表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界平凡冒険者のヒトコマ~本当に平凡なおっさん視点2~

作者: 秋山梢

前作を読まなくても大丈夫です。

 ワイワイとにぎやかな隣の列を横目に見つつ、いつも通りナル婆さんの列に並ぶ。列って言っても俺含め4人しかいないがな。

 このギルドでナル婆さんの列に並ぶのは、新人か俺以上のおっさん、たまにいる女性冒険者だけ。

 基本的にギルド所属の冒険者は、若い男。つまり、パーティーを組んでも男だらけ。

 必然的に受付は若くて可愛らしいエミリアの列が長くなる。

 エミリアって受付に座っむて4年だったか?そろそろ若いって言ってられない年齢だったような。うちの支部、有望な若手って近くの領都にいっちまうから、きっと結婚相手とか見つけにくいんだろ。どんどん化粧が濃くなってるし。うん。やめよう。一瞬、獲物を見つけた暗闇黒虎みたいな視線で見られた。


 ぼんやりと並ぶこと数分。順番がまわってきた。


 とりあえず、こっちの希望依頼がないか聞いてみる。


「ナル婆さん、短期で商人の護衛依頼とかねぇかい」

「ガウス坊や、あんた冒険者でそろそろ25年だってのに依頼書くらい読めるようになりな」


 くっ。さすが婆さん。未だに読み書きが苦手なのバレてやがる!


「別に読めない訳じゃなくて、読むのがめちゃめちゃ遅いだけなんだって」


 一個一個依頼書読む時間があるなら聞いた方が早いから受付に並ぶだけなんだ。


「はあ。まぁ、そういう風にしとくかね。で、短期護衛だって?」

「そそ。なんかある?」

「今は1件あるね」

「おお、どんなのよ?」

「8級以上10人募集で今のとこ7人応募済みだね。目的地領都到着で一括報酬。報酬は1日1銀貨で2日だと銀貨2枚だね。但し予定日必着が条件。依頼主はナーレス商会」

「いつからいつまで?」

「明日朝7の鐘東門集合、揃い次第、又は8の鐘で出発だね。到着は明後日夕刻予定だとさ」


 婆さん、呆れた顔してんな。

 まあ、同意するけどな?

 距離的に馬車で少人数旅行なら、特に問題がなければその日程で行けるさ。

 でもな、低級とはいえ、冒険者10人って事はだ。馬車2台か3台が護衛対象だろ。

 単純に考えて総勢15人、馬4頭、馬車2台。

 魔獣や盗賊に狙われる可能性が高くなる訳だ。

 相手が人なら人数が多ければ、狙いをやめる可能性もあるが。15人じゃ微妙か?見るやつが見れば、護衛が低級だってわかるし。

 それに魔獣相手ならまだ悪い。

 普通の8級の奴らだと、罠や毒使うか、パーティーでせいぜい少数のゴブリン相手ならなんとかか?


 もし、戦闘があれば?もし、戦闘が長引けば?もし、重症者が出れば?


 護衛依頼ってぇのは、道中に不安材料があり、それでも行かなきゃならねぇ場合依頼されるモンだ。今回のやつは料金はいまいち、日程は余裕なし。いわゆる《ハズレ》依頼だな。

 多分、6級とかの中級連中は、引っ掛からないだろ。けど、7や8の奴らはどうかねー。


「おい、婆さん?この領都向け護衛依頼、一応注意だけはしてやってくれよ」

「当たり前さね。ついでにもし受けるなら強行軍になるって教えてやるよ」


 心持ち声を大きめで周りに聞こえるように話す。

 ギルドは依頼消化で発生する仲介料で運営しているのであって、依頼失敗の可能性が高い依頼については奨めない。護衛依頼で人が集まらない場合、依頼料金を返金して依頼を取り下げるだけだ。

 下手な所属冒険者に失敗される方が信用問題になる。

 ギルド的にも所属冒険者的にも仕事は信用第一。安全は第二な。

 普通なら別の依頼受けるわな。


 ただなぁ。


 隣のエミリア。

 やっちまったーって顔してんだわ。

 あぁぁぁぁ。エミリア、そこまで気をまわせてなかった訳だ。コレ、失敗するんじゃねぇか?

