四十四話 十人の仲間?
「冬将と神和を呼び戻す」
お寿司を注文し終えれば、四季が電話を使い、冬将と連絡を取る。
四季は携帯電話を持っていないけど、冬将は持っているらしい。
「すぐに戻るって」
「急がせなくてもよかったんじゃない?」
「話し合いをするなら二人も必要。あとで聞かせるのも面倒だし」
食べ物と巨乳が絡まなかったら、四季は真面目だ。
こういう部分は感心する。
「冬将と神和がいなかったら、二人のお寿司を私が食べてしまう。目の前にあれば我慢できない。私は、二人のお寿司を奪うほど意地汚い人間じゃない」
「僕が感心したら、必ず変な方向に突っ切るなあ」
発言が矛盾しているって自分で気付かないの?
我慢できずにお寿司を食べるって言っておきながら、意地汚い人間じゃない?
どう考えても意地汚いよ。
まあ、四季の食い意地が張っている事実はどうでもいいや。
「葉月さん。お寿司を十三人前も注文したから、少し時間がかかるって言われたけど、届くまで結界なしで大丈夫?」
「大丈夫……だと思いたいわね。長月はどう思う?」
「おそらく大丈夫だろう。確実にとは言い切れないが、今すぐどうこうなるのは早過ぎる。水無月は、いつでも結界を張れるよう、下準備だけしておいてくれ」
「了解。家の中を歩き回らせてもらうけど、いい?」
「いいよ。入られて困る場所もないし、好きにやって」
僕が許可を出せば、水無月と付き添いの卯月が二人で作業しに行った。
感想としては、あの二人は仲がいいんだなってことと、もう一つ。
「最年少の水無月の方が、四季よりも常識があっていい子だ」
以前に中華料理屋で出会った時もいい子だと思った。
今日も同じ感想を抱いたね。四季なら、僕の許可を取らずに好き勝手やるよ。
「速峰春真はロリコン」
「昨晩も言ったけど、僕が大きな胸が好きだよ」
「本当でしゅかはりゅま……」
紺屋さんがやけに慌てて発言し、思い切り噛んでいた。
気を取り直して、再度発言する。
「本当ですか春真さん!? 大きな胸がお好きで!? すなわち私が!?」
「答えにくいこと聞かないで」
「どう! なの! です! か!」
紺屋さんに詰め寄られてしまいタジタジになる。
他の人もいるし答えにくいけど、しょうがない。迂闊な発言をした僕のせいだ。
「えっと……紺屋さんの大きな胸が好きです」
「ありがとうございますっ!」
「ここって感謝する場面? 気持ち悪いとか、女性を胸で判断するのは最低だとか言わないの?」
巨乳でさえあればいいって言っているに等しい。「紺屋さんの」とは付け加えたものの、自分で言っていて言い訳がましいと感じた。
普通は拒絶反応を示すと思う。
「ぺちゃぱいがお好きではないと分かっただけでも収穫です」
「おのれ、巨乳め。巨乳は私が殺す」
「四季は抑えてよ。争ってる場合じゃない」
「速峰春真に言える資格はない」
「ごもっともです」
切羽詰まった状況なのに、大きな胸が好きとかバカな発言をしてしまった。
反省しよう。
「速峰」
「何? あ、なんですか?」
長月に話しかけられたけど、この人への口調をどうすればいいか困る。
年上だし、本来は敬語で話すべきだ。
葉月さんも年上だけど、彼女はクラスメイトとして出会った。僕が記憶を失っている時でもあったし、大人びていてもクラスメイトに敬語は変だからタメ口にしていて、以降もそれが続いている。
長月に対してはどうしようか。
年上で、僕の腕を治療してくれた恩人でもある。やっぱり敬語かな。
僕が話し方で悩んでいると、長月は至極真面目な表情で。
「俺も巨乳が好きだ。葉月の胸とかな」
バカな話に乗っかってきた。
「そ、そうですか……」
適当な返事になったけど、他にどう答えろと? ハードル高いよ。
「うむ。如月は性欲がなく、文月と師走はロリコンだ。霜月はこういった話をできる相手ではないし、睦月はロリコンでこそないが小さい方が好みだそうだ。同志がいてくれて嬉しいぞ」
「男って……」
葉月さんが呆れていらっしゃいます。
自分の胸を両腕で隠そうとしている。余計に強調されて逆効果だよ。
正直に言っちゃうと軽蔑されるし言わない。反省した矢先でもあるしね。
これ以上、僕が不利にならないうちに話題を変えよう。
「師走たちの名前が出ましたけど、他の人はどうしてるんです?」
「詳しくは、のちほど話す。簡単に教えておくと、二手に分かれているな」
十二月は、四季と一緒にいた神和を除いて十一人いた。
ここには六人集まっている。残り五人は別行動だ。
メンバーを考えると嫌な予感がする。
ここにいないのは、睦月、皐月、文月、霜月、師走だ。
男性四人に、おばあさんの皐月。
こっちには長月もいるし、例外はあるにせよ、もしかして。
「まさか、若い人や女性がこっちにきました? 睦月さんたちは、今も誰かと戦っている?」
「おおよそ正しい。俺は十二月の中でも最弱だし、戦いには不向きだ。睦月の命令でこちらに回された。俺がこちらにいれば怪我を治療できる。役立てると。俺を必要としているのは睦月だろうに」
長月は、悔しさや悲しさをにじませた声で教えてくれた。
如月は歯噛みしているし、紺屋さんや葉月さんはうつむく。
口にはしなくても、睦月と一緒に行きたい、行けなくて無念だという気持ちが表に出ている。
十二月は仲間意識が強い。仲間を大切にしている。
単なる敵で、殺していい相手とは思えない。殺さない決意をしてよかった。
決意だけにとどまらず、実現させよう。
「仲間意識とかチームワークとかって部分だと、僕たちの完敗じゃない?」
「私は気にしない」
「気にしてよ。仲良くしよう」
「十二月は敵。殺す」
四季は頑なだなあ。一時的に休戦している今が、精一杯の譲歩って感じだ。
もしくは、強がりなのかもしれない。
弟妹の敵討ちであり、本当の四季になるためでもある。殺さなければならない。
頻繁に「殺す」と口にして、自分の覚悟を確認しておかないと、流されてしまい決意が鈍りそうで怖い?
