七十話 愚者の戦い、賢者の戦い
「小春……ちゃん」
「今の私は四季。小春の名前は捨てた」
「四季……ちゃん? 名前は変わっても、私の知る小春ちゃんだよね?」
「久しぶり、夏帆。でも、夏帆の知る小春だとは言えない。私は怪物。夏帆も見たように、あなたの弟の恋人を殺した。恨んでいい」
「恨まない……恨めないかな。春ちゃんだって……」
「うん、僕も恨んでない。恨むとすれば僕自身だ」
何日でも泣き腫らしたい気分だけど、必死で自分を取り繕う。
戦いが終われば、いくらでも、好きなだけ泣こう。親友や恋人、仲間たちの死を悲しみ、弔おう。
今は泣く時じゃない。
僕たちが話している間も、長月は治療を続けていた。彼は自分の役目を理解し、果たしている。
霜月は治り、傷付いていた姉や葉月さん、冬将たちも復活した。
最後に僕も手当てしてもらい、これで全員だ。
完治には至らない。いくら長月でも、そこまではできないみたいだ。
完治していなくても戦いを継続する気でいる。
五人を失ったものの、新しい戦力が加わっている。まだまだ戦える。
戦わなければ犠牲者が増える一方だ。
「速峰は休んでいてもいいのよ?」
「ありがとう、葉月さん。でも戦うよ。葉月さんたちに比べれば弱いけど、僕も少しだけ強くなったんだ」
「力の問題じゃなくてね」
葉月さんは、心の傷を心配している。
親友の如月を失い、恋人の紺屋さんを失った。立ち直れたかというと全然だ。
こんな時でないなら、ふさぎ込んで家に引きこもり、泣いている。
今は立ち止まるな。前に進め。
悲しいのも辛いのも僕一人じゃない。みんな同じだ。
十二月の仲間を大勢失っているのに、みんな辛さをこらえている。
兵士の人たちも、僕にとっては敵だけど、仲間が死んで悲しんでいる。
敵味方は関係ない。親しい人が死ねば悲しい。
悲しくても、各々の決意があって戦っている。なのに、僕だけ休めないよ。
舞台に上がるんだ。せめてサブキャラになって、戦うんだ。
たとえ、悲しみの連鎖が続く不毛な戦いでも。
「微力ながら、僕も戦う」
「速峰は強くなったわね」
「強くないよ。弱いのに、必死で虚勢を張って、強いふりをしてるんだ。本当は泣きじゃくりたいのに」
「虚勢を張れるのも、一種の強さよ。今のあなたなら戦えるわ」
こちらの戦力は、まずは覚醒済みの夏と秋。この二人がツートップだ。
いや、今は四季の方が強いのかな?
古い十二月の中で、長月とともに生き残っている葉月さん。
新たに覚醒した卯月、神無月、霜月の三人。
中途半端な力しかないけど、僕もいる。
八人だ。多いとは言えないけど、相手の人数も減っているはずだ。
なお、長月は治療に専念してもらう。彼が死んでしまえば全員が困るし、戦いから逃げていると言い出す人はいない。
長月の悔しさを一番理解できるのは、おそらく僕だろう。みんなが戦っているのに、自分は何もできないのは辛い。
辛くても屋敷で待機してもらう。
「ある程度、戦力を分けましょう。固まるのも一つの手ではあるけど、すると相手も戦力を固めるし、全滅が怖いわ」
リーダーらしく、葉月さんが指示を出す。
これまでも二人で組みつつ戦っていたそうだ。犠牲者が出れば、合流したりもしていたけど、基本は二人組になる。
下手に全員で固まるよりも動きやすく、戦いやすい。
「私と冬将が組むとして、他はどうする? 卯月と神無月はコンビの方がやりやすいかしら?」
「そうしてもらえると助かる」
「わたしも」
卯月と神無月が認めたので、この二人がコンビだ。
「速峰はお姉さんと一緒で、消去法で四季と霜月?」
僕たちにも異存はなく、四組が決まった。
葉月さんから状況の説明がある。
「敵の数はかなり減らしたわ。死んだ人も多いし負傷者も多い。負傷者を助けるために、撤退していたりもする。ただ、外には大勢控えているはずなのよ。速峰たちが町に入る時も兵士がいたでしょ?」
