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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十六話 僕たちは明日に向かう

 新しい十二月(じゅうにつき)が現れた。正体は不明ながら放置もできず、戦いに行こうと進んでいる時だ。

 

「気配が消えた?」


 葉月(はづき)さんが不思議そうな声を出した。


「私の勘違い?」

「俺も感じられなくなった。みんなは?」


 睦月(むつき)は葉月さんの意見を支持し、他の十二月に問いかけた。

 答えは全員同じだ。気配が消えたと言っている。


「死んだんですか? 十二月でも、集中攻撃されれば耐えられませんよね?」


 普通の人間よりは頑丈だし、ただの銃弾程度なら余裕で耐える。傷付いても、軽い傷ならすぐに回復する。

 でも、決して無敵じゃない。これまで何人もの仲間たちが死んでいるように、十二月の力を上回る攻撃を食らえば死んでしまう。

 兵士にでも殺されたのかな。


「なんだ、戦いにならないのかよ。つまんねえ。俺の力を見せたかったぜ」


 秋陽刀(あきひと)はつまらないと言うけど、戦わずに済んだとすればラッキーだ。

 睦月よりも強い十二月は普通じゃない。十中八九、偽如月(きさらぎ)のような人間だ。

 だからこそ、僕たちは戦うつもりでいた。話し合いをするのでも仲間に引き入れるのでもなく、戦うことになるって考えた。


 強い相手と戦えば、こちらにも犠牲者が出るかもしれない。

 犠牲者を出さずに解決するなら、それが一番だ。

 僕たちは安心して足を止めたけど、一人だけ険しい顔をしていた。四季(しき)だ。


「死んでいない」

「死んでいないって、現れた十二月のこと?」

「そう。葉月(よう)が『気配が消えた』と告げた時、私は気配を感じるようになった。私だから感じられる。これはおそらく、四季」

「どういうこと? 十二月の誰かが四季に覚醒したって言いたいの?」


 僕の質問に、四季は頷いた。

 僕も葉月さんたちも困惑しているけど、意味不明だって言って切り捨てることはできない。四季がこの場で嘘をつく理由はないし、きっと真実だ。


「多分、完全な四季ではないと思う。私は十二月を五人喰らったけど、完全な四季にはなれていない。今の私と同じ雰囲気がある」

「……葉月さん」


 どうするって気持ちを込めて、葉月さんに呼びかけた。


「四季の言っていることが本当なら、放置はできないわ。案内してくれる?」

「案内するまでもない。こちらに向かってきている」


 四季が相手の気配を感じ取れるなら、相手も同じだ。僕たちの存在を察知して移動中らしい。

 こちらには大勢いることも分かっていると思う。なのに向かってくるのだから、力には相当自信があるんだ。


「なら、迎え撃ちましょう。ここら辺には人もいないし、ちょうどいいわ」


 葉月さんに言われ、迎撃態勢を整える。

 冷たい雨がシトシトと降る町は、人の気配がなく閑散としている。

 戦っても巻き込む心配はないし、迎え撃つには適した場所だ。


「相手が四季なら強敵よ。気を抜かないで」

「葉さんたち十二月は、戦わない方がいいんじゃないか? 俺や春真(はるま)に任せとけ」

「僕も賛成。僕、冬将(ふゆまさ)、四季が中心になるべきかな。睦月さんもこちら側でいいですか?」

「どこまで戦えるかは分からんが、やるだけやろう」


 十二月最強の睦月に、春、冬、四季。このメンバーをメインの戦力にする。


「ちょっと。私抜きで勝手に決めないで」

「葉さんはリーダーなんだし、死んじゃダメだ。戦いよりも、総理大臣と一緒に平和をもたらすことが仕事だ」


 冬将が葉月さんを説得してくれて、渋々納得していた。


「注意してよ。ここには長月(ながつき)がいないの。重傷の場合、治療できずに命を落としかねないわ。せっかく交渉がうまくいって、助かりそうなのに、最後の最後で死ぬのは許さない」


 死ぬな。生き延びろ。リーダーの命令だ。

 優しくて、でも一番厳しい。僕も死ぬつもりはないけど、相手は強そうだし死なないとは言えない。


「お姉ちゃんは葉月さんを守って。秋陽刀は、皐月(さつき)を一番に考えるでしょ?」

「当然だ。皐月は俺が守る」

「守ってもらうだけなのは悔しいですけど、仕方ないですね。私では足手まといになりそうです」


 葉月さんは姉が守り、秋陽刀は皐月を守る。

 卯月(うづき)神無月(かんなづき)文月(ふみつき)師走(しわす)でペアを組み、こちらは自分たちの身を守る。


 こんな感じだ。

 作戦と呼べるほどご大層なものじゃないけど、おおよそ決まり、待ち構える。

 雨が体を濡らし、体温を奪っていく感覚があった。動きにくいけど、条件は相手も同じだし、気にしないことにする。


「雨って面倒だな。これだけは、常に晴れていた新人類の町が恋しくなる」


 前髪から滴り落ちる雨粒をぬぐい、冬将がぼやいていた。


「きっと、これが当たり前なのよ。私たちの常識が非常識だったの。常に晴れている世界は異常なの」

「二十一世紀も半分を過ぎた今ですら、天候は制御できないからな」


 葉月さんの言葉に睦月が反応したけど、少し気になった。

 二十一世紀も半分を過ぎた?


「ああ、時を忘れた町……か。僕は、二〇二九年の一月一日だと思っていたよ」

「二〇二九年は、初めて新人類が誕生した年だね。春ちゃんの認識は間違いだよ」


 新人類の町は、時が止まったように平和だった。


 なんの変哲もない日常だった。

 学校に通い、つまらない勉強をしつつ、友達とだべって。

 放課後は適当に遊び、夜になれば帰宅して眠る。

 僕は、そんな毎日を過ごしていた。何一つ疑問を抱かず、不満も持たずに、同じ繰り返しの中で生きていた。

 本当に生きていると言える?


 僕が過ごした日々が、全て間違いだったとは言わない。そんなことを言えば、如月や紺屋(こうや)さんとの思い出まで否定してしまう。

 でも、時が止まったままじゃダメなんだ。


 外に出て、晴れの日もあれば雨の日もあって、辛いことも苦しいこともある。

 漫然と過ごすんじゃない。一生懸命に過ごしてこそ、生きていると言える。

 前に進むんだ。


 総理大臣との交渉もできて、平和に手が届くところにきている。

 戦いが完全になくなりはしないだろう。この先も小競り合いが起きる。

 大変でも、みんなで協力してやっていこう。


 この戦いさえ終われば。この戦いを最後にして。

 僕たちは明日に向かう。

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