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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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七十話 愚者の戦い、賢者の戦い

小春(こはる)……ちゃん」

「今の私は四季(しき)。小春の名前は捨てた」

「四季……ちゃん? 名前は変わっても、私の知る小春ちゃんだよね?」

「久しぶり、夏帆(かほ)。でも、夏帆の知る小春だとは言えない。私は怪物。夏帆も見たように、あなたの弟の恋人を殺した。恨んでいい」

「恨まない……恨めないかな。春ちゃんだって……」

「うん、僕も恨んでない。恨むとすれば僕自身だ」


 何日でも泣き腫らしたい気分だけど、必死で自分を取り繕う。

 戦いが終われば、いくらでも、好きなだけ泣こう。親友や恋人、仲間たちの死を悲しみ、弔おう。

 今は泣く時じゃない。


 僕たちが話している間も、長月(ながつき)は治療を続けていた。彼は自分の役目を理解し、果たしている。

 霜月(しもつき)は治り、傷付いていた姉や葉月(はづき)さん、冬将(ふゆまさ)たちも復活した。

 最後に僕も手当てしてもらい、これで全員だ。


 完治には至らない。いくら長月でも、そこまではできないみたいだ。

 完治していなくても戦いを継続する気でいる。

 五人を失ったものの、新しい戦力が加わっている。まだまだ戦える。

 戦わなければ犠牲者が増える一方だ。


速峰(はやみね)は休んでいてもいいのよ?」

「ありがとう、葉月さん。でも戦うよ。葉月さんたちに比べれば弱いけど、僕も少しだけ強くなったんだ」

「力の問題じゃなくてね」


 葉月さんは、心の傷を心配している。

 親友の如月(きさらぎ)を失い、恋人の紺屋(こうや)さんを失った。立ち直れたかというと全然だ。

 こんな時でないなら、ふさぎ込んで家に引きこもり、泣いている。


 今は立ち止まるな。前に進め。

 悲しいのも辛いのも僕一人じゃない。みんな同じだ。

 十二月(じゅうにつき)の仲間を大勢失っているのに、みんな辛さをこらえている。

 兵士の人たちも、僕にとっては敵だけど、仲間が死んで悲しんでいる。


 敵味方は関係ない。親しい人が死ねば悲しい。

 悲しくても、各々の決意があって戦っている。なのに、僕だけ休めないよ。

 舞台に上がるんだ。せめてサブキャラになって、戦うんだ。

 たとえ、悲しみの連鎖が続く不毛な戦いでも。


「微力ながら、僕も戦う」

「速峰は強くなったわね」

「強くないよ。弱いのに、必死で虚勢を張って、強いふりをしてるんだ。本当は泣きじゃくりたいのに」

「虚勢を張れるのも、一種の強さよ。今のあなたなら戦えるわ」


 こちらの戦力は、まずは覚醒済みの夏と秋。この二人がツートップだ。

 いや、今は四季の方が強いのかな?

 古い十二月の中で、長月とともに生き残っている葉月さん。

 新たに覚醒した卯月(うづき)神無月(かんなづき)、霜月の三人。

 中途半端な力しかないけど、僕もいる。


 八人だ。多いとは言えないけど、相手の人数も減っているはずだ。

 なお、長月は治療に専念してもらう。彼が死んでしまえば全員が困るし、戦いから逃げていると言い出す人はいない。

 長月の悔しさを一番理解できるのは、おそらく僕だろう。みんなが戦っているのに、自分は何もできないのは辛い。

 辛くても屋敷で待機してもらう。


「ある程度、戦力を分けましょう。固まるのも一つの手ではあるけど、すると相手も戦力を固めるし、全滅が怖いわ」


 リーダーらしく、葉月さんが指示を出す。

 これまでも二人で組みつつ戦っていたそうだ。犠牲者が出れば、合流したりもしていたけど、基本は二人組になる。

 下手に全員で固まるよりも動きやすく、戦いやすい。


「私と冬将が組むとして、他はどうする? 卯月と神無月はコンビの方がやりやすいかしら?」

「そうしてもらえると助かる」

「わたしも」


 卯月と神無月が認めたので、この二人がコンビだ。


「速峰はお姉さんと一緒で、消去法で四季と霜月?」


 僕たちにも異存はなく、四組が決まった。

 葉月さんから状況の説明がある。


「敵の数はかなり減らしたわ。死んだ人も多いし負傷者も多い。負傷者を助けるために、撤退していたりもする。ただ、外には大勢控えているはずなのよ。速峰たちが町に入る時も兵士がいたでしょ?」

