使い魔と私
「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと!あんたずるいわよ!空飛ぶなんて反則!」
追い詰められた使い魔は背中に小さな漆黒の翼を生やして上空を飛び始めた。
「うるせえ!お前が追いかけ回すからだろ!俺様に近づくんじゃねえ!」
私は思い切り飛び上がって捕まえようと試みるが、いかんせん9歳の小さな体では全く擦りもしない。
「もう、やだ!あんたみたいな使い魔いらないから私のお守り人形返してよ!」
「んなもん知るか!俺様だってお前みたいなやつの使い魔なんて御免だね!本物のご主人に会わせろ!」
「ふんっそんなに会いたいなら自分で探せばいいでしょ!?だいたいねぇ、あんたはーー」
ガチャッ
「ちょっとリゼ?!何を大声出してるの?外まで丸聞こえじゃない!」
「げっ、お母さん」
まずい、お母さんが帰ってきちゃった……
「ちょ、ちょっと使い魔!隠れて隠れて!」
パタパタ飛んだままの使い魔に小声で指示を出す。
「あーん?隠れろっつったって、もう見つかってるぞ?」
え、マヂですか?
ギギギギ……と音が鳴りそうな動作でお母さんを見ると、使い魔の言う通りお母さんは青ざめた顔で上空を見つめていた。
「お、お母さん?えーと、コレはね……に、人形だよ?」
お母さんは私の苦し紛れの言葉など全く耳に入っていない様子だ。
「リゼ……この不吉なものは何?」
不吉……あぁ、黒髪だからか。
「不吉だと?なんだ?俺様の事言ってんのか?」
使い魔はピューンとお母さんの目の前まで飛んで行き、思いっきり睨みつける。
「俺様のどこが不吉だって?言ってみろ人族の女!」
「ひぃっ」
いきなり近づいてきた使い魔に恐怖を感じたのか、お母さんは飛び上がるようにして後退りした。
「ちょっと!つかい……じゃなくてお人形さん!お母さんを驚かせないで!」
「リリリリリゼっ!これは人形なんかじゃないわ!何か悪いものよ!早く何処かへ捨ててきなさい!」
「誰が悪いものだ!!俺様は優秀な使い……うぐッ」
これ以上余計な事を言わないように私は急いで使い魔の口を塞いだ。
「いっ今捨ててくるから!じゃ、じゃあ!行ってきまーす!!」
私は使い魔を抱えて逃げるようにして家を飛び出す。
「ぐっ!うぐうぐうぐ!」
私の腕から逃れようと暴れる使い魔をギュウギュウ締め付けながら人が滅多にくることのない林へと走る。
そのまま林の奥に進むと今や誰も使っていないボロ小屋があり、そこで漸く使い魔を解き放ってやった。
「ぐはぁっ!お、お前っ俺様を殺す気かよ!ろくに息できなかったぞ!」
「なによ、使い魔ってそんな簡単に死ぬ訳?息ができないくらいで?」
「ふん、それくらいじゃ死なねーよ……って死ぬわ!!常識的に考えやがれ!!」
「へぇ、ノリツッコミなんてできるんだ」
「……お前、俺様をバカにしてんーー」
「してる」
「っぅおい!食い気味に即答してんじゃねーよ!」
「ぷっ、あははははっ」
あれ?なんかコイツとのやりとり楽しいかも?
「っ!ちくしょーっ笑ってんじゃねぇぇぇ!!」