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限られた刻の中で  作者: 小鳥
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前世の記憶


「ねえねえ、おかあさん。どうしてわたしのかみはまっしろなの?わたし、くろかみがよかったなぁ」


「リゼ!?馬鹿なこと言わないでちょうだい!そんなこと他所で言ったらダメよ!」


 あの時のお母さんは心底驚いて怒った表情をしていた。まだ幼かった私はそれがなぜなのかわからなかったけれど、今ならわかる。

 


 暗い髪色は魔族の証だからだと。

 


 魔族が人族をどう思っているのか知らないけれど、人族は魔族に対して憎悪や嫌悪の感情を抱いている。昔、魔族による人族の大虐殺があったかららしい。

 

 黒髪なんかは魔族中の魔族の色だなのだろう。お母さんが怒るのも無理はない。

 

 そんな事情を他所に、私は物心ついた時から黒髪に憧れていた。生まれてから一度も見たことのない髪色のはずなのに、落ち着いた品のある黒髪を容易に想像することができた。


 自分が黒髪だったらどんなに素敵だろう……いつもそんなふうに考えていた。


 

 人族はみんな金や赤や緑などと色とりどりの明るい色をしている。そんな中で私の白という色は珍しい色だ。私の髪色を初めて見た人は決まって寂しいような切ないような、そんな顔をする。


 なぜなら、白は魔力を持たない証拠だから。

 

 髪色には生まれ持った魔力の性質が大きく関係している。

 赤系は火、青系は水、緑系は風、金は治癒といった具合だ。魔力が多い人ほど色が濃く、少ないと薄い色付きになる。

 そして私の様に魔力を持たないものは何にも染まっていない白い髪で生まれてくる。

 

 なぜ魔力が無いと寂しい顔をされるのかというと『魔力が少ない=長生きできない』からだ。


 私の場合、少ないどころかゼロの状態だからもっと深刻。魔力を持たない者は大人になれず、子供のうちに死ぬ。平均寿命はわずか10年。

 

 私は昨日9歳になったから余命はあと約1年。


 元気だし、全然実感沸かないけれどそれが現実。あと一年も経てば、生まれ持った生命エネルギーの限界がきて衰弱死するらしい。


 

 なんで9つの子供の私がこんなに冷静なのかって?


 それはね、昨日突然思い出しちゃったからーー前世の私をーー



 前世の私は10歳からモデルになる事を夢に掲げ16歳でその夢を叶えた。長く美しい黒髪と風貌をウリにしていた私は、20歳を越える頃には日本で1、2を争うトップモデルにまでなった。


 毎日体型維持の食事や運動を徹底し、スタッフやファンにも愛想良く接していた。モデルとしての生活は大変だったしストレスも半端なかったけど、小さな頃からの夢だっただけあってそれなりに楽しく生きていた……つもりだった。


 24歳の時、アメリカで行われる有名デザイナーのファッションショーモデルに日本代表として私が選抜された。


 それはそれは天にも登るほど嬉しかった。世界に認められた気がして、自分を初めて誇りに思えた瞬間だった。


 だけど、私は本番当日にランウェイで倒れ、そのまま死んじゃった。多分、美を履き違えた為の栄養失調と過労が原因だと思う。細ければ細いほど美しいと思い込んでいた馬鹿な私。



 あー、憧れのショーの最中で死んだなんて……我ながらやってしまった……



 でも、私が死んだ事でモデル業界の激痩せ体型への意識が変わってくれれば良いな~、なんて思ったりして。



 この記憶が戻るきっかけとなったのは、昨日の誕生日に近所の友達からお人形を貰ったからだ。そのお人形は人の形をしているけれど、なぜか髪が無くその頭はツンツルテンだった。話を聞けば、持ち主の髪の毛をお人形に付けることで危険な事から守ってくれるのだという。日本の御守りのようなものだ。


 私はその人形には自分の白い髪ではなく、黒髪を付けてあげたいと思った。黒髪の方が好きだし、強いお守りになってくれる気がしたからだ。私が死んだ後、私の代わりにお母さんとお父さんを守って欲しいーーそう思った。


 そして頭の中で長くて綺麗な黒髪を付けた人形を想像したーーその瞬間、頭の中を駆け巡るように一気に前世の記憶が蘇ったのだ。美しい黒髪をなびかせ、輝いていた前世の自分。



 ーーそうか、だからか。だから黒髪に執着心があったんだ。


 その瞬間、ぱぁぁっと胸のモヤモヤが晴れた気がした。



「うん、うん。やっぱり髪は黒に限るね」


 誕生日会の最中にも関わらず、自分の世界に入り込んでいた私の呟きを不思議そうな顔で「くろ?」と聞き返すお友達に「なんでもない」と言いつつ、昨日の私は早速黒髪探しを始めなければなんて考えてた。



 黒髪探しはもちろんするけれど、同時進行でやりたい事がもう一つ浮かんだ。



 美味しいもの!美味しいものをたらふく食べたい!!



 前世では体型を気にして子供の頃から食べたいものを我慢する習性があった。本当は甘いお菓子やパンが食べたくて食べたくて仕方がない時もたくさんあったけれど、夢に向かって突き進んでいた私は我慢に我慢を重ね、食に関する欲望から目を背けて生きてきた。


 だけど、実質餓死のような形で死んでしまった前世の私が不憫でならない。そんな死に方するくらいだったら、もっと美味しいものを好きなだけ食べておけば良かったよ……。


 それにしてもせっかく生まれ変わったのに寿命短すぎでしょ……神様のイジワル……

 

 まあ、前世を思い出せたおかげで精神年齢だけは大人になれたから、2度目の死への恐怖心はかなり軽減されたけどね。



「ふぅ……よし!残り1年、悲観していても仕方がない!美味しいもの食べまくるぞー!!」


 私は声高々に空を見上げて拳を突き上げた。そうして一見マヌケに思える決意は空高くまで轟いていったのだった。



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