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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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五十三話 憎む理由

遅くなりました。

 翌朝は、十人全員が学校に集合する。

 ちなみに、町の人たちは普段通りの生活だ。学校は使えないし、生徒や先生は学校が休みだと信じ込んでいるけど、休みなら遊んでいたりすると思う。

 家から学校までの道のりを歩いていた時も、何人もの住人とすれ違った。

 みんな平常通りだ。外との戦いが起きていないように錯覚する。


 本当に戦いがなければいいんだけどね。

 三百人を倒して終わりじゃないし、もっと激しい戦いになりそうだ。

 不安しかない。

 不安だ不安だって言うだけじゃなく、僕も頑張ろう。

 全員集合し、長月(ながつき)が口を開く。


葉月(はづき)、全員そろったぞ」

「私をリーダーにしようとするのはやめて。長月が指示を出してよ」

「俺と葉月、どちらがリーダーにふさわしいと思う? 葉月だと思う者は挙手」


 長月がアンケートを実施すれば、葉月さん以外九人の手が挙がった。

 四季(しき)まで認めている見事なリーダーである。

 葉月さんはげんなりしてため息をつく。


「はあ……分かったわよ。できる限りはやるわ」

「指示を頼む」

「まずは、捕虜の代表者と話し合いね。逃がした人が外に出て、こちらが交渉したがっていると伝えている頃だと思うけど、まだ連絡はないし」


 連絡って聞いて疑問が出た。

 外と連絡を取れるの?


