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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第2章 後退、復活、再度前進
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三十二話 外を目指して

 四季(しき)葉月(はづき)さんが帰り、一人になった僕は、今後の方針を検討していた。

 記憶を取り戻したのはいいとして、何をどうしていくか。

 大雑把な方針が決まった頃、夕飯の時間になった。


「はぁ……ふぅぅ……」


 食材は葉月さんにあげたから残っていない。炊飯器でお米を炊くのも面倒だ。

 いつものように、冷凍食品とインスタント食品で済ませようとしたけど。


「わびしい。おいしくない」


 ため息と愚痴しか出なかった。

 贅沢になったものだよ。以前は冷凍食品万歳って言っていたくせに、今は紺屋(こうや)さんの料理が恋しくて仕方ない。

 食べ物で籠絡されかけていた四季の気持ちが分かった。

 紺屋さんの料理を食べたい。四季の言葉を借りるなら、神よ、だ。


 こんなことを言っていると、紺屋さん自身や如月(きさらぎ)はどうでもいいのかって話になるけど、二人も当然大切だ。

 一人きりの食事は味気ない。冷凍食品やインスタント食品をおいしくないと感じるのは、舌が肥えただけじゃなく、一人が寂しいからだ。

 寂しさが募る中、もそもそと胃に詰め込むだけの空しい食事を終えた。

 洗い物も終わらせて入浴も済ませたし、考え事の続きだ。


 冷凍食品での食事を味気ないと感じるほど贅沢になっているように、僕の望みもどんどん贅沢になっている。

 最初は、十二月(じゅうにつき)に覚醒しそうな如月を助けたかった。覚醒しない方法はないか、覚醒したとしても元に戻る方法はないか、探そうとしていた。

 紺屋さんも心配だったけど、緊急度の問題で如月を優先していたね。


 親友の如月を助けたいって気持ちが、今は拡大している。

 十二月に覚醒してしまった紺屋さんも助けたい。

 四季だって、どうでもいいとは言わない。僕のお姉ちゃんを自称する少女のことは気に入っているし、如月や紺屋さんと殺し合ってもらいたくない。


 この三人だけでいいってわけでもないんだ。

 十二月の一員である葉月さんは、とても優しい人だった。外見が綺麗なことを差し引いても、周囲に好かれる人だ。

 他のメンバーとは親しくないけど、殺したいとは思わない。

 葉月さんが言うには、如月や紺屋さんはうまくやっているって話だった。

 うまくやれる人たちだって意味だ。


 だったら、全員で幸せになりたい。幸せになれる方法を探したい。

 力も覚悟もないくせに、本気で贅沢だ。

 如月が覚醒する前に、彼に相談したことがある。

 あの時は、一兎に集中しろって言われた。三兎も四兎も追いかけたところでどうにもならないから、一番やりたいことに全力を注ぎ込めって。


 身の程知らずは百も承知で、僕は三兎も四兎も追いかけさせてもらうよ。

 一兎は選べないし、選びたくない。

 仮にだけど、如月一人を助け、四季や紺屋さんを犠牲にしていいかってなると、僕は嫌だと答える。

 僕は全兎を望む。


 で、だ。全兎を望む僕がすべきことは何か。

 できるかできないかはこの際置いておく。僕にできることって考えると、何もないって答えになっちゃうんだ。

 何もできないから、現状維持に努めて、学校生活を送る。

 これじゃダメだ。あれも欲しい、これも欲しいと駄々をこねて、自助努力をしない人間にはならない。

 前に進もう。


 こうやって考えた時、思い浮かんだ方法が二つある。

 一つは、十二月のリーダーである睦月(むつき)に会うことだ。

 おそらく、睦月は他の十二月よりも詳しい事情を知っている。葉月さんたち部下を従え、命令を出しているのも睦月だ。


 十二月は何をしているのか。どうして人々を怪物にしたり、四季と敵対したりしているのか。

 色々と聞いてみたい。あわよくば、如月や紺屋さんを返してもらうとかね。

 会おうとしたら殺されるかもしれないけど、葉月さんに頼んで面会を申し入れてみようかと考えている。

 まあ、そもそも話し合いに応じてもらえず、断られる可能性も高いけど。


 もう一つは、外に出てみることだ。

 葉月さんには「全部を思い出した」って伝えた。

 実はそれだけじゃない。他にも思い出している。

 警察も病院も医者も、今の僕は理解できている。シュンカシュウトウは不確かだけど、そういえばあったかもって漠然とした記憶ならある。


 何より、四季が言っていた「外」を認識しているのが大きい。

 具体的に外がどんな場所かまでは知らない。

 ただ、閉じられたこの町が異様であり、外にも世界があると認識できている。

 だったら、外に出てみればいいんじゃないかと考えた。


 方法は不明なんだけどね。できるかできないかを置いておけば、この考えに至ったってわけだ。

 四季や葉月さんの協力を得られれば助かるけど、無理だろう。

 こっちは一人でこっそりとやってみるつもりだ。


「よし」


 方針も決まったし、早速行動しよう。明日からとか考えていたらダメだ。

 暗い夜の町に繰り出す。

 普段、僕が行かない方角に向かってみよう。

 よくよく考えると、僕の行動範囲は凄く狭い。学校とショッピングモールくらいしか行かないしね。


 どちらとも違う方に歩いて行く。

