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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
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二話 時を忘れた町

 永遠の命。

 冷静に考えればバカバカしいことこの上ない物を、古今東西の権力者たちは血眼になって追い求めてきた。

 成功した例はない。いずれも非業の死を遂げている。

 あるいは、僕が知らないだけで、永遠の命を手にした者がいるのかもしれないけど、常識で考えればいないと思う。


 とにかく、永遠の命は存在しない。求めるだけ無駄だ。

 ただし。

 永遠に続くものがあると言ったら、信じる?





 変な夢を見ていた……気がする。

 内容は覚えていない。夢なんてそんなものだ。起きれば、文字通り夢か幻のように消えてしまう。

 寝起きで頭がはっきりしないまま、僕はうっすらと両目を開けて。


「うわ!」


 驚いて声が出た。

 知らない少女が僕の顔を覗き込んでいたんだ。

 知らない少女? 確かに詳しい素性は知らないけど、昨夜僕が連れてきた子だ。

 寝起きだから戸惑った。端正な顔が間近にあって、照れたのもある。


「おはよう」


 思考がクリアになったので、僕は朝の挨拶をした。


「おはよう……」


 少女も挨拶を返してくれた。

 言葉は通じるみたいで一安心だ。英語で話せって言われても困る。


「えーっと……僕は速峰(はやみね)春真(はるま)。君は?」

「……四季(しき)

「シキ? どんな字を書くの?」

「四つの季節。春夏秋冬の意味の四季」

「シュンカシュウトウ? って何?」


 言葉は通じても、四季の言っている意味が理解できない。

 季節は分かる。一月とか二月とかだ。

 季節って四つあるの? 十二ヶ月だから十二じゃなくて?

 シュンカシュウトウって何? 僕の知らない言葉だけど一般常識なの?

 脳内が疑問符で満たされるけど、それを解決するのは後回しにしよう。


「なんで倒れてたのかとか、聞きたいことはたくさんあるけど、その前にシャワー浴びてくればどう? 結構汚れてるし、洗い流してさっぱりするといいよ」

「エッチ」

「エッチなことはしないよ。するなら昨晩のうちにやってる」


 気を失っていたし、なんでもやりたい放題だ。

 言い訳も用意できる。怪我がないか確かめるために服を脱がすとか、お姫様抱っこをした時に不可抗力であちこち触るとか。

 僕はそこまで非人道的な人間じゃないつもりだ。


「ごめんなさい」


 四季は謝ってくれた。素直な子だな。


「いいよ。気にしてないから。むしろ、勝手に家に連れ込んだし、怒られても仕方ないって思ってた」

「助けてくれた?」

「一応ね。でも、他にもやりようはあるでしょ。女の子に連絡するとか。同性同士なら安心だろうし」

「救急車は?」

「キュウキュウシャ? って何?」

「……うん、分かった。私、シャワー浴びる」


 またしても僕の理解できない言葉が飛び出したけど、四季は説明を諦めた。

 シャワーを浴びると言っているので、お風呂に案内する。


「着替えはどうする? 僕のシャツでよければ貸すけど、女物の服は持ってないんだよね。下着なんてもってのほかだ」


 持っている方がまずいよね。僕は変態じゃない。


「洗濯機と乾燥機は?」

「そこにあるよ。使い方は分かる?」

「平気。洗う。シャツだけ貸して」

「了解」


 四季は、あまり口数が多いタイプじゃなさそうだ。

 必要事項だけを簡潔に述べているし、僕も長々とは話さずにすべきことをする。

 女の子が脱ぐ場面に立ち会うことはできない。興味はあるけどね。


 脱衣所を出て服を用意する。白いシャツと、紺色のジャージの上下だ。ジャージは学校指定の物で、デザインは可愛くないけどしょうがない。

 バスタオルも持って脱衣所に向かう。

 浴室からはシャワーの音が聞こえる。スモークガラス越しに四季のシルエットも見えている。

 ちょっとドキッとした。


「バスタオルと着替え、ここに置いておくね」


 高鳴る心臓の音を誤魔化すように、大きめの声で話しかけた。

 この場所にいたら変な気分になりそうだし、自分の部屋で待つ。

 時刻は、朝の六時半だった。登校までには余裕があるけど、これからのことを考えると時間が足りないかもしれない。


 四季がお風呂から出てくるのが七時としよう。朝食を食べて話を聞かせてもらって……今日は遅刻かな。

 まあいいや。皆勤賞を狙うような優等生じゃないし、一度や二度遅刻しても問題ない。なんなら、学校を休む手もある。

 今日の予定を考えていると、部屋の扉をノックする音がした。

 四季がお風呂から出たようだ。


「はーい、どうぞ」


 返事をすれば扉が開かれて、四季が入ってきた……

 のはいいんだけどさ。


「なんでそんな格好!?」


 四季は、僕が用意したジャージを着ていなかった。下着とシャツだけだ。

 僕は、男子にしては小柄だから、シャツもさほど大きくない。四季は僕より小さいおかげで、ピチピチになっていたりはしないけど、足の付け根とかが際どい。

 美少女があられもない格好をしていて、冷静でいるのは無理だ。

 これはまずいよ。狼に変貌してしまいそうだ。


「興奮するの?」

「するよ! 僕が狼になったらどうするの!」


 何これ? 何これ? もしかして誘っている? 食べちゃってもオッケー?


「分かった」

「何が分かったの!?」

「エッチ」

「そりゃ男の子ですから!」

「童貞」

「僕の反応が童貞臭いと!? 事実だけどさ!」

「ロリコン」

「違うよ! ロリコン疑惑だけは否定させて!」


 四季はロリっぽい。制服を着ていなかったら、下手をすれば小学生にも見える。

 胸なんかぺったんこだ。ブラジャーすらいらないんじゃない?

 だからって、僕をロリコンにしないで。お願いだから。


「分かった」

「こっちは分からない!」


 噛み合っているようないないような、頭の悪い会話になった。

 動揺する僕をよそに、四季は一度部屋を出て行った。

 かと思うとすぐに戻ってきて、今度はジャージを着ていた。

 最初からこうしてよ。


「僕をからかうためだけに、あんな格好したの?」

「大事」

「際どい格好をしても襲わない紳士かどうかが大事? 紳士っていうかヘタレの気もするけど……って誰がヘタレだよ!」

「テンション高い」

「恥ずかしさを誤魔化してるの! 察して!」

「ロリコン」

「だから違う!」


 突っ込み疲れて、僕はぜえぜえと荒い息をついた。

 この子、一体なんなの? 不思議ちゃん?


「ここ、どこ?」


 四季はどこまでもマイペースだ。僕はこんなにも動揺しているのに。

 質問されたし、とりあえず答えておくかな。


「どこって、僕の家」

「そうじゃない。どこの町?」

「自分のいる町も知らないの?」


 高校の制服を着ていたのに? 高校もこの町にあるのに?


「教えて」

「いいけど。ここはね」


 僕は町の名前を告げる。


時忘(ときわす)(ちょう)

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