「いたね。ほとんど戦わなかったし、数も減ってない」
「増援部隊が入ってきて、結局敵の戦力は変わらないことになる。こっちはどんどん死んでるのにね」
元々、新人類と旧人類は戦力差があった。旧人類が上だ。
戦争すれば旧人類の被害も増えるし、それが嫌でしなかっただけだ。
状況が変わり、今や新人類を滅ぼすべしって方針になっている。少々の犠牲は織り込み済みで、とにかく新人類を滅ぼすのが先決だって。
だから、敵を殺しても引いてくれない。新しい部隊を投入して新人類を全滅させようとする。
「全滅させるのは不可能なのに……」
「不可能ってどういうこと?」
「僕の勝手な予想というか願望というか、新人類を説得できる根拠はないけど」
葉月さんに、覚醒が早まっている事実を伝える。
「十二月の覚醒が早まっているし、殺しても新たに覚醒するだけだと考えている。時間稼ぎにすらならない。一日もたたずに覚醒するし、十二月を殺しても新人類を全滅させても、永遠に終わらないよ」
「説得の材料にするには弱いわね。信じてもらえないわ」
「だよね」
旧人類は信じない。死にたくないから嘘をついていると判断する。
信じるとすれば、実際に覚醒した時だ。
殺しても殺しても覚醒する。全滅させたと思っても復活する。いつまでたっても戦いが終わらない。
永遠に続く戦いに疲弊し切った時に、遅まきながら信じる。
ああ、新人類は全滅させられないんだって。
それまでに、果たしてどれだけの時間を要し、どれだけの血が流れることか。
「速峰春真の考えが正しいとすれば、意外と早く終わりそうな気もするな」
「長月がそう考える理由は何? 私は終わるとは思えないわよ」
「葉月は根本部分が甘いからだ。今もそうだが、俺たちは真正面からぶつかる必要などない。戦力で劣るなら劣るなりの戦い方がある。外に出て、一般人を巻き込むテロを繰り返せばいい」
「やらないわ。余計に泥沼になるだけよ」
「それが甘いと言っている。新しく覚醒する十二月は、葉月のように甘い考えで行動するとは限らない。何をしでかすか分からんぞ。現時点ですら、外には十二月が四人と覚醒済みの秋がいるのだろう? そいつらが手段を選ばずに暴れれば」
確かに、外にいる睦月たちがテロを行えば大変だ。
睦月たちはやらないとしても、今後どんな人が十二月に覚醒するか分からない。少しでも頭の切れる人なら、まともに戦いもしない。
僕たちが今やっているような戦いは、愚者のすることだ。賢い人は賢い人なりの戦いをする。
旧人類は後悔するだろう。時の止まった町に閉じ込め続けておいた方が、まだマシだったって。
後悔し、戦いを続けるよりも和平の道を選ぶ。冷戦状態に戻れる。
長月は、こうなるのが意外と早いと言っているんだ。
「早いとはいえ、今日明日中ではないな。俺たちも生き残れまい」
「後ろ向きなことは考えないでおきましょう。私たちの意見を伝えても聞いてもらえそうにないし、戦うしかないの」
葉月さんの言う通り、僕たちは戦い続けるしかないんだ。今さら交渉なんてしてもらえない。
戦うために屋敷を出る。死と破壊に満ちた戦場だ。
僕はずっと後ろに隠れ、守られていた。外に出る時は使者としてだったし、町に戻る時は戦わずに駆け抜けた。
さっきは少し戦ったけど、襲われたからやり返した程度だ。
今回初めて戦場に赴く。自分から戦う。
「春ちゃん、行こう」
姉に声をかけられて、二人並んで歩き出す。
嫌な戦いだ。嫌じゃない戦いもなかなかないけど、こいつを倒せば終わりだって相手がいないのが嫌だ。
本当にさ、映画みたいなラスボスとかがいてくれればいいのに。
ラスボスを倒せばおしまい。全部解決ってね。
兵士をいくら倒しても終わらないし、総理大臣とかを暗殺しても無理だ。
現実はままならない。




