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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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七十二話 親友の名

「俺の新しい名前は――如月(きさらぎ)十二月(じゅうにつき)の如月だ」


 こいつが如月? 新しく覚醒した如月?

 僕の親友が死に、こんな奴が覚醒した?


「お前が……お前なんかが、僕の親友の名を騙るな!」


 新しい如月が覚醒するのはいいよ。他の十二月だって何人も覚醒している。

 複雑な心境ではあるけど、覚醒した人が悪いわけじゃない。仲間としてやっていければいいと思う。

 こいつはダメだ。こんな奴が、力に酔いしれている奴が如月を名乗るのは、認めない。


「騙るも何も、俺は事実如月だ」

「その名前を……!」

速峰(はやみね)、落ち着きなさい」


 激昂しかけた僕を、葉月(はづき)さんが止めた。

 今すぐに飛びかかり、殴ってやりたい気分を抑える。

 如月……いや、この男と話すのは、葉月さんだ。


「あなたが新しい如月なのは理解したわ。十二月の気配を確かに感じるし、嘘ではないでしょう。水無月(みなづき)弥生(やよい)の可能性もあるけど、だったらその名前を名乗ればいいだけよね。如月だと名乗る意味はないし、おそらく事実」


 葉月さんは冷静に考察していた。

 ただし、気を許しているわけじゃない。この男は危険だ。


「あなたは、私たちの味方なの? 敵なの?」

「どっちでもない。最強の力を手に入れた俺は、好きにやるだけだ。ムカつく奴がいればぶっ殺すし、いい女がいれば奪う。俺の邪魔をするなら殺す」

「欲望の権化ね」

「せっかくの最強の力だ。楽しまなきゃ損だろ?」


 さっきから、繰り返し「最強」を主張している。

 覚醒したばかりだから、詳しい事情を知らないのかな。

 如月は、十二月の序列二位だ。十二月の中では上位の強さを持つ。

 でも、睦月(むつき)の方が上だ。春夏秋冬にも勝てない。この男は決して最強じゃない。


 霜月(しもつき)は失ったものの、こちらは七人いる。

 一番弱い僕が言うのは、虎の威を借る狐になるけど、戦えば確実に勝てる。

 理解しているのかいないのか、相変わらず嫌な笑みを浮かべつつ話す。


「俺こそ聞きたいな。おたくらは、俺の敵か? 味方か? ああ、男はいらね。女四人は、俺に服従するなら生かしてやるよ」

「服従は真っ平だ……って言ったら?」


 当たり前だけど、葉月さんは服従する気がなさそうだ。姉や四季(しき)神無月(かんなづき)も同じだろう。

 僕だって、こんな奴にみんなを渡したくない。


冬将(ふゆまさ)卯月(うづき)さん」

「言われるまでもねえな。仮に(よう)さんが服従するって言い出しても、俺が無理矢理止めてやる。ぜってえ反対だ」

「十二月としてよりも、同じ軍人として唾棄すべき思想だ」


 全会一致で、この男には従わないとなった。

 外に出すのも避けたい。外に出れば、本人の言葉通り好きにやる。犠牲者が大勢出る。

 ここで倒しておくべきだ。


「身の程知らずっつうかなんつうか、ちょっと強いからってイキがってるバカしかいない。俺の邪魔をするなら、敵と認識する。殺すぞ」


 表情が一変し、鋭い目つきになった。

 この男は戦おうとしていて、みんなも受けて立つ気だ。もちろん僕もね。


「速峰……いえ、神無月。あなたは、四季を連れて長月(ながつき)のところに戻って」

「了解」


 葉月さんが命じて、満身創痍の四季は撤退する。

 戦力的には、神無月よりも僕が付き添う方がいいけど、葉月さんは僕の気持ちを汲んでくれたみたいだ。

 親友の名を騙る奴と戦いたい。倒したい。撤退したくない。

 言葉には出さなくても、顔に出ていたかな。


 こちらは五人だ。冬将と姉に、十二月の卯月と葉月さん、そして僕。

 五対一は卑怯だけど、わざわざ一人で戦ってあげる義理はない。この先も戦いは続くし、なるべく消耗しないように勝ちたい。


「やれやれ、マジで身の程知らずだな」

「身の程知らずはどっちだ……よ!」


 先手を仕掛けたのは冬将だった。覚醒済みの冬の力を発揮し、一気に接近する。

