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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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六十九話 喰らう者

 僕たちは、どうにかそこにたどり着く。

 十二月(じゅうにつき)の屋敷だ。僕は初めて訪れるけど、葉月(はづき)さんがいるから、ここに住んでいたと教えてもらえた。

 結界で守られているようで、戦火が届いていない。


 屋敷に入れば長月(ながつき)がいた。葉月さんたちの気配を感じて出迎えたのかな。

 見知らぬ顔が多いので驚いていたけど、一番驚いたのは僕を見た時だった。


速峰(はやみね)春真(はるま)!? お前、生きていたのか!?」

「運よく生きられました。長月さん、いきなりで悪いですけど怪我の治療をお願いします。見ての通り重傷者が多いので」

「分かった。すまんが、屋敷内には町の住人がいるため、空き部屋がない。ここで治療するぞ」


 ベッドどころか椅子一脚すらないエントランスで治療を施す。

 まずは、右腕を失っている霜月(しもつき)から治療してもらう。

 治療しつつ、お互いに情報交換だ。葉月さんや冬将(ふゆまさ)にも説明しなきゃいけない。


 僕が外で攻撃され、一週間ほど意識を失っていた。

 死ぬところだったけど、外で覚醒した十二月に助けられた。中でも霜月と夏を連れて加勢にきた。

 途中、覚醒したばかりの卯月(うづき)神無月(かんなづき)も合流し、五人になった。

 ざっくりとだけど一部始終を説明した。


「んなバカな。卯月と神和(かんな)が死んでから、碌に時間がたってねえぞ。せいぜいで一日ってとこだ。タイムラグがほとんどなしで覚醒した計算になる」


 冬将は取り乱していたし、長月たちも同じだ。

 覚醒するスピードが早いとは僕も思っていたけど、やっぱり早かった。

 冬将は、本当に十二月なのか半信半疑のようだ。でも、葉月さんや長月は、同じ十二月同士なので分かる。


「認めるしかねえか……クソ、こんなの嬉しくねえっての」


 冬将は、冬が従える三人が男性ばかりなことに不満を持っていた。夏将(なつまさ)になるとか秋将(あきまさ)になるとか、冗談めかして言っていたほどだ。

 神和が死に、新しく覚醒した神無月は女性だ。容姿も悪くない。

 冬将が望んでいたように、女性を従えられるようになった。

 それを指して「嬉しくねえ」と言っている。女性を従えなくてもいいから、神和に生きて欲しかったって。


「私も受け入れにくいわね。受け入れるしかないのは分かってるけど……睦月(むつき)たちが全滅……」


 葉月さんは沈んだ表情になっている。

 外で五人が覚醒した、すなわち葉月さんの知る睦月たちは全滅したって意味だ。

 覚悟はしていても、すぐには受け入れにくい。治療を受けている霜月を複雑そうな目で見る。


 葉月さんの知る霜月とは別人の、新しい霜月だ。

 犬猿の仲だった相手が死んで万々歳……って態度じゃない。


「あなたが葉月ですか?」

「え? ええ、そうよ」


 霜月に呼びかけられ、葉月さんが頷いた。

 あれを伝えるのかな。


「なるほど、納得です。これは惚れますよ」

「惚れる? なんの話?」

「前任の霜月をご存知ですよね? 彼は、あなたが好きでした。僕は、この気持ちを伝えるためにきたんです」

「はあっ!? 霜月が私を!? 嘘でしょ!」

「本当です」

「急に言われても……あいつとは仲が悪かったし嫌いだったし……」


 葉月さんは戸惑いつつも、嫌悪感はなさそうだ。


「困らせてしまいすみません。特にどうこうしろというのではありませんし、知っておいてもらえれば十分です。僕があなたを好きなわけではありません。受け継いでいるのは好きだという記憶だけで、恋心までは受け継いでいませんので。ただ、前任の霜月は間違いなくあなたが好きでした。この気持ちを伝えるのが、前任の霜月にとって本意か不本意かは分かりませんけど、僕が伝えたかったんです」