勝手な想像をしていると、水無月と卯月が戻ってきた。
「下準備は終わった。指示をもらえれば三十秒で結界を張れる」
「水無月ちゃんは大活躍お姉さんがご褒美のペロペロハスハスクンカクンカ」
「うざい」
「冷たい水無月ちゃんも素敵でもちろん四季ちゃんも可愛い可愛いお姉さんとイイコトしよ?」
「拒否する。神和でも相手にすればいい」
四季は神和を売っていた。
卯月的に、神和はありなのかな?
「カンナって神無月?」
「そう」
「可愛い?」
「可愛い。胸も私より小さい」
「わたしはこっちにきて大正解睦月たちも好きだけど可愛い女の子はもっと好き」
四季は、嘘はついていないよね。
神和は確かに可愛い。男だから胸も小さいに決まっている。全部正しい。
性別っていう重要な点を隠しているだけで。
「というか、葉月さんは神和が僕の家にいるって知ってたよね。容姿とかは知らないの?」
「詳しいことは全然よ。睦月から、四季や神無月が速峰と接触したって聞いたの」
となると、神和に会えば混乱しそうだな。
神和本人から説明してもらう? 今のうちに説明しておくべき?
とか思っていれば、タイミングよく冬将と神和が帰宅した。
冬将は大量の荷物を抱えている。随分と買い込んだみたいだ。
神和は服を買ったのかな。今朝とは服装が変わっていて、お淑やかなワンピース姿になっている。
「ぶっはっ!」
神和を見た瞬間、卯月は大げさにのけぞった。お気に召したらしい。
「水無月ちゃんや四季ちゃんとは違った可愛さがあって悪く言えば狙っているしあざといけどお姉さん的にはありあり全然あり」
前髪の隙間からは、血走った目が覗いている。怖い。
「どうなってんだこりゃ?」
「いっぱいいるねぇ。どうも、神和です。アハッ」
初対面の人が大勢いる中でも愛嬌をふりまく神和は、なかなか大物だ。
冬将は戸惑っているけど、これで全員そろった。
十人。多いなあ。
僕の部屋じゃ狭いからリビングにしたのに、ここでも狭い。
ソファーに全員座るのはとても無理で、立っていたりカーペットに直接座っていたりする。お客さんのもてなし方としては失格だ。
しょうがないけどね。
「この十人って、仲間って言えるのかな?」
「言っていいと思うぞ」
「十二月は敵」
僕の呟きに、如月が同意して四季は反対した。
お寿司がまだ届いていないので、まずは冬将と神和の自己紹介だ。
神和のフルネームや性別については、四季が説明した。
「こいつは神和都喜太郎。れっきとした男」
「神和は神和。可愛い神和。性別とか些細な問題だよ」
「……オトコ?」
「性別とか些細な問題」
「……オトコ?」
卯月が呆然自失になっている。よほどショックだったみたいだ。
如月たちも驚いているけど、ここで無意味な嘘をつく必要がないとも理解している。なんとか自分を納得させていた。
冬将は、紺屋さんや葉月さんにデレデレする。
どっちかっていうと葉月さんかな。思った通り、好みのタイプなんだね。
「わたくし、冬将と申します。冬の将軍と書いて冬将。ご芳名をお聞かせ願えませんでしょうか、お嬢様」
「葉月葉よ」
「葉さん。実に素敵です。お似合いですよ。そちらのお嬢様も、よろしければご芳名を」
「紺屋宵です。弥生でもあります」
「宵さんも素敵です。ああ、俺はなぜ冬将なのでしょうか。春将や秋将であれば」
冬将本人としては、紳士的に振る舞っているつもりだろう。言葉がおかしくても彼なりのアピールだ。
視線が紺屋さんや葉月さんの胸に向けられているせいで台無しだけど。
僕に言えた義理じゃないね。
「春真。こいつは信用していいのか?」
「僕も昨晩会ったばかりだけど、悪い人じゃないよ」
「だが、春真の親友枠は渡さないぞ。俺の位置だからな」
「僕の一番の親友は如月だよ」
「如月さんをぶち殺す方法を考えなければ……おっと、いけません。春真さんの前では貞淑な紺屋宵であり続けましょう」
如月は、冬将に妙な嫉妬をしていて、それを見た紺屋さんが如月に嫉妬して。
てんやわんやの自己紹介も終わり、そのうちお寿司も届いた。
水無月が結界を張り、遅まきながら昼食にする。
もちろん、ただ食べるだけじゃない。そろそろ話を聞かせてもらう。
食事をしつつ、ワイワイ雑談するには暗い内容だ。
楽しいとは言えないけど、聞かなきゃいけない。




