八十六話 僕たちは明日に向かう
新しい十二月が現れた。正体は不明ながら放置もできず、戦いに行こうと進んでいる時だ。
「気配が消えた?」
葉月さんが不思議そうな声を出した。
「私の勘違い?」
「俺も感じられなくなった。みんなは?」
睦月は葉月さんの意見を支持し、他の十二月に問いかけた。
答えは全員同じだ。気配が消えたと言っている。
「死んだんですか? 十二月でも、集中攻撃されれば耐えられませんよね?」
普通の人間よりは頑丈だし、ただの銃弾程度なら余裕で耐える。傷付いても、軽い傷ならすぐに回復する。
でも、決して無敵じゃない。これまで何人もの仲間たちが死んでいるように、十二月の力を上回る攻撃を食らえば死んでしまう。
兵士にでも殺されたのかな。
「なんだ、戦いにならないのかよ。つまんねえ。俺の力を見せたかったぜ」
秋陽刀はつまらないと言うけど、戦わずに済んだとすればラッキーだ。
睦月よりも強い十二月は普通じゃない。十中八九、偽如月のような人間だ。
だからこそ、僕たちは戦うつもりでいた。話し合いをするのでも仲間に引き入れるのでもなく、戦うことになるって考えた。
強い相手と戦えば、こちらにも犠牲者が出るかもしれない。
犠牲者を出さずに解決するなら、それが一番だ。
僕たちは安心して足を止めたけど、一人だけ険しい顔をしていた。四季だ。
「死んでいない」
「死んでいないって、現れた十二月のこと?」
「そう。葉月葉が『気配が消えた』と告げた時、私は気配を感じるようになった。私だから感じられる。これはおそらく、四季」
「どういうこと? 十二月の誰かが四季に覚醒したって言いたいの?」
僕の質問に、四季は頷いた。
僕も葉月さんたちも困惑しているけど、意味不明だって言って切り捨てることはできない。四季がこの場で嘘をつく理由はないし、きっと真実だ。
「多分、完全な四季ではないと思う。私は十二月を五人喰らったけど、完全な四季にはなれていない。今の私と同じ雰囲気がある」
「……葉月さん」
どうするって気持ちを込めて、葉月さんに呼びかけた。
「四季の言っていることが本当なら、放置はできないわ。案内してくれる?」
「案内するまでもない。こちらに向かってきている」
四季が相手の気配を感じ取れるなら、相手も同じだ。僕たちの存在を察知して移動中らしい。
こちらには大勢いることも分かっていると思う。なのに向かってくるのだから、力には相当自信があるんだ。
「なら、迎え撃ちましょう。ここら辺には人もいないし、ちょうどいいわ」
葉月さんに言われ、迎撃態勢を整える。
冷たい雨がシトシトと降る町は、人の気配がなく閑散としている。
戦っても巻き込む心配はないし、迎え撃つには適した場所だ。
「相手が四季なら強敵よ。気を抜かないで」
「葉さんたち十二月は、戦わない方がいいんじゃないか? 俺や春真に任せとけ」
「僕も賛成。僕、冬将、四季が中心になるべきかな。睦月さんもこちら側でいいですか?」
「どこまで戦えるかは分からんが、やるだけやろう」
十二月最強の睦月に、春、冬、四季。このメンバーをメインの戦力にする。
「ちょっと。私抜きで勝手に決めないで」
「葉さんはリーダーなんだし、死んじゃダメだ。戦いよりも、総理大臣と一緒に平和をもたらすことが仕事だ」
冬将が葉月さんを説得してくれて、渋々納得していた。
「注意してよ。ここには長月がいないの。重傷の場合、治療できずに命を落としかねないわ。せっかく交渉がうまくいって、助かりそうなのに、最後の最後で死ぬのは許さない」
死ぬな。生き延びろ。リーダーの命令だ。
優しくて、でも一番厳しい。僕も死ぬつもりはないけど、相手は強そうだし死なないとは言えない。
「お姉ちゃんは葉月さんを守って。秋陽刀は、皐月を一番に考えるでしょ?」
「当然だ。皐月は俺が守る」
「守ってもらうだけなのは悔しいですけど、仕方ないですね。私では足手まといになりそうです」
葉月さんは姉が守り、秋陽刀は皐月を守る。
卯月と神無月、文月と師走でペアを組み、こちらは自分たちの身を守る。
こんな感じだ。
作戦と呼べるほどご大層なものじゃないけど、おおよそ決まり、待ち構える。
雨が体を濡らし、体温を奪っていく感覚があった。動きにくいけど、条件は相手も同じだし、気にしないことにする。
「雨って面倒だな。これだけは、常に晴れていた新人類の町が恋しくなる」
前髪から滴り落ちる雨粒をぬぐい、冬将がぼやいていた。
「きっと、これが当たり前なのよ。私たちの常識が非常識だったの。常に晴れている世界は異常なの」
「二十一世紀も半分を過ぎた今ですら、天候は制御できないからな」
葉月さんの言葉に睦月が反応したけど、少し気になった。
二十一世紀も半分を過ぎた?
「ああ、時を忘れた町……か。僕は、二〇二九年の一月一日だと思っていたよ」
「二〇二九年は、初めて新人類が誕生した年だね。春ちゃんの認識は間違いだよ」
新人類の町は、時が止まったように平和だった。
なんの変哲もない日常だった。
学校に通い、つまらない勉強をしつつ、友達とだべって。
放課後は適当に遊び、夜になれば帰宅して眠る。
僕は、そんな毎日を過ごしていた。何一つ疑問を抱かず、不満も持たずに、同じ繰り返しの中で生きていた。
本当に生きていると言える?
僕が過ごした日々が、全て間違いだったとは言わない。そんなことを言えば、如月や紺屋さんとの思い出まで否定してしまう。
でも、時が止まったままじゃダメなんだ。
外に出て、晴れの日もあれば雨の日もあって、辛いことも苦しいこともある。
漫然と過ごすんじゃない。一生懸命に過ごしてこそ、生きていると言える。
前に進むんだ。
総理大臣との交渉もできて、平和に手が届くところにきている。
戦いが完全になくなりはしないだろう。この先も小競り合いが起きる。
大変でも、みんなで協力してやっていこう。
この戦いさえ終われば。この戦いを最後にして。
僕たちは明日に向かう。




