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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
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十話 前に進む

「同棲生活?」

「同棲じゃなくて同居ね。如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さんも一緒に住むんだ。四季(しき)に相談せずに決めちゃったけどいい?」


 学校が終わり、僕は四季と一緒に帰宅中だ。

 如月と紺屋さんはいない。二人は自分の家に帰り、必要な物を運ぶ。

 ベッドなどは一人じゃ運べないし、業者に頼むから、時間もかかると思う。

 二人がくる前に、四季に事情を説明すれば、不服そうな顔をしていた。


「危機感がない。速峰(はやみね)春真(はるま)が襲われるかもしれない」

「あー……それは考えてなかったな」


 四季が二人に危害を加えることばかり考えて、二人が僕に危害を加えるとは全然考えなかった。

 友人たちを信じていたって言えば聞こえはいいけど、深く考えなかっただけだ。

 僕がバカだった。

 四季の懸念も理解できる。


「紺屋(よい)は、あからさまに速峰春真を狙っている。貞操の危機」

「そっち!?」

「如月は、女に興味がないから、代わりに男を」

「ないから!」

「私も入れて、四人でくんずほぐれつの乱交」

「絶対にやらない!」


 別の意味で僕がバカだった。

 四季の懸念は理解できないね。したくもない。


「真面目な話をしようよ。僕は、二人と一緒に暮らして、様子を見れればいいなって思った。注意して見ていれば、怪物にならずに済むかもしれない」


 四季の情が移ってくれるって話は内緒にしておく。言えば逆効果だろうし。


「見ていてどうにかなる問題じゃない。紺屋宵はまだしも、如月は手遅れ」

「それでもだよ。昨日、四季も言ってたけど、僕には力も覚悟もない。どっちも持たないから、中途半端な方法しか選べなかったんだ」


 四季の味方をして、一緒に戦うことはできない。

 四季の敵になり、如月を救う方法を探すこともできない。

 これらをやりたい気持ちはあるけど、命を懸けて、身の危険を顧みず、なんて強い決意じゃない。

 なりふり構わずに、四季や如月のために行動はできないんだ。

 自分は誤魔化せない。僕はこういう人間だ。


 かといって、何もしないのも嫌だった。

 自己満足だけど、少しでも動こうとしている。如月や紺屋さんから同居を申し出てくれたのは、渡りに船だった。

 結果がどうなるかは知らない。多分、どうにもならないと思う。


 どうにもならないとしても、せめて舞台には上がらせて。傍観者じゃなくてサブキャラでいさせて。

 最後はおそらく、いつものセリフを言うよ。

 しょうがない。


「速峰春真は愚かしい」

「その通りだね」

「私に任せておけばよかった」

「それもその通りだね」

「でも、人間味があっていいと思う」

「そうかな?」

「お姉ちゃんとして、弟の願いを叶える。如月はギリギリまで様子を見る。すぐには殺さない」

「ありがとう」


 今のうちに殺しておく方が楽だけど、ギリギリまで待ってくれると言っている。

 四季なりに譲歩してくれたんだ。


「でさ、他にできることはないかな? たとえば、例の変死事件の犯人を見つけるとか。十二月(じゅうにつき)の一人なんでしょ?」


 如月を救う手段を、僕も四季も持ち合わせていない。

 だったら、同じ十二月ならどうかなって考えた。

 四季は十二月を殺すと言っているし、遅かれ早かれ戦わなきゃいけない相手だ。

 今すぐに見つけても、先延ばしにしても、たいして変わらない。

 他力本願になるけど、四季に手伝ってもらって変死事件の犯人を見つけ、情報を聞き出す。これが僕にできる精一杯かなって。


「髪の毛が黒なのが特徴だって言ってたよね? 目立つし印象にも残りやすいし、見つけやすいんじゃない?」

「隠れてる」

「そりゃそうだろうけど、隠れ住むにも限界があるよね。水や食糧を確保しなきゃ生きられないし、お店とかには顔を出すと思うんだ。黒髪の人間に心当たりがないか聞いて回れば、知っている人もいないかなって。それとも、十二月になったら飲まず食わずで生きられるの?」

「人による」

「じゃあ、お店に顔を出してる可能性はあるね。聞いて回ろうよ」

「やるとしても私一人。速峰春真がいても邪魔」


 戦闘面で僕が邪魔になるのは事実だ。

 でもさ、他のことなら力になれるよ。


「こういっちゃなんだけど、四季一人で聞いて回れる? 口がうまいタイプじゃないし、社交的なタイプでもないよね」

「私の色仕掛けで一発」

「ぷっ……あはははは!」


 色仕掛け。よりにもよって、ロリ体型の四季が色仕掛けだってさ。

 紺屋さんならできるけど、四季じゃ無理だ。僕が怪物と戦う以上に無理だ。

 笑い過ぎて息が苦しい。

 僕が呼吸困難に陥っていると。


 ドグワッシャッ!