「携帯電話って、外にも通じてるの?」

「通じないわ。この町は巨大なドームになっていて、電波も外とは遮断されているからね。町の中ですら、電波が届きにくい場所が多いし」

「ドームなの? ここが?」

速峰(はやみね)は知らなかった?」

「初耳だよ。でも、そっか。ドームだから雨が降らないんだ」


 今見えている青空も太陽も、本物じゃないんだね。夜も同じだ。

 時間に合わせて明るくしたり暗くしたりしている。


「ドームの話は置いておくけど、電話もメールも届かないし、手紙も出せない。連絡手段は、直接会うか、誰かに伝言を頼むしかないの」

「逃がした人が伝言を届けてる?」

「ええ。交渉する気があるなら、交渉役の人間が町に入ってくるでしょ。その場合は私たちも応じるし、交渉のふりをして攻撃してくるなら反撃する」

「外は交渉しますかね? テロリストとは交渉するなってのが鉄則じゃありませんでしたっけ?」


 如月(きさらぎ)の質問には、葉月さんも答えられなかった。

 こちらとしては、外の出方をうかがうしかできないのがもどかしい。

 じっと待っているだけなのもなんなので、捕虜と話し合いをしようってわけだ。


「ここは、長月がリーダーをやってよ。私じゃ舐められるわ。黙秘を貫いて、何も話してくれない可能性もある」

「俺も迫力はないが、葉月よりはマシだな。承知した」

「あと、十人全員が参加するのは不安よね。水無月(みなづき)の結界があるとはいえ、学校に閉じ込めている人が脱出しようとするかもしれないわ」

「ボクが校庭で見張る。ボクの結界だし、ボクがいる方がいい」

「あたしも水無月ちゃんと一緒よ当然よね」

「んじゃ、俺もこっちで」


 水無月、卯月(うづき)、如月が校庭に残る。

 七人は話し合いだ。残った三人とは、のちほど情報を共有しておく。


 校舎内に入り、適当な教室を使う。相手側の参加者は隊長格の男性だ。

 見た目は睦月(むつき)と同年代かな。五十歳くらいのおじさんになる。

 兵士をしているだけあってガタイがいいし、捕虜なのに脅えてもいない。堂々とした態度だ。

 まあ、パンツ一枚で堂々とされてもあれだけど。


「せめてシャツをくれないか? そっちとしても見苦しいだろ?」


 至極もっともな要求をされた。

 葉月さんも予想していたのか、シャツとズボンを渡す。

 シャツが小さめなのでピチピチだし、余計に見苦しくなった気もするけど、あまり気にしないでおこう。

 着替えも済んだし、こちらは七人、向こうは一人の計八人で話し合いだ。

 椅子に座り、最初に感想を述べたのは相手になる。


「女子供がほとんどだな。あんたが隊長と考えても?」


 やっぱり、外見から長月をリーダーと判断していた。


「構わない。本来のリーダーは、戦いに赴いたきり消息不明だからな。女子供がほとんどと言ったが、あいつが女子供を中心に残してくれたんだ」


 長月が軽く牽制する。

 女子供ばかりの場所に攻め込んだのはそちらだ。俺たちは平和に暮らしていたのに脅かした。

 ていう皮肉が込められている。

 長月の皮肉に対し、相手は肩をすくめる。


「仕方ない。俺たちは命令に従っているだけだ」

「やりたくてやったんじゃないと?」

「人による。俺たち三百人は、それぞれの思惑があってここにきた」


 無言を貫かれるかとも思ったのに、案外あっさりと暴露してくれる。

 目の前にいる隊長さんを含め、半分以上は自衛隊員としての任務を果たすべく攻め込んできた。

 国や国民を守りたい。平和を守りたい。

 そのためなら怪物を倒す。戦いに身を投じる。

 覚悟を持った上での行動だ。


「目的は外の平和を守ることか?」

「何が言いたい?」

「平和を守るのが目的なのか、俺たちを殲滅するのが目的なのかだ。理解してもらえると思うが、この違いは大きい。俺たちは戦争を望んでいない。これまでも外に出て行ったことはないし、外とは関わらず町で暮らしてきた。食糧などの物資は受け取っていたが、それだけだ」


 新人類は町に隠れ住んでいた。

 これまでもだし、これからも外に出る気はない。

 現状ですら、一般の住人は何も知らず生活しているほどだ。

 外の平和を守るのが目的とすれば、町に攻め込んでいる現状が平和を脅かしていると言える。

 要は、お前たちが手を出さないならこちらも手を出さないぞ、と。


「おたくらの仲間が外に出てきていたが? 散々暴れてくれたもんだ。でかい被害が出て、死者も多い。マスコミも大々的に報じているし、世論は新人類許すまじの方向に動いている。慎重論を唱える者がいないではないが、大半は積極的に攻めて殲滅してしまえって考えだ」

「睦月たちとて、好きで攻撃したわけではない。指をくわえて暮らしていれば、そちらが攻撃してきた。町は滅びるし、俺たちは殺されるか奴隷になるかの二択だ」

「攻撃したって考える根拠は? 俺たちは、新人類が旧人類に牙を剥いたので、応戦しているだけだ」


 話は平行線になる。どちらも自分たちの非を認めない。

 認めちゃ付け入る隙になるし、強気でいくのが交渉術なのかな。


「外の研究を知らないとでも? 俺たちを従えるための研究を進めていた」

「そりゃ進めるさ。いざって時のために、新人類への対抗手段は必要だ」

「自衛のための研究であり、積極的に使って新人類を従える気はないと? 俺たちが大人しくしている限りは何もしないと主張したいのか?」

「俺は研究者じゃないが、そう言ってるぞ」

「信じられないな。その話が事実なら、睦月が命を賭して外に攻める理由がない」

「怖かったんだろ。研究が完成すれば、いつ滅ぼされるか分かったものじゃないって恐怖があった。疑心暗鬼に陥り、ありもしない企みを妄想して、身勝手にも攻めてきたわけだな」

「身勝手はどちらだ」


 徐々にヒートアップしていくけど、二人とも大人だ。考えなしな子供じゃない。

 この場で短絡的に殴り合いを、なんて事態にはならないはずだ。

 なったとしても、相手が負けるだけだしね。無謀な戦いはしないと思う。

 睨み合いがしばらく続き、相手が肩をすくめた。癖なのかな。


「まあ、俺たちの中にも過激な思想を持つ者がいるのは認める。新人類が憎くてたまらない、殺したくてたまらないって奴がな」


 攻めてきた三百人のうち、百人弱がこういうタイプらしい。

 ざっくり言うと、百五十人が任務のため、百人が新人類を殺したい、五十人が家族に会いたいだ。

 どれも、理解できない理由ではない。

 殺したがるほどの憎しみを抱く理由だけはピンとこないけど、怪物だからかな。


「そこまで憎まれる理由が分からんな」


 長月も似た疑問を持ったようで質問していた。

 僕たちが憎まれる理由とは一体何か。


「憎む理由もそれぞれ違うが、新人類が足枷になっているのが大きい。この町の住人は税金を支払っていない。日本国に貢献も寄与もしていないのに、物資だけは一人前に要求するんだ。お前たちが何気なく使っている金がどこから湧いていると思う? 何気なく食っているうまい物は? 服は? 家や家具は? 俺たちが汗水流して働き、納めた税金でまかなわれているんだぞ」

