表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
85/92

八十五話 防衛本能

「総理! あなたは独裁者にでもなったおつもりですか!」


 せっかく話がまとまりそうだったのに、若い政治家が怒鳴っていた。


「国民の総意を無視して勝手に決めるなど許されません!」

「呑気に国会を開催している時間があるか? 議論に何ヶ月もかけていれば、その間に日本は滅ぶ。早急な対策が必要だ」

「でしたら、自衛隊を総動員し、怪物を殲滅すればよいではありませんか! それこそが国民の願いです!」


 この人は、間違った意見は言っていないだけに厄介だ。

 新人類を受け入れるか殲滅するか、どちらが望ましいかアンケートでも実施すれば、確実に後者が支持される。

 新人類を受け入れるなんて方針を打ち出せば、大きな反感を買う。揉めるのは目に見えているし、歩み寄るのは厳しい。


 国民の意見ということなら、新人類を殲滅すべきだ。

 本当なら、時間をかけて議論を繰り返し、理解を得ていくのが望ましかった。

 今は時間がない。総理大臣も言ったけど、議論に何ヶ月もかけていれば、その間に国は滅ぶ。

 新人類を受け入れる方向で話をまとめ、動こうとしている。僕たちにとっては非常にありがたい展開だ。


「さては、総理も怪物になっているのでは!? 自分と同族を守りたいので、保身のためだけに動こうとしている! ワタシは……え?」


 がなり立てていた男性は、急に言葉を止めた。明らかに動揺していて、油汗をにじませている。

 僕には理由が分からなかったけど、何人かは気付いた。


「これは……随分と都合がいいというか……」

「滅ぼされたくない。新人類の気持ちが表に出た証拠かもな」


 葉月(はづき)さんと睦月(むつき)が言葉にして、他の十二月(じゅうにつき)たちも頷いている。


「お姉ちゃん」

「私は何がなんだか……でも、春夏秋冬の私たちが把握できていなくて、十二月が気付いているってことは」

「十二月への覚醒だな」


 冬将(ゆふまさ)の言葉が、おそらく正解だろう。政治家が十二月に覚醒したんだ。

 新人類を受け入れる方針に反対している人が覚醒した。信じられないほど都合のいいタイミングでの覚醒だ。


 僕は以前、覚醒スピードが早まるのを、新人類の防衛本能みたいだって言った記憶がある。

 本当にそれだ。新人類が滅ぼされないために、必死で抵抗しているみたいだ。


「ち、違……これは、間違いだ……」

「間違いじゃないわよ。私は、あなたから十二月の気配を感じている。私だけじゃなく、仲間たちもね」

「まさか、キミが……」

「ワタシに触るな!」


 野党の議員が覚醒したての男性に手を伸ばし、男性は振り払った。

 人間の時なら、振り払うだけで済んだだろう。ちょっと痛い程度だ。

 十二月に覚醒した今は、それだけじゃ済まない。振り払われた腕が弾け飛んだ。


 すぐさま、僕と冬将で男性を捕まえる。春と冬の二人がかりなら、覚醒したばかりの十二月一人程度は対処可能だ。

 暴れているけど、これ以上被害は出させない。


「すぐに手当てを!」


 総理大臣が叫び、兵士たちは重傷を負った人を連れて行った。

 被害が腕一本で済んだのは不幸中の幸いだ。命は落とさずに済むと思う。


「総理。ご覧になった通り、この者は十二月に覚醒しました。ただの人間では、あのような真似は不可能ですし、ご理解いただけたかと」


 これは卯月(うづき)の発言だ。

 格好いいね。葉月さんの代わりに発言したんだ。

 大怪我をした人がいるのに、そこにつけ込んでいる。あまり真っ当とは言えない方法だ。

 だから、葉月さんに言わせず、卯月が言った。


「覚醒の瞬間を目撃するとは思わなかったが……これを見ては否定できないな。念のために聞いておく。君たちの仕業ではないのだな?」

「違います。タイミング的に疑いたくなるのは当然でしょうが、我々に他人を覚醒させる力はありません」

「信じる……しかないか」

「ご理解いただき、ありがとうございます」