 って轟音が響いた。


「何か文句でも?」

「ございません!」


 こっわ……四季がコンクリートの地面を踏み抜いて穴を開けていた。

 守ってくれるはずのお姉ちゃんに殺されてしまう。

 僕も命は惜しいので、フォローの言葉を口にする。


「し、四季の色仕掛けなら間違いないけど、性欲を持つ人ばかりじゃないよね。性欲を持たない男性もいるし、持っていても女性には通じない。何よりも、僕が四季に色仕掛けをしてもらいたくない」


 ということにしておく。身の安全のために。


「あと、黒髪ってキーワードで聞いて回ると、如月を思い浮かべるかもしれない。如月もお店は利用するし、黒髪で目立つしね。だから如月も仲間に加えようよ。三人で、なんなら紺屋さんも入れて四人で聞いて回るんだ」


 理由は、四季が探している人がいるとでもしておけばいい。二人なら手伝ってくれそうだ。

 如月が一緒だと犯人も探しやすい。

 聞く時には、「この人以外で黒髪の人を知らないか?」でいける。


 変死事件の犯人が見つかればラッキーだ。

 犯人以外の十二月が見つかってもいい。事件を止めるのが目的じゃないしね。

 見つからなくても、四季と如月が協力していれば、情が移りやすい。僕の目的が達成できる。

 咄嗟に考えたにしては、悪くない案だと自負している。


「速峰春真の案は悪くない」

「でしょ」

「問題は一つ。速峰春真は、如月や紺屋宵を危険に巻き込んでもいい?」

「確かに、変死事件の犯人を追いかけるのは危険だけど……」

「そうじゃない。十二月が、同類の如月や紺屋宵を狙って、近寄ってくる可能性がある。囮というか餌というか、そんな役目にしてしまう」

「……考えてなかった」


 僕ってとことん思慮が浅い。一生懸命に考えているつもりなのに、肝心な部分に思考が及んでいない。

 力がない分、頭を使おうとしているけど、うまくいかないね。


「私は歓迎する。十二月と戦うために、囮がいてくれるとありがたい。如月や紺屋宵が死のうと覚醒しようと知らない。死ねばそれでいいし、覚醒すれば殺す。速峰春真はいい?」

「あんまりよくないね」


 二人に協力を依頼するのはやめておくべきかな。

 だとしても、待っていて解決する問題じゃない。四季の言葉が事実なら、如月にはあまり時間が残されていない。


「四季はケイサツなの? 事件を捜査する人がケイサツなんでしょ?」

「違う」

「ケイサツってことにしておくのは?」


 四季はケイサツで、変死事件を追いかけている。解決しようとしている。

 如月と紺屋さんには、こうやって説明するんだ。

 僕は四季を手伝おうとしていて、二人にも手伝ってもらいたいってお願いする。


 変死事件を追いかけるし危険だ。最悪は命も危ない。

 ここまで説明すれば、嫌なら断る。

 ただの人探しなら気軽に手伝えるけど、変死事件だ。自分が死ぬかもしれないってなれば、簡単には手伝わない。断られたらしょうがないよ。


 もしも手伝ってくれるなら、その時はお願いする。

 危険な行為をしている自覚があれば、いざという時の心構えもできるし。

 責任転嫁しているとも言えるけど、人探しだって嘘をつくよりマシだと思う。


「どう?」

「さっきも言った。私は歓迎する。囮がいてくれるとありがたい」

「じゃあ、これでいこうか」


 方針はあらかた決まった。二人がなんて答えるか分からないけど、こればかりは聞いてみなきゃ。


「速峰春真」


 決まったところで、四季が僕を呼んだ。


「どうしてここまでする?」

「どうしてって、如月も紺屋さんも友人だし、死んで欲しいとは思ってない。四季も大切だよ」

「命懸けで守る覚悟はない。十二月や先兵と戦う覚悟もない。もちろん力もない。速峰春真は、結局力も覚悟も持っていない。違う?」

「違わない」

「どうして?」

「正直、僕もよく分からない。四季が納得できる答えになる自信はないけど」


 僕が思っていることを伝える。


「力も覚悟も、一朝一夕で身に着くものじゃない。身に着けたつもりでいるなら大間違いだ。付け焼き刃の力や覚悟じゃ、すぐにほころびる」


 一刻の猶予もない状況下に放り込まれてしまえば、こんなにも呑気なことは言っていられない。

 たとえば、怪物が町中に溢れ出して、映画の世界みたいになるとかね。

 力だの覚悟だの、ウジウジグダグダ言っている場合じゃない。

 時間がないから、すぐにでも戦わなきゃいけないんだ。戦わなきゃ死ぬ。

 力や覚悟を身に着けるのは、少し落ち着いてからでいい。


 今は、多少なりとも余裕がある。

 如月にはあまり時間が残されていないし、のんびりはできないけど、今日明日にでもなんとかしなきゃってほど切羽詰まってはいない。


「だから、僕は少しずつやっていく。今の僕には、力も覚悟もないけど、少しずつね。どうしよう、どうしようって考えて停滞していたら、そこで終わりだ」


 停滞しているうちに如月は怪物になる。四季と戦い、殺し殺されの展開になる。

 そうなってから、もっと早くに行動しておけばよかったって後悔しても遅い。

 少しずつでいい。僕は前に進む。


 前に進むスピードが遅過ぎて間に合わなかったら、まあしょうがない。

 前に進んでいるつもりで、横や後ろに逸れちゃっても、まあしょうがない。

 立ち止まっているだけじゃ意味がないんだ。

 疲れ果てて、立ち止まって休みたい時は休めばいいけど、僕は疲れ果てるほど頑張っていないからね。これで立ち止まると、ただの怠け者だ。一番よくない。


「速峰春真」

「何?」

「自慢の弟」

「褒めてくれてるの? ありがと」


 僕の答えは、四季のお気に召したようだ。

 まだサブキャラになりたてだし、何も持たないけど、少しずつ。

 僕は前に進む。

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