使い魔契約
なんでこんなクソ生意気なヤツと話すのが楽しいのかと思ったら、自分らしく話すことができているからだとすぐに気付いた。
前世の記憶が戻ってからは、普段はわざと子供らしい話し方をしてリゼを演じてきた。
だけどこの使い魔の前では9歳のリゼではなく、まるで前世の24歳の自分そのものだ。
だから楽しいんだ。
「ねぇ、あんた名前は?」
「あー今はまだない。使い魔の名前はご主人が決めるからな」
「ふぅん。じゃあアルにする!あんたの名前はアル!」
うん、やっぱ黒髪の外国人はアラビアっぽい名前が似合うもんね。
「は?だからお前は俺の主人じゃねぇ……」
アルと名付けた使い魔が呆れ半分に否定しようとした時、私の中の何かが使い魔と繋がったのを感じた。この感覚は言葉にはできないけれど、確かに感じたのだ。
私と使い魔の契約が完了したと。
「あ?あれ?んなっ!なんでだよ!なんでお前と使い魔契約が完了してんだ?!」
「だから、私があんたのご主人様だからでしょ?」
「いやいやいや、おかしいだろ!俺様の中にはお前の魔力なんて一切流れてないんだぞ?!使い魔契約は魔力の繋がりが無いとできないはずだ!」
「そうなの?でもできたじゃん。やっぱ私が髪の毛を貰い受けたことで魔力の持ち主が私に変わったんじゃない?」
「そ、そんな……こんなやつが主人……」
「あー、そんなこと言うんなら名前変えようか?そのフリフリドレスに似合うようなやつに……そうだなぁ、メルルちゃんなんてどう?」
「いっいや、それは勘弁してくれ!わかった!わかったから!……お前がご主人だって認めるよ……」
アルはガックリとうな垂れながら仕方なく了承した。
「契約しちまったもんはしょうがねえもんな……これからよろしくな、人族のおん……あー、ご主人」
「ご主人はちょっとなぁ……リゼでいいよ。それかリゼ様がいいかな?ちょっと呼んでみて?」
「チッ、……リゼ様」
「舌打ち禁止。ってかやっぱ気持ち悪いからリゼでいいや。それと自分の事偉そうに俺様とか言うのやめてくれる?」
「き、気持ち悪いとか言うな!……で?これからどうすんだよ。俺様、俺はお前ん家には戻れないんだろ?」
「だね。両親が許さないと思う」
……いや、待てよ?
「ねぇ、妖精ってさ本当に存在するの?」
「なんだよ急に、いるけどそれがなんだ?」
やっぱりいるんだ。それじゃあお母さんの言ってたことは本当だったんだな。
私のお母さんは小さい頃、森で迷子になっていたところを妖精に助けてもらった事があるらしい。あの妖精にまた会いたいなどとよく楽しそうに話していたけれど、私は妖精を見た事がないので話半分に聞いていたのだ。
お母さんの話によると妖精は手のひらに乗るほど小さいらしいからどうなるかわからないけど、やってみる価値はあるだろう。
「アル。もう一回お母さんのところへ行くよ」
「あん?お前の母親あんなに怖がってたのに一体どうする気だよ」
「まあまあ、私に任せておきなって。あ、そうだその前にあんたに話しておきたいんだけどさーー」
私はアルに自分に前世の記憶がある事や余命があと一年であることを話しておいた。
特に前世の記憶の事はアルには知っておいて欲しかった。知っていてくれる人が一人でもいる方が私としても気が楽だと思ったからだ。
「なに?!お前、そんな形して中身は24なのかよ?確かにガキにしては話し方が生意気すぎると思ったんだよなぁ」
「あんたにだけは言われたくないよ!ってか余命の事よりそっちか!!」
まったく、私の寿命を哀れまないやつなんて初めてだわ。
まぁ、こんな奴だから気に入ったんだけどね。
「んじゃ、そろそろお母さんとこ行くよ!歩きながら作戦教えるからちゃんと覚えてよね!」
「作戦?うわぁ、なんか嫌な予感しかしねえ……」
私は渋い顔をしているアルを行きと同じように抱くと、作戦を念入りに叩き込みながら家路についた。