 いっくら冒険者は自己責任っても、堅実にやってる奴らなら、今回みたいな2日拘束で銀貨2枚なんて正直マズすぎる依頼受けないべ。

 ってことは、だ。今回受けた奴ら、多分装備とか宿代、カツカツでやってるんだろうしなぁ。

 俺も若い頃常にカツカツだったからなぁ。いや、ここ最近(数年前)までか。

 くそう。

 やりたくねぇ。

 面倒くせえ。


「で、そんなマズい仕事ってわかってるのにガウス坊やは受けるんだろ?」

「・・・・・・婆さん。思考を読まないでもらえるか?」

「ひぇっひぇっひぇ。とっととタグ出しな!」

「全く。あぁぁー。そうだ、領都で買い物しよう!そうだそうだ。今度長い休暇取って帰省しよう。うん。その土産に香辛料買ってこよう!」

「はいはい。わかったから、受注処理は終わったよ!」

「あぁ、んっとにもう。とりあえず、依頼主のところ行ってくるわ。連絡先は?」

「『新月亭』だよ、行っといで。ついでに文句も言っといで」

「駄洒落かよ」

「やかましいよ!さっさと行きなっ!」

「へいへいっと」


 あぁ。苦労しょいこむ癖どうにかしないとなぁ。

 たしかナーレス商会だっけ?

 はっきり言って知らんぞ。そんな商会。少なくともこの街のモンじゃねぇな。

 宿住まいってことはこの街に通りがかった行商って事か。

 報酬セコい。期限短い。その割に募集人員多い。

 なんとなく嫌な予感がするな。


 ギルドから移動しつつそんなことを考えてたんだ。


 あー。『新月亭』ってそういえば、召喚士や操獣士御用達の宿だったわ。

 って気付いたのは到着してから。


 めっちゃ獣臭がする。

 宿自体はキレイだよ?でもさ、動物って洗ってあげないと地味に獣臭がするじゃん?

 1匹づつならそこまで気にしないけどさ。数十匹級の色んな獣臭が混ざるとキツイわ。何か所か除臭剤置いてるけど、役に立ってねぇな。まぁ、俺が泊まる訳じゃないからいいか。


 宿番の姉ちゃんにナーレス商会の依頼主を呼んでもらう。

 ロビーの椅子に座ってぼんやり左手にある窓を眺める。

 窓の外は操獣士達の相棒や馬車の馬なんかが厩舎や檻に入れられて並んでる。檻も一応屋根の下にあるんだな。ほとんどの檻は静かだが、1つだけ一回り小さい檻がキャンキャンヒャンヒャンうるさい。子犬か?犬は好きなんだが飼うのはむりだな。今の仕事(冒険者)してたら絶対、面倒見切れねぇ。


 仕事辞めるかなぁ。辞めたら飼えるなぁ。あ、先立つモン()足りない。辞めれねぇじゃんかよ。


 役に立たない悩みを自己解決しつつ待ってたら、背後で衣擦れの音がした。


「おまたせしました。あなたが今回護衛を受けて下さる方ですね」


 振り向くと俺と同年代くらいの男が立っていた。

 おい。衣擦れ音なければ気付かなかったぞ。

 こいつホント商人か?

 普通に後ろ取られたんだが。

 ちらりと服装や武器をカクニン。

 いかにも行商っぽい上着、ベスト、ズボン、ベルト。


「あ、ああ、あんたがナーレスさんか。ギルドで請け負った5級のガウスリーだ。明日から護衛につく。よろしく頼む」

「これはご丁寧に。今回の依頼で顔見せに来たのはあなただけですよ」


 若い連中なにしてんの?!