 これといって変わった物はない。ありふれた住宅街が続いている。

 人の姿はほとんど見かけないけど、たまにすれ違うこともあった。

 怪物に変貌して、襲い掛かってくるんじゃないかと不安だった。

 幸運にもそんなことは起きず、単にすれ違っておしまいだ。


 歩いているだけなのに酷く緊張する。

 以前、紺屋さんを送った時は、怪物に遭遇した。今日も遭遇するかもしれない。

 今の僕なら、走って逃げるくらいはできると思いたいね。

 前回は、都合よく四季の助けが間に合ったけど、二度続けて間に合うとは期待できない。自力で対処する必要がある。


 変わった物がないか、周囲の様子を観察しながら歩いているのも、緊張感が増す理由だ。

 いざ何かを見つけた場合、どうするか考えていないんだよ。怪物なら逃げればいいけど、他の何かを見つけた場合だ。

 我ながら無謀で呆れる。


 変哲のない住宅街でも、普段は足を運ばない場所だから、新しい発見もある。

 こんな場所に公園があるのか。初めて知った。

 ブランコと滑り台、砂場が設置されている小さな公園だ。今は夜だから人がいないけど、昼間なら子供たちで賑わっているのかな。


「ふぅぅ……」


 緊張と警戒心から、思わず長い息を吐いた。

 変な汗もかいている。特別に暑いわけじゃないのに、蒸し暑く感じる。

 おぼろげに思い出している記憶だと、外は日によって気温が変化するんだっけ?

 暑い日もあれば、寒い日もあるはずだ。多分ね。

 四季は空から水が降るって言っていた。アメって物だ。これもぼんやりと思い出している。

 外のことを考えつつ歩いていた僕は、異変に気付いた。


「あれ? この公園って、さっきの?」


 ブランコ、滑り台、砂場がある。

 そっくりな公園の可能性もあるけど、僕の目には同じに見える。

 これはおかしい。真っ直ぐに歩いていただけで、Uターンした覚えはないんだ。

 ところが戻ってきている。

 さっきは左手側に見えていたのに、今は右手側にあるし、知らないうちに逆戻りしていた?


 確かめてみるか。

 砂場の砂を使って、いくつかの砂山を作っておく。目印だ。

 で、公園を左手側にして前に歩く。

 一歩一歩を踏みしめるように、注意しながら歩いた。異変があれば気付けるように、細心の注意を払った。

 結果は。


「戻ってる」


 いつの間にか公園にたどり着いていた。

 右手側に見える公園には、僕が作った目印の砂山があるし間違いない。

 歩いている途中で異変は感じなかった。

 Uターンはしていないし、曲がり角を曲がってもいない。普通に真っ直ぐ歩いていただけなのに、戻っている。

 念のためと思い、もう一度試してみるけど、同じ結果になった。


「僕じゃ無理なのか」


 十二月は、特殊な能力を持っている。水無月(みなづき)の結界などがそうだ。

 水無月が張った結界なのかどうかは分からないけど、一般人じゃ先に進めない。

 この先に進めるのは、選ばれた者だけだ。


 それから、別の道を歩いてみた。抜け道がないか期待しての行動だ。

 何もなかったね。公園のような目印がないから分かりにくいけど、どうも同じ道に戻っているみたいだった。

 しょうがない。今日はここまでにしよう。

 僕じゃ入り込めない場所があると判明しただけでも収穫だ。





 翌日は普通に登校する。

 葉月さんには会い辛いし、クラスメイトも同様だ。性欲の権化となった僕を見られている。

 かといって、家に引きこもるわけにもいかない。


「おはよう。昨日はごめんね。どこかおかしくなってたよ」

「今日の速峰(はやみね)はいつも通りだな。安心した。俺こそ、変なこと言ってごめん」


 僕を怖いって言ってくれた男子生徒に謝罪しておいた。

 彼は忘れているけど、怪物になったクラスメイトを殴った姿を見られたから、僕イコール怖いって図式が頭にあったんだろうね。

 そこに、欲望が前面に押し出ていた様子を見られれば、そりゃ怖いと感じる。

 欠点を指摘してくれる相手は、とてもありがたい存在だ。二度とあんなことがないよう、僕も注意しよう。


「おはよう、速峰」

「おはよう、葉月さん。昨日はごめんね」

「何度も謝ってもらったし十分よ。私にも問題があったから」


 葉月さんも登校してきた。

 朝の挨拶をして、本日の授業が始まる。

 毎度のごとくつまらない授業だ。

 なぜつまらないのか、今なら分かる。


 同じ授業を何度も繰り返しているからだ。

 毎日同じじゃないけど、一定期間ごとにループしている。

 同じ授業を繰り返すことに気付いていないわけじゃない。過去の僕を思い返してみても、ループには気付いていた。

 それを異常だと思えなかっただけで。


 思えば、僕は一体いつから高校一年生をやっている?

 いつになれば二年生に進級できる?

 中学生の頃は何をしていた? 小学生の頃は?

 疑問を持たず、これまで過ごしてきたけど、異常なことばかりだ。


 この世界に、本当の意味での明日はこない。

 四季が言っていた言葉の意味が、なんとなく理解できる。

 全てを理解しているわけじゃないにせよ、異常性を認識できているだけでも今までとは大違いだ。


 異常な世界、外に出られない世界。

 やっぱり、睦月に会ってみたいな。全容を把握していそうな唯一の人だ。

 あとで葉月さんに頼もう。了承してもらえるといいけど。

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