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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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七十一話 力に酔う

 姉と二人で兵士と戦う。

 夏に覚醒済みの姉は非常に強い。小型ミサイルを蹴り返した時は、僕ですら顎が外れそうなほど驚愕した。

 お姉ちゃん、あなたはなんなのですか。


 一方の僕はというと、なんだか力が増している気がする。

 まだまだ姉には及ばない。春に覚醒しているわけではないだろう。


「春ちゃんの力は、下位の十二月(じゅうにつき)と同じくらいかな。師走(しわす)とか」


 町に入る前までは、鍛えた格闘家ほどの力だった。師走と同程度になっているなら、相当強くなっている。

 結界を張る能力を持つ水無月(みなづき)と、怪我の治療ができる長月(ながつき)よりも強い。

 強くなった理由は不明だ。僕みたいに段階的な覚醒をしている人は知らない。


 紺屋(こうや)さんは、弥生(やよい)に半覚醒していた。僕と似ているけど、少し違う。

 あの時は、覚醒した如月(きさらぎ)と戦える力はあったんだ。

 春に半覚醒したなら、もっと強くなっていてもいい。

 ところが、妙に中途半端だ。夏である姉や、冬である冬将(ふゆまさ)には及ばない。戦闘向きの十二月とも差がある。


 これからもっと強くなるのか、今が限界なのかは知らない。

 知らないけど、僕がやることは変わらない。力の有無に関係なく戦う。

 ただし、殺すことはいまだにできなかった。手足を折り、戦闘不能にするだけにとどめている。

 葛藤はある。自分の手さえ汚さなければいいのか、僕のせいで姉が殺されてしまえばどうするのか。

 ここは、姉に甘えている。「春ちゃんは今のままでいいよ」と言ってくれた。


「お姉ちゃんは、人を殺すことをどう思ってるの?」


 戦いの最中に聞くことじゃない気もするけど、気になったので質問した。


「殺したくはないよ。少し前までは普通の女子大生だったし、命の奪い合いどころか殴り合いの喧嘩もした経験がないんだもん。夏に覚醒したせいで、人を殺すことに何も感じなくなってるわけでもないしね。でも、春ちゃんを守りたいから、そのためなら遠慮しない。覚悟はできてる」


 四季(しき)と似ているな。姉も覚悟を決めているんだ。

 簡単に決められることじゃなかっただろう。姉は姉なりに悩み、決断した。

 精神力というか胆力というか、そういったものに優れている。

 まあ、姉も無差別に殺しているわけじゃない。僕のように手足を折るだけで済ませることの方が多かった。

 二人がかりで協力し、なんとか倒し切る。二百人ほどいたのに、よく勝てたよ。


 人よりも武器の方を重点的に壊しておく。

 持ち主以外は使えないようになっているって話だけど、解除する手段はあるはずだ。再利用されると面倒だし、破壊しておく方がいい。

 地面には兵士たちが転がっている。生きている人の手足は折ってあるし、苦痛にうめいている。

 死屍累々となった戦場を見下ろすと、嫌な気持ちになるな。


「こんな戦いが、いつまで続くんだろ」

「ふざ……けるな」


 僕の独り言に反応したのは、倒れている兵士だ。

 動けなくなりつつも、顔だけを上げて僕を睨み、声を絞り出す。


「平和を脅かしたのは、どちらだ……怪物め」


 度胸があるなって場違いな感想を抱く。

 僕たちの機嫌を損ねれば、殺されてしまうかもしれない。それでも言わずにはいられなかった。

 この人たちは、怪物を殺すのが楽しくてたまらない快楽殺人者ではない。平和のために戦っている人たちだ。


 気持ちは僕たちとなんら変わらない。仲間や家族を守りたいと考えている。

 やるせないな。さっきも考えたけど、分かりやすいラスボスがいてくれればいいのに、いないから困る。


「春ちゃん、気にしちゃダメ」

「うん」


 思考を切り替える。次はどうしようか。

 外の兵士たちは、町に散らばっている。だだっ広い荒野とかならともかく、市街戦なのに万単位で固るのは、得策じゃないからだろう。

 ぎゅうぎゅう詰めになって、身動きがとれなくなる。後方にいる人は攻撃できないし、前の人は撤退できない。誤射も怖い。


 数百人単位の部隊で町に散らばり、住人を殺しているみたいだ。

 十二月の屋敷にいた人以外は、ほとんど全滅している。まともに戦えているのは僕たちだけだ。

 こちらから出向く手もあるけど、待ち構えるのも一つだ。

 倒れている兵士が盾になる。増援部隊がやってきても攻撃しにくい。

 賢い人なら、待ち構えるのかな。


「ぼさっと立っていても仕方ないし、行くよ」

「分かった、お姉ちゃん」


 僕も姉も、残念ながら賢くない。

 僕たちは怪物だ。普通の人間とはかけ離れた力を持つ、人類の敵だ。

 怪物なら怪物らしく、手段を選ばない……とはできないよね。

 盾にする作戦は実行しない。この場を離れる。傷付いた人たちは、仲間が発見して助けるだろう。

 次なる戦場に向かいながら、姉に気持ちを打ち明ける。


「僕は、全兎を望んだんだ」

「急にどうしたの?」

「ちょっとね。僕は全部欲しかった。如月も紺屋さんも四季も。当時は敵だった十二月の人たちも。クラスメイトも。みんなで仲良くできたらいいなって、できもしない理想論を唱え、追いかけていた。夢見ていた」