 卯月がうまくまとめてくれた。見事にリーダーの葉月さんをフォローしたね。

 総理大臣との会話を葉月さんにバトンタッチしつつ、卯月は僕たちに質問する。


速峰(はやみね)冬将(ふゆまさ)。そいつは誰だと思う? 可能性があるのは三人だが」

「あまり強くないし、弥生(やよい)ではなさそうかな」

「俺も春真(はるま)と同意見だ。霜月(しもつき)って可能性もあるが、霜月にしちゃあちと弱いな。水無月(みなづき)が有力候補か? 結界能力に特化してる分、戦闘能力自体は低いだろ。こいつ自身は分かってるだろうが、答えないわな」


 僕と冬将に取り押さえられている人は、繰り返し「違う、違う」と呟いている。

 往生際が悪いというかなんというか。認めにくい気持ちは理解するけどね。


「腕を軽々吹き飛ばす力があって、強くないのか」

「私たちはそういう存在です。旧人類が危険視するのもやむを得ない、破格の力を持ちます。私がその気になれば、周囲の兵士が止める前に総理を殺せます」


 葉月さんは、不利になるのを承知の上で、自分たちが危険だと認めていた。

 交渉術としては下策かもしれないけど、総理大臣は話を聞いてくれる人だし、本音ベースで話す。


「悪意を持つ者が十二月に覚醒すれば、多くの被害が出るでしょう。単純に私たち新人類を受け入れる政策では、うまくいかない気がします。だからこそ、『新人類の町を広げて、そこで暮らす』と提案したのです。無条件に外に出てしまうのは問題ですから」

「さじ加減が難しいな。だが、やるしかあるまい。君たちにも協力してもらうぞ」

「もちろんです」

「では」


 総理大臣は、葉月さんに右手を差し出した。握手を交わそうって意味だ。

 破格の力を持つと告げた矢先に、新人類と握手できるのか。凄い人だな。

 葉月さんも握手に応じ、総理大臣の手を握る。

 さっき吹っ飛ばされた腕の肉片や血が飛び散っている中だし、猟奇的な雰囲気もあるけど、しょうがない。


 交渉成立……でいいんだよね?

 すぐには平和にならなくても、大きな進展が見られた。もうひと踏ん張りだ。

 男性を捕まえている僕と冬将以外の面々は、顔を見合わせて笑ったりガッツポーズをしたりしている。


 ここにたどり着くまで、多くの犠牲を払った。

 如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さんと喜びを分かち合いたかったって思う。

 でも……ようやくだ。

 ようやく戦いが終わる。そう、思っていたのに。


「これ、何!?」


 総理大臣と握手していた葉月さんが大声を発した。


「何かあったのか?」

「十二月が現れたようで、気配を感じるのですけど……これは一体……睦月?」

「俺も分からんが、こいつの力は俺より上だぞ。この距離で感じ取れるほどだ」


 十二月最強の睦月よりも強い十二月。心当たりは一人しかいない。


「偽如月ですか? 僕が戦ったあとで、卯月さんが処理しておくって言ってましたよね?」

「気配は似ているが、動けるはずがない。十二月の治癒能力を持ってしても、まず治らないように痛めつけた。死ぬ一歩手前までだ」

「じゃあ、怪我のせいで偽如月が死んでしまい、新しい如月が覚醒した?」

「それならあり得るが……」


 新しい如月も、自分の欲望を満たすことだけを考える人間だった。だから睦月よりも力が強い。

 一番筋が通るのはこれだ。

 なんにせよ、放置しておくとまずい。十二月が一般人を虐殺すれば、せっかくまとまった交渉が台無しになりかねない。


「みんな、行くわよ! 総理、すみませんが私たちは戦いに行きます」


 僕と冬将で捕まえていた人は、兵士に引き渡す。

 隊長さんは人間なので一緒に行けない。ここでお別れだ。

 戦いに行くのは十二人。四季に、春夏秋冬の四人、十二月の七人だ。


 これだけの戦力があれば、十二月一人にはまず負けない。

 負けないと思うけど、なんだろう、凄く嫌な予感がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