「いたね。ほとんど戦わなかったし、数も減ってない」

「増援部隊が入ってきて、結局敵の戦力は変わらないことになる。こっちはどんどん死んでるのにね」


 元々、新人類と旧人類は戦力差があった。旧人類が上だ。

 戦争すれば旧人類の被害も増えるし、それが嫌でしなかっただけだ。

 状況が変わり、今や新人類を滅ぼすべしって方針になっている。少々の犠牲は織り込み済みで、とにかく新人類を滅ぼすのが先決だって。

 だから、敵を殺しても引いてくれない。新しい部隊を投入して新人類を全滅させようとする。


「全滅させるのは不可能なのに……」

「不可能ってどういうこと?」

「僕の勝手な予想というか願望というか、新人類を説得できる根拠はないけど」


 葉月さんに、覚醒が早まっている事実を伝える。


「十二月の覚醒が早まっているし、殺しても新たに覚醒するだけだと考えている。時間稼ぎにすらならない。一日もたたずに覚醒するし、十二月を殺しても新人類を全滅させても、永遠に終わらないよ」

「説得の材料にするには弱いわね。信じてもらえないわ」

「だよね」


 旧人類は信じない。死にたくないから嘘をついていると判断する。

 信じるとすれば、実際に覚醒した時だ。

 殺しても殺しても覚醒する。全滅させたと思っても復活する。いつまでたっても戦いが終わらない。


 永遠に続く戦いに疲弊し切った時に、遅まきながら信じる。

 ああ、新人類は全滅させられないんだって。

 それまでに、果たしてどれだけの時間を要し、どれだけの血が流れることか。


「速峰春真(はるま)の考えが正しいとすれば、意外と早く終わりそうな気もするな」

「長月がそう考える理由は何? 私は終わるとは思えないわよ」

「葉月は根本部分が甘いからだ。今もそうだが、俺たちは真正面からぶつかる必要などない。戦力で劣るなら劣るなりの戦い方がある。外に出て、一般人を巻き込むテロを繰り返せばいい」

「やらないわ。余計に泥沼になるだけよ」

「それが甘いと言っている。新しく覚醒する十二月は、葉月のように甘い考えで行動するとは限らない。何をしでかすか分からんぞ。現時点ですら、外には十二月が四人と覚醒済みの秋がいるのだろう? そいつらが手段を選ばずに暴れれば」


 確かに、外にいる睦月(むつき)たちがテロを行えば大変だ。

 睦月たちはやらないとしても、今後どんな人が十二月に覚醒するか分からない。少しでも頭の切れる人なら、まともに戦いもしない。

 僕たちが今やっているような戦いは、愚者のすることだ。賢い人は賢い人なりの戦いをする。


 旧人類は後悔するだろう。時の止まった町に閉じ込め続けておいた方が、まだマシだったって。

 後悔し、戦いを続けるよりも和平の道を選ぶ。冷戦状態に戻れる。

 長月は、こうなるのが意外と早いと言っているんだ。


「早いとはいえ、今日明日中ではないな。俺たちも生き残れまい」

「後ろ向きなことは考えないでおきましょう。私たちの意見を伝えても聞いてもらえそうにないし、戦うしかないの」


 葉月さんの言う通り、僕たちは戦い続けるしかないんだ。今さら交渉なんてしてもらえない。

 戦うために屋敷を出る。死と破壊に満ちた戦場だ。


 僕はずっと後ろに隠れ、守られていた。外に出る時は使者としてだったし、町に戻る時は戦わずに駆け抜けた。

 さっきは少し戦ったけど、襲われたからやり返した程度だ。

 今回初めて戦場に赴く。自分から戦う。


「春ちゃん、行こう」


 姉に声をかけられて、二人並んで歩き出す。

 嫌な戦いだ。嫌じゃない戦いもなかなかないけど、こいつを倒せば終わりだって相手がいないのが嫌だ。


 本当にさ、映画みたいなラスボスとかがいてくれればいいのに。

 ラスボスを倒せばおしまい。全部解決ってね。

 兵士をいくら倒しても終わらないし、総理大臣とかを暗殺しても無理だ。

 現実はままならない。

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