 僕が欲した物は、ことごとく手のひらからこぼれ落ちた。

 どうしてうまくいかないんだ。如月に言われた通り、一兎に集中すればよかったのかな。

 何度も後悔する。

 後悔しても、僕は……


「僕は、全兎を望む」


 他は全て切り捨てて、一番大切な姉のことだけを考えればいいのかもしれない。

 だけど、全兎を望むよ。

 しつこいほどに、自分に言い聞かせる。迷うたびに言い聞かせて進む。

 どこに敵が潜んでいるか分からないし、警戒しながら歩いていると。

 耳をつんざく爆発音が届いた。


「な、なんだ?」


 戦いの音自体は聞こえていたけど、これまでの比じゃない轟音だ。

 ここからでも灰色のキノコ雲が見えている。

 僕と姉は、軽く目配せして、キノコ雲の方へ駆け出す。


 そこには何もなかった。

 周辺の建物は消し飛んでいる。人も碌に残っていない。そこかしこに転がる黒い欠片は、果たして建物の破片なのか、もしくは……


 生きている人間は二人。

 なんとか原形をとどめている死体が一人分あって、霜月(しもつき)だ。

 また、仲間が一人死んだ。

 霜月が死んだのは悲しい。彼のおかげで町に戻ってこられたんだ。

 葉月(はづき)さんに前任の霜月の気持ちを伝え、役目が終わったと言わんばかりに死んでしまった。


「四季!」


 霜月の死を嘆くよりも、生きている四季が重要だ。

 近寄れば、満身創痍であると分かる。


「大……丈夫。霜月を喰らったおかげ」

「とどめを刺したのは四季なの?」


 僕の問いに答えるのは、四季ではなく、もう一人の生き残りだ。

 満身創痍の四季とは違い、ピンピンしている。


「可愛い顔してえげつないよな。死にかけとはいえ、仲間を殺したんだ」


 こいつは誰だ?

 若い男だった。二十代前半くらいに見える。服装からして兵士の一人だと思うけど、なんで生きている?

 僕と姉が爆発音を聞いてやってきたように、こいつも爆発後に到着したから?

 それにしては、表情がおかしい。凄惨な現場に似つかわしくない、ヘラヘラと嫌味な笑みを浮かべている。


「こいつ、頭おかしい。私と霜月で外の連中と戦っていたら、遠距離から仲間ごと巻き込んで爆破した」

「頭おかしいは酷いぜ。俺は最善手を打ったんだ。頭の固い上官をぶち殺して兵器を奪い、敵を殺した。それだけだ」


 味方ごと爆破した?

 この状況を見れば、相当強力な核兵だったと思われる。強力過ぎれば使い勝手が悪いけど、いざという時のために持ち込んだのかな。

 善悪を論じる気はない。戦争なんてそもそも悪だって話もある。


 どうしてできたんだ?

 兵士は大勢いる。上官を殺しても、他の人に止められてしまうはずだ。

 たった一人で、何十人、何百人もの包囲を抜けるのは、一般の兵士ではできない芸当だ。


速峰(はやみね)!」


 考えていたら、葉月さんも姿を見せた。冬将に、卯月(うづき)神無月(かんなづき)もいる。


「お? いい女がいるじゃん。戦いばっかで溜まってんだよな。ガキよりは、胸のでかい方が好きだ。もらってくぜ」


 葉月さんを見て、下品な発言をしていた。

 葉月さんは、嫌悪感をあらわにするかと思ったけど、それどころじゃないみたいに驚愕している。


「じゅ、十二月? 一体、誰なの?」


 十二月だって? こいつが?

 新しく覚醒したんだ。兵士が十二月になってもおかしくない。


「これ、覚醒っつうんだっけか? 最っ高の気分だ。最強の力を得た。ムカつく上官にヘコヘコ頭を下げる必要はなくなったし、元同僚も殺してやった。俺はなんでもできるようになったんだ」


 力に酔いしれているみたいな雰囲気だった。

 陶酔して語り、名乗りを上げる。


「俺の新しい名前は――如月。十二月の如月だ」

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