 依頼主との顔合わせくらい当然のマナーだろっ!


 一見にこやかに見えるナーレスさんだが心中どうなんだか。

「それはすまない、他の連中に変わり謝罪する」

「いえいえ。気にしてません」


 こりゃ、さっさと依頼内容の確認して退散した方が良いな。


「すまないが、依頼内容の確認をさせてくれ。日程は明日早朝出発、明後日夕刻領都着。料金は1日1銀貨で満額2銀貨。間違いないか?」

「ええ、合ってますよ」

「護衛中魔獣襲撃等があった場合、素材や討伐証明を取る時間はもらえるのか?」

「日中の襲撃に関しては認めません」


 はぁっ?!

 あんな護衛料金で討伐報酬も無しかよ。


「今回の護衛ですが、実は北の山脈で雪狼の子供を手に入れる事が出来まして、領主様に献上する為なので日中は急ぎたいのですよ」

「雪狼の子供?それは確かに珍しいですが」

「夜間の襲撃に関しては、認めますのでご自由にどうぞ」


 夜間の襲撃に心当たりあるのかよ。

 キナクセエナ。


 領主への献上品ね。

 それなら急ぎってのもわかる。わかるんだが討伐証明剥ぐ時間くらい待つもんじゃないのか?


「・・・・・・。分かった。確かに子供は珍しいからな」

「ご理解ありがとうございます」

「あー、その子供狼、見せてもらう事は出来るか?」

「先程ご覧になってました窓から見えますよ」


 もしかして、さっきの小さな檻に入ってた鳴き声か。

 目線を窓に向け、もう一度檻を確認する。

 確かに檻の中に白い子犬っぽいものが見える。首輪のチェーンは檻の上に結ばれている。

 おいおい。あのチェーン短すぎじゃないか?


「・・・・・・ナーレスさんよ。あの首輪だが・・・・・・」

「気付きましたか。あれは断魔銀です。雪狼は魔法も使いますから子供でも念のためにね」


 誰が首輪の材料について聞いたよ?チェーンが短すぎって言いたいだけだ。

 まぁ、確かに?雪狼は水属性低温関連の魔力攻撃はするが、断魔銀の首輪はどうなんだか。あれって強化魔法さえ封印する魔力を体外に発散させないようにするやつだろ。めちゃくちゃ高かったはず。


「断魔銀の首輪なんてよく持ってましたね。あれって高いし、所持者登録いるんじゃ?」


 断魔銀は魔法使いの魔力を封印するから流通量を国に把握されてるはずだ。貴族や王族の魔法使いや軍にとって弱点になるからな。


「そこは色々ツテがありまして」

「そうかい」


 ツテってどこのよ?国軍か?ってか、知るのがこえぇよ。


「そんじゃ、まぁ、帰りますわ。明日の7の鐘に西門だっけか?」

「その通りです」

「では、明日から頼みますわ」

「こちらこそよろしく」


 とりあえず帰るか。あー、文句言えなかったわ。

 今回なんかスゲー嫌な予感する。

 メシくらい出してくれ。るわけないな。護衛10人だもんな。


・・・・・・若いの達、メシのこと考えてない気がする。


 俺のメシの為に携帯食ぐらい買っていくか?水は魔法でだせるし。

 若いの達の為じゃなく、俺の為に。


 別にいらねぇなら食わねぇだろ。




 朝7の鐘が鳴る西門。

 俺たち冒険者組は一塊になって一台の馬車前に集まってた。


「私が依頼主であるナーレスです。今回の行程はこのまま西の街道を進み、領都東の草原を抜けるルートでいきます。途中、魔獣等の襲撃があれば止まりますが、基本は日暮れまで進む予定です」


 御者台から雇い主(ナーレス)が俺たちに声をかける。


「とりあえず、雇い主さんよ、一つ質問なんだがいいかい?」

「はい、なんでしょう?」

「馬車1台だけなんだな?」

「その通りです。しかも装甲馬車ですよ」


 護衛過剰だろ?装甲馬車とか囚人の護送とか現金輸送でしかつかわんだろ?