「……はい」


 短く答えるので精一杯ってところかな。葉月さん自身も消化し切れないんだ。

 前任の霜月の話は一旦横に置き、現状を整理する。


「速峰が戻ってきてくれて、卯月、神無月、霜月も加わった。覚醒済みの夏まで。少し有利になったとも言えるわね」

「葉月さん、町に残ったメンバーの犠牲者は?」

「卯月と神和。あとは、さっき二人が……水無月(みなづき)如月(きさらぎ)よ」


 如月……やっぱりなのか。

 葉月さんの言葉を長月が補足する。


「水無月が死んだのは俺のミスだ。卯月が死んだことにショックを受けていて、呆然としていたが、気が付けば姿が見えなくなっていた。おそらく、敵討ちのつもりで戦いに行ったのだろう。注意して見ていれば止められたかもしれない」


 卯月と水無月は、よく一緒にいた。卯月が水無月を一方的に可愛がっているようで、水無月も卯月を好きだったんだ。

 町に残った九人中、四人が死んだ。三人はこの場にいる。

 今も戦っているのは、紺屋(こうや)さんと四季(しき)だ。


「紺屋さんと四季を助けに行かないと」

「待て。弥生(やよい)はこちらに向かっている」


 長月が僕を止めた。止めるための嘘かと思ったけど、葉月さんたちも同じように言ったので嘘じゃないらしい。

 怪我をして治療のために戻ってきているのか、僕たちの気配を感じて合流しようとしているのか、どちらかだろう。


 とりあえず、紺屋さんが生きていることに安心した。

 しかし、屋敷に入ってきた二人を見て、安心感なんか吹っ飛んでしまう。

 四季に背負われている紺屋さんは……下半身がなかった。


「紺屋さん!」

「あぁ……本当に春真さんです。如月さんが、『春真がいる』とおっしゃっておりましたけれど……本当にいてくれました。最期に会えてよかったです」

「最期なんて……」

「これでは……さすがに助かりません。一目会えただけで満足です」


 やめて。如月に続いて、恋人まで失うのは嫌だ。

 四季が、背負っていた紺屋さんをそっと横たえた。

 恋人の傍で僕は膝をつく。愛する人なのに、目を背けたくなる姿だ。

 僕じゃ助けられない。


「長月さん!」

「……すまんが、無理だ」


 長月が治療不可能だと判断した。助けられないことを、自分の無力さを、心底悔やむような顔つきだ。

 紺屋さんは助からない。死ぬ。


「しょうがないのです。春真さんも、よく言っていたじゃ、ありませんか。しょうがない。私の命は、ここで尽きる運命だったので……しょう」


 しょうがなくない。

 しょうがないの一言で済ませられないよ。


「死なないで……お願い……」

「春真さん……愛しております。世界で一番、愛しております」


 焦点の合わない瞳で、力なく腕を伸ばしている。

 紺屋さんの手をぎゅっと握った。この世につなぎ止めるよう、ぎゅっと。


「如月さんも、先に逝っていますけれど……春真さんはこないでください……ね」

「紺屋さん……」

「大丈夫……です。私は、浮気、しません。何十年でも、待ちます。春真さんが、恋人を作り、愛し合うのも、認めます。物分かりの、いい、女、です……か」


 声が小さくなっている。最後の方は聞き取れない音量だ。

 僕がいくら強く手を握っても、握り返してくれない。命が消えつつある。

 一生懸命に手を握り、涙を流す。僕にできるのはそれだけだ。


「四季……さん……」

「弥生の命は、私が使わせてもらう」

「はい……」

「待っ」


 僕の制止を聞かず、四季が紺屋さんにとどめを刺した。

 僕の恋人が……死んだ。


「十二月を喰らい、私は強くなる。これで四人目。神和、水無月、如月、弥生を喰らった。三分の一」

「四季……なんで……」

「速峰春真は、私を恨んでくれていい。その権利がある。でも謝らない。私は十二月を殺し、四季になる」


 分かっている。四季の目的は分かっている。

 四季がとどめを刺さなくても、紺屋さんは助からなかった。どうせ死ぬんだし、有効活用しただけだ。

 むしろ感謝すべきだ。わざわざ屋敷に連れてこなくても、紺屋さんを殺せた。

 最期に会わせてくれたんだ。そのために、リスクを承知で連れてきたんだ。


 四季を恨みはしない。怒ってもいない。

 ただただ、悲しい。自分の無力さが恨めしい。

 紺屋さんの遺体を抱き、僕はしばらく泣き続けた。

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