七十六話 睦月たちは
前話に続き三人称視点です。
睦月たちのシーンになります。次からは主人公視点に戻ります。
約半日。
速峰春真が、夏帆や霜月を伴って新人類の町に出発してから、約半日が経過している。
外に残った十二月のメンバーは、睦月、皐月、文月、師走の四人だ。ここに、秋に覚醒している秋陽刀も含めた五人で、マンションの一室に集まっていた。
現在、大きな問題が起きている。
全国規模で新人類が覚醒しているのだ。正確な数は不明だが、数万とも数十万とも言われている。下手をすれば百万人を超えるとも。
おかげで大パニックだ。日本中で暴動が起きている。
十二月とは違い、新人類になった者は、超人的な力は持たない。新人類だと告げられても、本人ですら自覚がないだろう。何かの間違いだと考え、信じられない人が多いと聞く。
信じられなくとも、新人類は新人類だ。覚醒してしまった以上、元には戻れず、処分される。
その事実を知っているからこそ、新人類に覚醒した者は受け入れられない。
これまでは、受け入れられなくても、本人の意思に関係なく処分されていた。記憶操作を行い、死ねばそれまで。死ななければ新人類の町に隔離する。
一人や二人が覚醒するだけなら、警察や自衛隊の力でどうとでもできた。抵抗しても無駄だ。
ところが、今は数万数十万という人数が覚醒している。新人類の町と戦争の真っ最中であり、戦力もそちらに割いている。
新人類を抑える力が足りない。武力による鎮圧は困難になっている。
ならば、殺される運命を素直に受け入れはしない。誰だって死にたくないし、当たり前の話だ。
一人や二人では無理でも、数が集まれば抵抗できる。新人類が暴動を起こし、それに対抗すべく旧人類も反撃する。
見た目上は普通の人間であるため、誰が味方で誰が敵かも分からず、大パニックになってしまっていると。
疑わしい奴は殺す。疑われた者は、殺されたくないのでやり返す。
暴動に紛れて、ここぞとばかりに犯罪をやらかす者も多い。嫌いな相手を新人類だと決めつけて殺したり、火事場泥棒をしたり、女性を強姦したりだ。
秩序はどこへやら。日本政府でも対処し切れない。
政治家にも新人類がいるとされており、酷い状況になっている。
今朝までは平和だった。昼頃から新人類が続々と覚醒し始め、あっという間に地獄へと変貌した。
まるで、一つの大きな意思のようだ。
新人類の町は攻撃されており、大勢が殺されている。生き残りは碌にいまい。
旧人類は新人類の駆逐を目標に掲げているが、駆逐されるのをよしとしないように、新しい新人類が覚醒する。
こうなると、睦月たちも隠れ住んでいるわけにはいかなくなった。
どう動くか決めなければならない。
「どうすんだよ、リーダー」
師走が睦月の判断を仰ぐ。他の面々も、年長者であり十二月のリーダーでもある睦月の意見を聞きたがっていた。
「どうすると言われてもな」
動き方を決めなければならないのに、睦月は決められない。
人の上に立ち、導くのは苦手だ。柄ではないと考えている。
「しっかりしてくれよ、リーダー」
「師走がリーダーをやればどうだ?」
「俺は二十二歳だっての。フリーターだし、社会経験も碌にない。リーダーとか無理無理」
この場にいる五人を年齢順に並べるなら、睦月、師走、文月、皐月、秋陽刀になる。文月は高校二年生であり、皐月は中学二年生、秋陽刀は中学一年生と、三人とも子供だ。
成人しているのは二人で、師走はまだ若いため、四十歳を超える睦月が圧倒的に上となっている。
戦闘能力だけなら、春夏秋冬の秋である秋陽刀が上だ。
中学一年生がリーダーをするのは無理で、やむを得ず睦月がやっている。
年下を引っ張らねばならない立場なのは、百も承知だ。
だが何もできない。こんなにも頼りないせいで、会社をリストラされるのだと、自虐的な考えを抱く。
「動くにしても、状況がよく分からんし……」
「分かってるだろうが。全国で新人類が覚醒し、パニックになってる」
「どうやら、日本だけの問題でもないようですよ」
師走の言葉を補足したのは、スマートフォンをいじっていた文月だった。
「他の国でも新人類が覚醒し、パニックになっています。むしろ、日本はマシな方ですよ。一般人は武器を持ちませんからね。アメリカなんかはもっと酷いです」
「マジか……いや、外国の事情は考えないでおく。日本だけでも処理し切れないのに、外国まで考えられるか。そいつは政治家の役目だ」
世界の問題にまで話が広がれば、睦月の手には負えない。無視することにした。
無視しても、問題が解決しないのが厄介だ。
外国に十二月のような存在がいるかどうかは知らない。
いようといまいと、一般人が銃を乱射すれば、日本以上のパニックになる。
日本中どころではなかった。世界中で大問題になっている。
「世界の終わり」
ポツリと呟いたのは皐月だ。
遺憾ながら、睦月も同意する。世界が終わりそうになっている。
人類は、とっくの昔に間違えていたのではないか。取り返しのつかない過ちを犯していたのではないか。
