六十八話 第三、第四の犠牲者
町は、かつての平和を失っていた。
どこもかしこも死と破壊に満ちている。死体が残っていればマシな方で、ただの肉片になっている人も多い。
地獄のような、凄惨な光景だ。臭いも酷い。
直視できず、横目で見つつ吐き気をこらえながら走る。
遠くから銃声や爆発音が聞こえるし、みんなが戦っているんだろう。
「卯月さん、神無月さん、十二月の気配はいくつ感じますか?」
「五人だな」
「わたしも五人分感じる」
五人となると、卯月と神和以外は生きている計算になる。
外に残っているのが四人で、ここには三人、戦っているのが五人だ。
四季と冬将は、どうなっているか分からない。生きていればいいけど。
「あ……誰かが……」
神無月が不穏な発言をした。
誰か? 誰かが、何?
「死んだみたいだな。一人分の気配が消えた」
「誰です!?」
思わず卯月に食ってかかったけど、彼は冷静に答える。
「誰かは分からん。気配にもわずかな個人差があるので、本人を知っていれば識別可能だ。俺は町にいる十二月に会ったことがないし、ゆえに誰が死んだのかも分からん」
「く……そ」
思い切り叫びたい。卯月と神和に加え、また仲間の誰かが死んだんだ。
悔しい。悲しい。殺した相手が憎い。
負の感情が湧き出るけど、ぐっとこらえる。
誰が死んだ? 生き残りは、如月、紺屋さん、水無月、葉月さん、長月だ。
実力からすれば、水無月や長月になる。戦闘向きじゃない二人は、他のメンバーよりも死にやすい。
逆に、戦闘向きじゃないからこそ、前線には出ないので生き残っているとも考えられる。
ナンバーツーの如月は力があるし死ににくい。となると、紺屋さんか葉月さん?
あー、クソ!
苛立ちを誤魔化すように、走るスピードを上げる。
すると、またしても神無月が。
「また一人」
神無月から、誰かが死んだと聞かされた直後だった。
幻聴かもしれないけど、僕の耳に声が届く。
別れを告げる声だ。
――悪い、生き残れなかった。春真、お前は生きろ。紺屋と幸せにな。
「如月?」
僕の親友、如月の声だ。死んだのは彼なの?
やめて。お願いだからやめて。
僕は、必ず帰ってくるって約束した。使者の役目は果たせなかったけど、こうして帰ってきたんだよ。生きて再会するんだ。
なのに、なんで如月が?
親友を失ってしまったかと思うと、目の前が真っ暗に……
「左右に散って!」
姉が鋭い声を発したため、半ば無意識のうちに体が動いていた。
横っ飛びで避けたのに、大爆発に巻き込まれてしまう。爆弾かミサイルあたりで攻撃されたみたいだ。
さらに連続してミサイルが撃ち込まれる。直撃はしていなくても、爆風と熱風でボロボロだ。
ボロ雑巾のようになって地面に転がる。
大丈夫だ。まだ動ける。生きている。
僕は戦えるんだ。
こっちの正体を探ることなく、問答無用で殺しにきた。話し合いとか甘ったれたことを言っている場合じゃない。
如月も、みんなも、こうやって殺されたんだ。みんなの仇だ。
殺してや……る。
それで、いいの? 殺さない覚悟はどこにいった?
この期に及んで覚悟もくそもないのに、中途半端な気持ちのままで中途半端な力をふるう。
外の連中は攻撃を続けているけど、手当たり次第に撃っているだけだ。
並の人間を殺すには十分で、しかし僕たちを殺すには足りない。
一気に駆け寄り、目についた人間を殴り倒す。
姉たちも各々戦っていた。五人がかりなら勝てる。
戦闘は長く続かず、すぐに終わった。砲撃の嵐はやみ、静かになる。
地面には兵士たちが転がっている。ここでとどめを刺しておくか否か。
「手足を折っておこう。負傷者がいれば、助けるために人数を割かなければいけなくなる。殺すよりも有利だ」
冷静に指示を出してくれたのは、卯月だ。
軍関係者だけあって頼りになる。
手分けして、兵士たちの手足を折っていく。あらぬ方向へ曲げるたびに、悲鳴や命乞いの言葉が響いて、気分のいいものじゃないね。
なるべく心を殺して、淡々と作業をする気持ちで処理した。
「春ちゃん、怪我は?」
「あちこち痛いけど動けるよ。一番辛そうなのは霜月さんですよね」
「うん、辛い。十二月でも痛覚がないわけじゃないしね」
ざっくり被害を確認する。怪我はしていても、十分動けるレベルだ。
ただし、霜月が厳しい。町に入る時に右腕を失っていて、この怪我で走り回った挙句に戦闘までやったんだ。倒れそうになっている。
「私が抱える?」
「お願いしていい?」
霜月は姉がお姫様抱っこで運ぶ。
早く合流して、長月に治療してもらわないと。
卯月や神無月が感じている気配を頼りに進む。
「誰か近付いてきている」
「敵ですか?」
「いや、十二月の気配だ。一人分」
卯月が言うには、一人の十二月がこちらに向かってきているらしい。
町に残っていたみんなも気配を感じている。知らない十二月の気配がして、なんだと思って近付いてきてもおかしくない。
そして、懐かしい人たちと合流を果たした。
「速峰!? あなた、生きてたの!?」
「葉月さんこそ無事でよかったです」
葉月さんと冬将の二人だ。傷だらけだけど生きている。
卯月が「一人分」と言ったのは、冬将は十二月じゃないから分からなかったんだろう。ともかく、会えてよかった。
「感動の再会といきたいが、それどころじゃねえよな」
冬将の言う通り、町の真ん中で立ち話していれば攻撃される。
「みんなと合流しようとしていたんだ。特に長月に会いたい。怪我の治療を頼みたくて」
「そいつは構わねえが、春真と一緒にいる連中は信用できるのか?」
「大丈夫。三人は、卯月、神無月、霜月だ。こっちは僕の姉で、覚醒済みの夏」
「神無……月?」
「詳しい話はあとで」
冬将としては、神和の代わりとなって覚醒した神無月が気になっているようだ。
説明は後回しにする。冬将自身も言っていたように、それどころじゃない。
七人になって移動再開だ。