 馬車の後部荷台全面板張りで所々鉄で補強。完全に中身見えねぇ。たまに中でキャンキャン鳴き声が聞こえるから、言ってた雪狼の子供が運ばれてるんだろうなってのはわかるんだが。

 

「なぁ、雇い主さんよ。ちょっとお願いがあるんだが」

「どうされました?」

「雪狼の子供見せてもらう事できねぇ?領主サマに献上するって言ってたよな?酒場の話のネタにもなるし、今後北の山で同じタイプの魔物見かけたら逃げるための基礎知識にもなるしな」


それに犬好きだし。


「・・・・・・。仕方ありませんな。もうすぐ出発の鐘が鳴りますので少しだけですよ?」

「よっしゃ!」


 ナーレスさんはそう言って後部の扉を少しだけ開いた。

 少しってマジに手も入らねぇくらいちょっとかよ!

 ナーレスさん、ケチだな。行商じゃやっていけねぇゾ?


 覗き込むと、窓が開いたことに気付いたのか、檻の中のちっさい毛玉がこちらを向いて唸ってた。


 うわ。マジでちっちぇぇ。白い毛玉だ。でも近所の野良犬の子より細いな。いや、痩せてんのか?

 そして相変わらずチェーン短っ。

 でっかい檻の真ん中くらいしか移動できねぇじゃん。 


 というか、荷台部分、ほとんど檻じゃねぇか。中に人1人か2人くらいしか入れないな。

 これ、もし襲撃でケガ人出ても馬車乗せられねぇんじゃないか?


ガラーンカラーンガラーン


「時間ですので、閉じますよ?」

「ちょっと待った待った!ナーレスさん、餌、餌やっていいか?」

「は?」

「いやな?あの雪狼の子、痩せすぎだろ?俺、携帯食で燻製肉持ってきてんだよ。やっていいか?」

「・・・・・・、あなたがここで食べて見せて下さい。それからならお好きにどうぞ?」

「オイオイ。毒とか疑ってんのかよ?まぁ、いいけどな」


 荷物を漁り、携帯食として持ってきてたサラミ棒を3本ほど取り出して、ナーレスに見せつける様に齧る。

 油分を落とし、塩分と薬草練り込んだサラミ棒は最近の俺のお気に入りだ。短期の依頼の保存食替わりになるし、ほのかな苦みがエールにも合うしな。


「これでいいかい?そんじゃここから投げ込みゃいいかい?」

「どうぞ」

「ほらチビ助、これ齧ってな」


 檻の間からサラミ棒をチビ助の前に投げる。

 いよし。ナイスコントロール。

 サラミ棒は見事にチビ助の前足の間に3本とも滑り込む。

 若い頃、『投擲』上げといて良かったわ。


キャウンヒャウン


 足の間に滑り込んだサラミ棒に驚いたのか、飛び上がって転がるチビ助。


 あ、すまん。チビ助じゃねぇわ。チビ娘だったわ。


「気は済みましたか?」

「あぁ、あんがとよ」

「では、閉めて出発しますよ」


 飛び込んだサラミ棒を警戒しつつ匂いを嗅ぐチビ娘の姿を最後に扉は閉められ、こうして俺の仕事は始まった。 辺りには野営の跡があり、数人の冒険者が横たわっていた。

 倒れたヤツらから溢れた血液で辺りは鉄臭く。

 飛び散った焚き火の炎はそこかしこで小火をあげているが燃え広がる事はなさそうだ。






 胡散臭い行商にギルドからの指名で護衛に雇われ、その日の深夜。

ソイツは襲撃してきた。

 かなりの速度で接敵され、《警戒》にひっかかった時には7級パーティー『炎の刃』を蹂躙された。


 あいつら夜番以外装備外してたから鎧袖一触だったな。


 飛び散った炎に下から照らされて浮き上がるソイツは。


 うわ。ライカンスロープかよ!

