作戦実行
「ただいまー!」
「リゼ!大丈夫?ちゃんと捨ててこられた?」
玄関に入ると、待ち構えていたお母さんが不安そうな顔で尋ねてきた。
「えっとね、その事なんだけど……この子、うちに置いてあげて欲しいの!」
そう言って抱いていたアルをお母さんの前に突き出す。
「きゃあぁぁっ!なんで連れて帰ってきちゃうのよ!捨ててきなさいって言ったでしょ?!」
「お母さんよく見て?この子ね、実は妖精さんなの。お母さん、小さい頃に妖精さんに会ったことあるんだよね?」
「よ、妖精?それしては大きいし、妖精の髪は緑色なのよ?こんな黒い髪の妖精いるはずないわ」
「そう、この子他の妖精さんとは見た目が違うでしょう?だから仲間外れにされてしまったんだって。私も他のみんなと違うからこの子の気持ちがよくわかるの。きっととても寂しかったと思う。ねぇ、見て?本当にこの子が悪ものに見える?」
私はお母さんに一歩近づいてアルの顔がよく見えるようにした。
アルは目をウルウルさせて、いかにも可哀想な子というのを演じている。
「うっ」
お母さんから小さな声が漏れた。きっと、母としての庇護欲が掻き立てられたのだろう。先程まで眉間にシワが寄っていた表情が今は眉尻が下がってしまっている。
よしよし、もう一押しだな。
私はアルに合図を送ると、それに応じたアルが小さなか細い声でお母さんに話しかけた。
「さっきは驚かせてしまってごめんなさい。ぼ、僕、お友達が欲しかっただけなんです。ずっとひとりぼっちだったから……うぅ、ヒック、ヒック」
アルに泣き真似をしろと言ったけど、こやつ初めてとは思えん演技力だな。
「……お母さん、お願い。せめて私が死んじゃうまでこの子と一緒にいさせてほしいの」
お母さんは唇を震わせて今にも泣き出しそうな顔だ。余命わずかな愛する我が子の願いを聞いてやりたいと思うのは親であれば当然のことだろう。
よっしゃ、ここでトドメよ!
私とアルはお互い目配せをして息を合わせて甘い声を発した。
「「お願い、ママ」」
「はぅっ!!」
お母さんは『ママ』と呼ばれるのにめっぽう弱い。私はそのことを知っていて普段はお母さん呼びにしておいて、ここぞというときにママ呼びを使う。それはほとんどの確率で効果を発揮するが、どうやら今回も効果てきめんだったようだ。
「もぅっもうもうもう!リゼったら仕方ないわね。ママも妖精さんには恩があるし、家で大人しくしているのなら居てくれて構わないわ」
「っ!いよっし!!」
ママと呼ばれて浮かれているお母さんの背後で、二人は悪い笑みを浮かべてハイタッチした。
「アル、あんなに嫌がってた割にはノリノリだったんじゃない?」
「う、うるせーよ。俺は言われた通りにしただけだ!」
「ママ~ママ~、私はリゼの優しいママ~♪」
二人の小声のやりとりはご機嫌で歌うお母さんの耳には入らなかったようだ……