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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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七十四話 撤退

 僕と姉が十二月(じゅうにつき)の屋敷に戻り、それを見た時、愕然としてしまった。

 立派な屋敷の半分が、瓦礫の山になっている。攻撃されたんだ。


 長月(ながつき)は無事だった。屋敷に非難していた町の住人が怪我をしているようで、一生懸命に治療している。

 四季(しき)神無月(かんなづき)も無事だ。満身創痍だった四季は、ある程度治っている。

 不思議なのは、兵士の姿が全然見えないことだ。四季たちが戦い、全滅させたにしても、遺体が転がっていてもよさそうなのに。


「四季、神無月さん」

速峰(はやみね)春真(はるま)夏帆(かほ)? 怪我をしたから戻ってきた?」

「そうだよ。お姉ちゃんは付き添いね」


 四季は、僕を見て事情を察していた。

 深々と斬り裂かれている右腕は、上着できつく縛って止血してある。それでもあふれる血が指先から滴り落ちているし、一目見て重傷だと分かるだろう。

 僕の怪我はいいとして、屋敷がどうなったのかも教えてもらいたい。


「これ、どうなってるの?」

「外の連中に攻撃された。ただ、理由は分からないけど、すぐに撤退した」

「撤退?」


 意味不明だ。新人類を殺さず、ちょっと攻撃しただけで撤退する必要はない。

 四季たちを恐れた? ずっと戦ってきて、今さら?