 しかも銀狼タイプ。

 夜間に会いたくない魔物ベスト10にいるヤツ。


 行商馬車に立て掛けてた愛用の槍を右手に掴み、勢いをつけ立ち上がる。

 そのまま勢いを増しつつライカンスロープへ槍を突き出す。


ガインッ


 ライカンスロープの右手であっさり払われる。


 くっそ、かなりの会心の一撃だったのによ!

 けど一応、予想の内っ!


 払われた勢いを利用して踏み込んだ右足を軸に半回転。

 ついでに左腕の円盾で『シールドバッシュ』!


バグッ!

ギャウンッ?!


 狙い通りライカンスロープの右肩辺りに盾打ち成功!


「起きろ、魔物の襲撃だ!負傷3、依頼主は逃げろ!敵はランク3、ライカンスロープだっ!!」


 ばたばたと周囲のヤツらが起き、ライカンスロープから距離を取る。

 ハッキリ言って俺と残りのメンバー全員で戦っても絶対勝てない。断言できる。

 とりあえず逃げれるように時間稼ぎしますかね?


 受け止め、流し、弾き、絡め、叩きつける。

 左腕に取り付けたトゲ付き円盾(バックラー)で丁寧にいなす。

 左半身、重心を前に。じわじわ摺り足で右後側へ移動中。

 あくまでも押されて下がっている様に。


 右手の槍は中程を持ち、穂先は相手の顔の辺りに固定。

 これは槍の射程を少しでも誤魔化す為。


 かなり左手痺れて動きにくくなってきた。

 ってか、格上相手だと時間稼ぎもギリギリだわ!


 ありゃ?コイツもしかしたら本気じゃない?

 ランク3の位置にいる魔物にしちゃ、ヌルイ気がする?

 (ランク5)でもギリギリ対処出来る攻撃しかやってきてない。

 もしかしたら、コイツも時間稼ぎしてる?なぜ?



ガラガラ ガラガラガラガラ ガララララララ



 馬車がやっと動き出したか。とっとと逃げてくれ。

 ある程度離れてくれりゃ、俺もとっとと逃げれる!


 ライカンスロープは一瞬、馬車の方を見た。けど、隙なんざねー。


 左手の叩きつけを外に弾き、右手の横凪ぎを内に流し、返ってきた左手のバックハンドブローをしゃがんでかわす。

 そして放たれる右膝の回し蹴り!


 ムリムリムリムリ!

 上上上からの未使用の下攻撃!

 コイツ、やっぱり今まで遊んでやがったな!ちくしょーっ!

 盾、間に合わん!しゃがんだ状態じゃ、避けれん!

 一瞬が引き伸ばされた刹那の間。

 少しだけ後ろに跳ぶ。間に合わず右膝激突!


バキャグシャ


 血飛沫と一緒にぶっ飛ぶ!


 っつぅぅぅぅぅぅっ!

 まずったっ!

 肋骨とか色々逝ったっ!左手もヒビくらい入ってそう!

 革鎧と内装チェーンでちっとは衝撃逃がしてこれかよ!

 ヤバい、受け身とれるかこれ?



ガシャンバタバタバタゴロゴロゴロゴロ



 背中から逝ったっ!

 息が詰まる。

 更に転がりつつ衝撃を分散する。

 

 かなりぶっ飛んだな。

 一応すぐに死ぬ事はなさそうだが、すぐの復帰はムリか。


 背中から着地したお陰でマントの内ポケットに入れてた回復薬のビンがまとめて割れたか。少しは効いてくれればいいけど。


 なんとか立ち上がった時にはヤツはすでに馬車目掛け走り去った後だった。

 