このまま、新人類と旧人類の全面戦争が勃発し、世界も滅ぶ。
最悪の未来を想像してしまった。
「皐月は俺が守るぜ」
「秋陽刀は強いですけど、一人では」
「関係ない。俺が守る」
秋陽刀が皐月を好きなのは、全員が知っている。態度を見れば明らかだ。
新人類の町について行かなかったのも、皐月が残ったからだ。彼女がついて行くと言い出していれば、秋陽刀も同行したに違いない。
中学生だし、異性に興味のある年頃なのは理解する。秋陽刀は中性的な顔立ちをしているが、れっきとした男だ。一方の皐月は美少女であり、好きになるのも無理はない。
さらに、戦いという非日常に巻き込まれているシチュエーションも後押しする。物語の主人公とヒロインのように考えているのだろう。
今ですら、どこかワクワクした表情を見せているほどだ。
いかにも子供の思考だと思う。事の重大さを理解しているようには見えない。なまじ強いせいで緊張感も持っていない。
「遊びじゃないんだぞ」
「分かってるって。てか、まともに指示も出せないリーダーに言われたくないな。俺より弱いくせに、リーダーシップもないとか笑う」
「秋陽刀!」
睦月が声を荒らげてしまったのは、図星を指されたからだ。
最年少の秋陽刀が最も強く、睦月では勝てない。年長者として引っ張ることもできない。
本当に、どうすればいいのやら。
「……俺たちが取るべき選択肢は、いくつかある」
気持ちを落ち着かせ、睦月は話し出す。
リーダーの柄ではないと言っている場合ではない。やらなければいけないのだ。
「一つ目。このまま隠れ住んでいる。水や食糧は準備してあるし、俺たちなら消費量も少ない。引きこもろうと思えば、数ヶ月は余裕だ。一年以上でも引きこもれなくはない」
暴徒と化した人間がマンションを襲う可能性はある。
十二月が四人に秋もいるのだし、まず負けない。引きこもるのは可能だ。
引きこもっているうちに、勝手に解決してくれないかと期待する。消極的な選択肢だ。
「二つ目。新人類の町に行き、他の十二月と合流する。あちらさんの判断を仰ぎつつ方針を決める」
春真は、葉月や長月が仕切っていると言っていた。
まだ生きているかは不明だが、リーダーの適性を持つ者がいてくれると助かる。
今なら警備も手薄になっている。あちらが生きてさえいれば合流できる。
「三つ目。新人類の味方をして、旧人類と戦う。俺たちが新人類である以上、旧人類の味方はできない。こちらが味方だと主張しても、信じてもらえないからな。味方をするなら新人類だ」
旧人類を殺しまくればいい。
なんなら、どさくさに紛れて、自分の殺したい相手を殺してもいい。
実のところ、睦月も考えないわけではない。自分をリストラした会社や上司を恨んでいないと言えば嘘になるし、復讐だって望む。
復讐しようと思えばできる。弱かった頃の自分ではない。強くなったのだ。
睦月としての力を存分にふるえば、いくらでも復讐できてしまう。
それをしてしまえば、本気で怪物に成り下がってしまう恐怖心があり、やらないだけだ。
「俺が考えた選択肢は、この三つだ。他にあるか?」
問いかけても意見は出ない。
「ないなら多数決だ」
「多数決でいいのかよ、リーダー」
「逆に聞くが、俺がこうしろと命じて従えるか?」
「従えないな」
師走だけではなく、他のメンバーも従わない。特に秋陽刀は、頼りない睦月を見下している節がある。
子供に見下されるのは腹が立つものの、頼りにならないリーダーだとは思っているし仕方ない。
ゆえに多数決だ。
「一つ目。隠れ住む案に賛成の者は挙手」
すっと二本の手が挙がる。睦月と師走だ。
「二つ目。新人類の町に行く」
今度も二本の手が挙がる。皐月が挙手し、それを見てから秋陽刀も挙手した。
「三つ目。旧人類と戦う」
残りの文月が挙手した。
面倒な形になったと思っていれば、文月が発言する。
「じゃあ、俺は二つ目に賛成。正直、隠れ住むのでなければなんでもいいんです」
「文月は、そこまで好戦的だったか?」
「そうですよ。毎日毎日、勉強勉強。やりたくもない勉強を強制的にやらされて、なんの役にも立たない知識を詰め込まされて。本当にくだらない日々でした。せっかく勉強から解放されたのに、隠れ住んで退屈に殺されるのは勘弁です」
秋陽刀とは理由が異なるが、文月も戦いが起きている現状を歓迎していた。
家族や学校の友人にも未練はなく、非日常を楽しんでいる。
こちらはこちらで精神的に子供だ。
「だったら、夏帆や霜月と一緒に行けばよかっただろ」
「あれは死ぬじゃないですか。わざわざ死にに行くとかバカですよ。勉強は嫌で、退屈も嫌ですが、死ぬのも嫌です。死なない範囲で何かやりたいんです。新人類の町にいる十二月を命懸けで助ける気は、さらさらありません。こっちの方が面白そうってだけです」
優等生然とした外見ながら、なかなか我欲の強い意見だった。
ともあれ、多数決の結果が出た。
新人類の町に行き、他の十二月と合流する。
そうと決まれば、早速出発だ。