 僕じゃギリギリ目で追えるか追えないかってレベルの動きで、顔面に向けてパンチを繰り出した。

 冬将が本気で殴れば、一般人なら即死だ。十二月だって無事じゃ済まない。


 瞬間移動じみた動きに、鋭く重い一撃だ。冬将は殺す気で殴ったと思う。

 にもかかわらず、この男は余裕を持って反応し、受け止めてしまった。


「な? 身の程知らずだろ?」

「んにゃろ!」


 冬将は連続で殴りかかる。相手も黙って殴られるわけはないし、拳と拳がぶつかり合う。

 昔、四季と師走(しわす)も素手同士でガチンコの殴り合いをしていた。見ていた僕は、どちらも人間離れしていると感じたものだ。

 今の二人は、当時の四季と師走よりもずっと強い。更地となった町中に、拳が衝突する音が響き渡る。


 割って入る隙がないと思っていれば、葉月さんが加勢した。

 二人で組んでいただけあって、コンビネーションがうまい。冬将の邪魔をしないように攻撃している。

 形勢は互角だけど、なんで互角なの?


「冬将と葉月さんが二人がかりで互角とか、どうなってるの?」


 僕の疑問には、姉も卯月も答えられなかった。

 序列二位の強さじゃない。葉月さんはまだしも、冬将と互角の勝負ができるのはおかしい。


「一度下がって!」


 声を張り上げたのは姉だ。

 冬将と葉月さんが下がり、姉が前に出る。

 僕と卯月も続いた。三人で攻撃だ。

 自分で戦ってみて分かる。僕じゃ足元にも及ばないし、異様なほど強い。

 悔しいけど、僕は足手まといだ。卯月や葉月さんですら邪魔になる。

 三人は離れて、姉と冬将が協力して立ち向かう。


「ふう、だから身の程知らずなんだっての。お前ら、なんにも分かってないな」


 戦いの最中に会話をする余裕まであるのか。


「覚醒したばかりの俺の方が分かってるぜ。十二月ってのは、永遠の命を求めた結果誕生した。永遠の命だ。人類が追い求めた夢であり、欲望だ。仲間のためとか平和のためとか、綺麗事を口にしているようじゃ本来の力は発揮できない。そっちの女は、俺を『欲望の権化』っつったよな? だから俺は強いんだよ」


 とんでもない暴論だった。

 要するに、富、名声、名誉、女、みたいな欲望を持てと言っている。それらを持てば持つほど、十二月は強くなれるって。

 正しいのか間違っているのかは知らないけど、そんなのが十二月のあるべき姿だとは思いたくない。


 大勢死んだ。みんな、仲間を大切にし、平和に暮らしたいと望んでいた。

 みんなの気持ちを踏みにじる、最低最悪な現実になってしまう。


 パニック映画とは正反対って言えばいいのか。

 冷静で思慮深い判断を下し、人々を助けたり化け物に立ち向かったりする主人公が弱くなり、負ける。愚かで身勝手な行動を取るサブキャラが強くなり、勝つ。

 現実は映画みたいにうまくいかないし、厳しいのは分かるけど、あんまりだ。

 僕たちがやってきたことはなんだったんだ。


 許せない。ユルセナイ。

 ――プツン、と。

 何かが弾けた気がした。


「ああ……やっと分かったよ」

「速峰?」

「僕がどうして春に覚醒できなかったのか、やっと分かった」


 僕が望んだ全兎は、みんなだ。

 如月や紺屋(こうや)さんがいてくれて、四季や十二月とも仲良くして、学校のクラスメイトとも。

 だからって、凄惨な殺し合いはしたくない。意見がぶつかり合うことはあるし、時には喧嘩もするけど、殺し合いは違う。


 甘ったれた理想を追い求めていたのが僕だ。

 しょっちゅう言われていたように、脳内お花畑だ。

 親友の名を騙るこいつの言葉が正しいなら、春に覚醒できないわけだよ。十二月も春夏秋冬も同じだ。

 姉や冬将は優しいけど、僕ほど甘ったれていない。僕の理想が、春への覚醒を阻害していた。


 僕は、映画の主人公みたいに勇敢じゃないし、頭がよくもない。

 ただ、能力を別にするなら、望んでいたものは映画の主人公と同じだ。みんなを助けたいと願っていた。

 僕の願いは、ことごとく叶わなかった。外に出た時に睦月たちの死を知り、町に戻ってきた時は如月の死を知った。恋人の紺屋さんも失った。


 僕の望んだ全兎の数が減れば減るほど、強くなった。

 この上なく、残酷だ。

 そして、今、望んでいるのは。

 親友の名を騙るこいつを――

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