 倒れてる奴等を見ると一応生きてるぽい。

 残りの無事な奴等は地味にパニクってやがる。倒れた奴等に回復くらいしてやれよ。むしろ俺を回復してください。


 ふらふら放置してた鞄まで移動し、中から回復薬を数本取り出して、一本だけ飲む。


 うぁー、まずい、苦い、青臭い。あと、脇腹じんじんする。


「あー、のんきにパニクってるとこ悪いが、無傷な奴でランク8の連中は、ここで負傷者の看護と護衛頼むわ。負傷者が歩けるくらいか朝になっなら、町まで戻ってギルド報告な。残りのランク7は俺と依頼主追いかけるぞ」


 あー、うん。ランク7で無傷なのいないわ。


 残りの回復薬を呻いてる奴に飲まして、荷物を背負い、馬車を追いかける。


 っても、今から追っても追い付けないだろ。もし追い付けたら、襲われてるだろうし。




ぐがしゃんッ!



 なんか馬車逃げた方からいやーな音が。


 よたつく足を早め向かう。


 幸いなのか、最悪なのか今夜は満月。夜間のわりに視界は悪くない。


 月明かり中、見えたのは鉄格子が引きちぎられた装甲馬車と。


 ライカンスロープに抱かれた幼い子供っぽい・・・・・・ライカンスロープだった。


っはぁっ?!

ち、ちょっとまて?!

なにか?え、なに?もしかしてだけど。


 色々つながるあれこれ。

 厳重な捕獲状況、変身封じで魔封首輪、急ぎの依頼、胡散臭い依頼人。


 雪狼じゃなく、ライカンスロープの子供だったってか?!


 思わず立ち止まってた俺に奴等の視線が向く。


 慌てて槍を構えるが、正直こっちはガタガタだ。勘弁してくれ。

 じっとり、冷や汗を流しつつ、目を合わせ続けると奴は不意に視線を切り、身を翻し駆け出した。銀色で目立つはずなのにあっという間に夜の闇に同化して見えなくなる。


 どれくらいの時間、槍を構えていたのか、


ウワォォォォォーーーン


遥か先からの遠吠えで槍を下ろした。






 それからの事だが。

 まず、依頼主は馬車周辺では見つからなかった。

 夜が明けて数時間ほど探したんだがな。

 あと、馬車の破損は後部の鉄格子だけで、馬も二頭中一頭無事だった。一頭は行方不明。依頼主、馬で逃げたか?

 とりあえず、一頭だけ馬車に繋ぎ、元の町に帰る。

 途中、護衛仲間に追い付いたから、怪我が酷い奴を馬車の荷台に放り込む。むさ苦しいヒゲのドワーフとムキムキスキンヘッドが壊れた鉄格子越しに寝かされて、まるで護送だなとみんなで笑う。

 町についてから、衛兵に色々聴取され、ギルドでも色々聴取され、わかった事。


 依頼主の商会、国に登録されてません。

 そのくせ今回の依頼、どのルートで受理処理されたのかもわかりません。


 こ れ ま じ や ば い い ら い じゃ ん


 一般冒険者のてにあまるわ!

 なに?ギルドに無理矢理依頼ねじ込める権力?もしくは裏ギルドからの依頼だったの?ギルドにどこかの工作員とか紛れてる?

 ぱっと考えただけでこんくらい出てくる。


 結論、かかわらない。


 色々、ギルド側でも問題があった為か、今回の依頼については無効処理となり違約金はなかったが、表向きは依頼失敗となった。全員生還が唯一の救いか。

 結局怪我や回復薬とか持ち出し分、損してるのは、まあ、しゃーない。生きてるだけめっけもん。


 さて一緒に聴取されてた奴等と呑みに行くか。


「さぁー、オメーら、呑みに行くぞ!護衛失敗してしょぼくれてんじゃねぇ!こんな事もたまにゃあるっ。どうせ初失敗だろ。依頼失敗記念に俺の奢りだ!ぜーいん強制だ、店予約してこいっ」



 呑みに行った先で美形狼獣人の姐さんと幼女にソーセージ三本のつまみをあーんされたのは別の話だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