「睦月が実験のデータなどを渡していたし、食糧はその対価だと聞いたが?」

「アホか。町の維持にどれだけの税金が投じられてると思ってる。研究データの一つや二つにそれだけの価値があるもんか」

「……なるほど。俺たちは存在するだけで金を浪費しているのか。だから、奴隷としてうまく使う発想も出る。長年サボっていた分、壊れるまで働かせようと」


 僕には少し難しい内容だけど、大体分かった。

 僕たちは、町の中で静かに大人しく暮らしていると考えていた。

 でも違う。僕たちの暮らしは、外の人たちに支えられているんだ。

 外の人たちが一生懸命働き、お金を稼いで国に納める。それが町を維持するために使われる。

 長月が言ったように、存在するだけでお金を浪費する金食い虫だ。


 恐ろしい怪物の生活費を、なんで自分たちが出さなきゃいけないんだ。

 普通は思うよね。

 おそらく、生活が苦しい人ほど思うはずだ。

 働いても働いても生活が楽にならない。毎日苦しい。


 ひるがえって、町の人たちはどうか。お金も支払わず、毎日のんべんだらりと暮らしている。

 おいしいお寿司を食べたり、ゲームセンターで遊んだりね。

 僕だって貯金があるし、贅沢三昧の生活をしなければ足りなくなることはない。

 衣食住に不自由せず暮らせている。


 疑問にも思わなかったし、当たり前に享受していた。

 当たり前だという感覚自体が、外の人たちには許せない。

 外にいた頃の僕はどうだったっけな。子供だし、税金とか政治とかには興味もなかったから、何も考えていなかった気がする。


「真面目に生きる人間よりも、何もしていない怪物の方がいい暮らしをする。許せるか? 俺たちの立場からすると、許せないと感じるに決まってる。許せない。自分たちが苦しいのは、あんな町があるせいだ。新人類が生きているせいだ。殺してやる。奴隷としてこき使ってやる。今まで苦しめられた分を全部返してやる。あいつらも同等以上に苦しむべきだ。てな」


 なんというか、生活を支えてもらっている身で図々しいかもしれないけどさ。


「僕たちが外に出るのを認めてもらえるんですか?」

「あん?」

「話に割り込んですみません。外の人たちは新人類が怖いわけですよね。得体の知れない怪物なので。怖いから一緒に暮らせませんし、傍にいて欲しくありません。町に押し込めます。記憶を奪い、外には出られない仕組みにします。すると、お金がかかり過ぎると文句を言います。わがままじゃありませんか?」

「速峰、あなたブーメランって知ってる?」


 葉月さんに突っ込まれてしまった。

 まあ、僕自身もブーメランだとは思っている。


 欲しい物は全部欲しい。親友も他の人も、一つ残らず手に入れたい。

 いらない物は全部いらない。戦いとか痛い思いとか、一つ残らず手放したい。


 欲望のままにごねて、現実を直視しようとせず、理想を追いかけるのが僕だ。

 他人に「わがままだ」なんて、どの口で言っているのか。


「ブーメランはその通りだと思うよ。でもさ、ぶっちゃけると、僕は戦争とか嫌なんだ。誰にも死んでもらいたくない。もちろん僕も死にたくない。町に押し込めようとせず、外で一緒に暮らせばいいだけなのにって。お互いに不平不満はあれど、妥協できる部分は妥協し合って仲良くしよう。じゃダメですか?」


 確か、四季と話した覚えがある。

 四季の答えは「無理」だった。

 為政者であれば、万が一の事態を想定しておかなきゃまずい。理想論者じゃ務まらない。


「怪物のくせに、脳内お花畑かよ」

「仲間たちにも言われます。脳内お花畑の理想論者だって」

「理想は結構だが、無理だな。制御できない怪物が大勢うろつくとか、おっかなくて敵わん。俺たちには絶対に逆らえないようにしておいて、支配下に置いて言うことを聞かせるならってとこだ。実際、その研究をしていた」

「受け入れることはできないな」


 長月が答えたけど、他の人も同様に考える。

 外の人間には逆らえない奴隷となるんだ。嫌に決まっている。

 警察だって、怪物を助けてくれないだろう。どんな目にあっても受け入れざるを得なくなる。


 お金や物を奪われても逆らえない。

 ムカつくからボコらせろって言われたら素直に殴られなきゃいけない。

 僕と紺屋(こうや)さんがデートでもしたとして、「いい女連れてるな。俺によこせ」とか言われたら渡さなきゃいけない。


 僕たちに拒否権はなくなる。「嫌だ」の選択肢は存在しなくなるんだ。

 何があっても「しょうがない」と諦めて、受け入れなきゃいけない。

 僕もしょうがないってよく使うけど、これはしょうがないで済ませたくないね。


「和解の道はない……か」

「そういうこった。残念だったな坊主。この際言っておくが、政治家たちは怪物と交渉しない。テロに屈するなってのが世界的な常識だ。俺たちが捕虜となっていてもだ。皆殺しにされる前に、少しでもマシな条件で奴隷になっておく方がいいぞ」


 奴隷になるのも嫌だけど、このままだと本気で全面戦争だ。

 どちらかが全滅するまで続く。どちらかっていうか、僕たち側だ。

 あるいは、奴隷になる条件を呑むか。

 うまい解決策なんてものがある?

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