「新しい如月(きさらぎ)がやったみたいに、遠くからミサイルを撃ち込む?」


 発言したのは姉だ。一理あるね。

 屋敷は水無月(みなづき)の結界で守られている。いや、守られていた、かな。

 人払いの結界と似たような仕組みだ。完全に隠せるわけじゃないけど、簡単には発見できないようになっている。


 それを発見したので、軽く攻撃しておいてから一度引く。遠くからバンバン攻撃して全滅させる。

 あり得そうな話だし、今にもミサイルが飛んでくるかと警戒してしまう。


「何もないと思う。私たちも警戒していたけど、何もなかった」

「本当に撤退したの?」

「多分」


 油断はできないけど、とりあえずは安心していいのかな。

 僕は傷の痛みで辛いし、警戒しなくていいのは助かる。


「治療してもらいたいけど、割り込むのもなあ」

「春ちゃんは重傷だし、優先的に治療してもらえない?」

「死ぬほどの怪我じゃないよ。しばらく待つ」


 もしも襲われた時のことを考えるなら、戦力になる僕を優先してもらうべきだ。

 だからって、割り込むのは気が引ける。傷付いて苦しんでいるのはみんな同じだし、僕だけ特別扱いしろとは言えない。

 座って休んでいよう。半壊している屋敷は、いつ崩れ落ちるか分からないから入れないので、外で地面に座る。


「あつつつ」


 座ろうとすれば傷が痛んだ。姉が手を貸してくれて、なんとか座る。


「速峰春真の足の傷は、刃物で刺されたみたいに見える。右腕も出血が酷い。何があった?」

「如月の偽物と戦ったんだよ。色々あって、春に覚醒してね。勝ったけど、無傷とはいかなかったんだ」

「他のメンバーは?」

「偽如月は倒しても兵士はいるし、戦ってると思う」


 冬将(ふゆまさ)卯月(うづき)葉月(はづき)さんの三人だ。僕たちと一緒に町にきた卯月はともかく、冬将と葉月さんは戦いっぱなしだね。凄いよ。


「わたしも行くべき?」

「神無月は残ればいい。屋敷が襲われないと決まったわけじゃないし、戦力を残したい。私が行く」

小春(こはる)ちゃん……じゃなくて、四季ちゃんも休もうよ」

「私は平気。夏帆は、弟についていてあげて。弟を守るのは姉の役目。私じゃなくて夏帆がすべき」


 僕のお姉ちゃんを自称していた四季は、役目をバトンタッチすると言っている。

 寂しげな顔をしていたのは気のせいかな。


 僕と姉、神無月の三人が残り、四季は戦いに行った。

 これまで、確か五人の十二月を殺している。五人分の力を奪い、強くなっているはずだ。

 それがいいか悪いかは置いておいて、四季なら負けないと信じよう。

 四季が去り、長月は治療で忙しいので、僕たち三人で休憩する。


「太陽が沈むね」


 姉が言った通り、時刻は夕方に差し掛かっている。仮初の太陽は西の空に沈もうとしていて、夜が近付く。

 僕たちが町に戻ってきた時は朝だった。結構な時間、戦っていたんだ。

 美しい夕焼けは、血の色にも見えた。一日でどれだけの人が死んだことか。


 もうじき夜になる。夜の暗闇は、果たしてどちらを有利にするかな。

 十二月や春夏秋冬は、数日程度なら眠らなくても活動できる。人間である兵士はそうもいかない。

 連戦で疲れ果て、眠気や空腹に襲われているだろう。僕たちが襲撃すれば、休むこともままならず、浮足立つかもしれない。


 あるいは、交代するのかな?

 外には兵士がいるし、その人たちと交代して休むんだ。屋敷を襲撃しておきながら撤退したのは、交代するため?

 そのまま戻ってこなければいいのに。

 つらつらと考え事をしながら、夕焼けの空を眺めていた。


 やがて夜が訪れる。街灯もないし、屋敷は半壊状態だから、明かりが碌にない。

 暗い中で、住人たちはぐったりとうなだれている。保存食を食べている人もいるけど、おいしくなさそうに詰め込んでいるだけだ。

 食べなければ体力がもたない。でも、数分後には攻撃されて死ぬかもしれないのに、食べる意味があるのだろうか。そんな悩みを抱えた雰囲気だ。


 食べる元気がある人はまだマシで、何も食べない人も多い。

 みんな限界だ。ヒステリーを起こして泣きわめく元気すらない。生気を失った表情をしている。


「春ちゃん、ご飯はどうする?」

「僕はいいよ。春なら食べなくてもなんとかなるし」


 食糧は残り少ないそうなので、僕は遠慮しておいた。水だけもらう。

 水を飲んでいると、やっとのことで僕が治療してもらえる番になった。


「治してもキリがない……」


 働き詰めの長月は、疲れた声を漏らしていた。


「すみません」

「お前が悪いわけではないのは知っている。謝る必要はないが……ふぅ」

「大丈夫ですか? 長月さんが倒れるのはダメですし、休んだ方が」

「言われずとも、休ませてもらう。俺の力も万能ではないし、延々と使い続けることもできない」


 愚痴りつつも、自分の仕事はきちんとこなすのがさすがだ。

 治療が終われば、僕も加勢しに行こう。姉と神無月はこっちに残ってもらい、長月たちの護衛をしてもらおうか。

 二人に提案しようとしたけど、その前に意外なことが起きる。


 戦っていたはずのメンバーが戻ってきたんだ。

 冬将、卯月、葉月さんに加え、途中で出て行った四季もいる。

 全員無事なのは嬉しいけど、戻ってくるなんてどうしたんだろ?


「葉月、どうなっている? なぜ戻ってきた?」


 質問したのは長月でも、僕や姉、神無月も同じ疑問を抱いていた。

 葉月さんの答えはというと。


「それが、変なのよ。町に残っていた部隊が撤退したの。新しく攻めてくる気配もないわ」

「隠れている可能性は? 今は夜だ。闇に紛れて隙をうかがっているかもしれん」

「個人単位ならあっても、ほぼ全部の部隊が撤退したと考えていいわ。私たちも外に行くか悩んだけど、さすがに無謀だと判断したの」

「賢明な判断だ。にしても、全部隊が撤退だと? 考えが読めん」

「私もよ。戦力を整えるためかとも考えたわ。ただ、それなら新しい部隊が攻めてくると思うのよね。あいつらが休んでいる間、私たちも休めるし、こちらの体力も回復してしまう。こんな簡単なことに気付かないとは思えなくて」


 葉月さんと長月で、あれこれ考察していた。

 僕たちも考えるけど、考えても答えは分からない。

 せっかくのチャンスだし、休もうってことになった。特に、葉月さんと冬将は碌に休んでいなかったから、泥のように眠った。

 治療してばかりで疲労困憊の長月も眠り、残りのメンバーは見張りをする。

 唐突に訪れた安息の時間だ。このまま何事もなく、朝日を拝めるといいな。

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