「だから言ったじゃねーか、面倒だって」
「うん……」
廊下に出ると、中岡は俺の言葉にガックリ、とうなだれる。
「で、でもでも! 私達が行かなかったらケンカになってたのは間違いなかったし!」
中岡は少しでも自分の行動に意味を見出そうとするけど。
「少なくとも俺は全く必要なかったよな?」
「あ、あうう……でも……久坂が一緒じゃないと……(ボソッ)」
「んあ?」
コイツ、今何て言ったんだ?
ま、いいか。
「それより、俺はお前にちょっと聞きたいことがあったんだ」
「え? 聞きたいこと?」
「おう。お前、今日昼メシどうすんの?」
「お昼ご飯? どうするも何も……普通にお弁当食べるけど?」
「だよなあ」
しまったなー……昨日のうちに言うか、あらかじめ連絡先聞いとけばよかったなあ……。
「? どうかしたの?」
「あ、ああいや……ホラ、昨日お前、俺のシチューを美味いって言ってたくさん食べてくれただろ?」
「あ、うん! あのシチュー、美味しかったよね! そ、それと……また晩ご飯、招待してくれるんだよね……?」
そう言うと、中岡はモジモジしながら上目遣いに俺を見つめる。
「おう。ま、今はそれは置いといてだな……その、実はだな……昨日お前が喜んでくれたの見て、つい、その……」
「何?」
「お、お前の分の弁当、作ってきたんだけど……」
「ふあああああ!?」
俺がそのことを告げると、中岡は驚きのあまり声を上げた。
「そ、そんなに驚くことねーだろ」
「だ、だけど! 久坂が私のためにお弁当作ってくれただなんて……驚くに決まってるよ……」
中岡は顔を真っ赤にしながら、胸の前でこちょこちょと指を絡めながら、せわしなく動かしている。
「や、で、でもお前、弁当持って来たんだろ……? だったら「た、食べるよ!」……って、弁当二つも!?」
イヤイヤ、さすがにそれは食いすぎだろ!?
「む、無理する必要はねーぞ? 俺が勝手に「む、無理じゃないから!」……そ、そうか……」
ま、まあ中岡がそう言うなら……。
「で、でもさ、どうして久坂は、私のためにお弁当作ってきてくれたの……?」
どうして? どうしてって……。
「そりゃあお前は、俺の同志だし……」
それに。
「それに、俺の作ったシチュー、あんなに美味しそうに食ってくれたから……その、嬉しかったんだよ……」
あーチクショウ、口に出して言うと恥ずかしいな……。
「う、うん……そっか……だ、だったら、作っちゃうよね……」
「お、おう……作っちまうな……」
な、何だよこの空気……。
これじゃ、さっきのあの二人をバカにできねーじゃねーか……。
「ま、まあそういうことだから、今日は一緒に昼メシ食おうぜ」
「う、うん」
俺達は気まずい空気のまま、お互い顔を合わさないまま教室に戻り、自分達の席に着いた。
◇
「あー、だりー……」
四時間目の授業中、俺は自分の机に突っ伏している。
や、あの二人に関しては、あれから絡む奴もいなくなった……つか、あんなの見せられても絡む奴がいたら、俺が勇者認定してやるけど。
それでも、他のクラスの生徒達が教室に押しかけては、遠巻きに藤堂エルザを見にくるから、落ち着かねーし疲れるんだけど……。
はあ……。
——キーンコーン。
お、やっと昼休みか。
「久坂!」
中岡は待ってましたとばかりにダッシュで俺の席に来ると、満面の笑みを浮かべて机越しに身体を乗り出した。
「お、おう……昼メシ、行くか」
「うん!」
俺はカバンから弁当二つを取り出し、席を立つ。
「で、どこでメシ食う?」
「うーん……中庭でもいいけど……あ、そうだ! 風紀委員会室なんてどう?」
風紀委員会室って……。
「やっぱりそれ、私的濫用じゃねーの?」
「いいのいいの! だって、木戸先輩は好きに使っていいって、いつも言ってくれてるから!」
「あの風紀委員長……」
本当に、委員長自ら風紀の乱れを容認してどうすんだよ。
……ま、いいか。
「んじゃ、風紀委員会室でメシにするか……っと、その前に売店へお茶買いに行っていいか?」
「うん!」
ということで、俺達は売店に向かうんだけど……。
「「げ」」
売店は生徒達で溢れ返っていて、そして、その中心にはあの二人……芹沢と藤堂エルザがいた。
「久坂……」
「仕方ない……今日はお茶無しでメシ食うか……」
俺達は回れ右して一目散にその場から離れ、風紀委員会室に逃げ込んだ。
「あー……チクショウ。アイツ等のせいで……」
「あ、あはは……」
俺は思わずぼやくと、中岡は苦笑した。
「まあいいや。そんなことより」
包みを開け、弁当箱を二つ取り出すと。
「ほい」
俺はそのうちの一つを中岡に差し出す。
おずおずと受け取ると、中岡はゆっくりと蓋を開けた。
「ふああああ……!」
中岡が瞳をキラキラさせながら、感嘆の声を漏らす。
弁当の中身は、玉子焼きに手作りミートボール、鱈の西京焼きに野菜のマリネ、ごはんは俵型のおむすびにしてある。
「ふふん、どうだ? 美味そうだろ?」
「うん! こ、これ、作るの大変だったんじゃないの?」
「別に大したことねーよ。いつものことだ」
「そ、そっか」
中岡は待ちきれないとばかりに早速箸を取り出すと、まずは玉子焼きに箸をつける。
「はむ……」
「ど、どうだ……?」
俺はゆっくり咀嚼する中岡に、期待を込めて感想を催促すると。
「お、美味しい……!」
「ほ、本当か!」
「うん! 甘くてジューシーで出汁が効いてて、こんなのいくらでも食べちゃうよ!」
「そ、そうか!」
俺は中岡の高評価が嬉しくて、思わずガッツポーズする。
「じゃあ次は……ふああああ! このミートボールも甘酸っぱくて美味しい!」
「だろ! だろ! これ、冷凍じゃなくて俺の手作りなんだぜ!」
「うんうん! あ、このマリネも優しい味ー! 箸休めにピッタリ!」
ヤベ、超嬉しいんだけど!
「そしてこの西京焼き! ごはんというか、おむすびが進むね!」
「おう! これも昨日の晩に仕込んだから、ちょっと味が薄いかと心配したんだけど、口にあったなら何よりだ!」
はあ……中岡よ、最高のリアクションだ!
俺はコレが見たかったんだよ!
「美味しいなあ……って、久坂、全然食べてないよ!?」
「お? あ、ああ、お前があんまり美味しそうに食べてくれるから、つい魅入っちまった」
「ふああああああ!?」
や、そんな反応見たら、誰だってそうなるだろ。
「も、もう! 久坂もちゃんと食べなよ!」
「おう……モグ、ん、美味い」
「ねー!」
そんな感じで、俺と中岡は楽しく弁当を食べた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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