一話 行き倒れの少女
新作です。次話は本日夜に投稿します。
なんの変哲もない日常だった。
学校に通い、つまらない勉強をしつつ、友達とだべって。
放課後は適当に遊び、夜になれば帰宅して眠る。
僕は、そんな毎日を過ごしている。何一つ疑問を抱かず、不満も持たずに、同じ繰り返しの中で生きている。
生きている……本当に?
「じゃあな、春真」
「うん、おやすみ、如月」
僕、速峰春真は、友人の如月と別れて帰路についた。
二人で遊んでいたら、いつの間にかすっかり夜だ。
日が沈み、街灯に照らされた薄暗い道を、一人で歩く。
静かだ。世界に僕しかいないと錯覚するほど、ただただ静かだ。
もちろん、世界には僕以外の人間が大勢存在する。人間以外にも、動物とか虫とかがいる。
耳を澄ませば、ほら、生き物たちの声が……
「聞こえない?」
不思議なほど、不気味なほどに静かだと気付く。
なんだか怖くなった僕は、早足で帰ろうとする。
最近は、変死事件があるとも聞いている。学校で噂になっているだけなので、真偽のほどは定かじゃないけど、不気味は不気味だ。
家に帰って安心したい。まあ、帰っても一人だけど。
早足で歩いて家の近くまできた時だ。
地面に変な物が落ちているのを見つけた。
物というか……者?
それは、一人の少女だった。仰向けに倒れていて、目は閉じられている。
変死事件とか考えたせいか、変死体を見つけちゃったよ。
噂によると、変死事件で発見される死体は、まるで眠っているかのように綺麗らしい。
外傷はないのに、実は死んでいるってことだ。
争った形跡とかもないし、あまりにも綺麗なのが変だから変死体。それって変死体って呼んでいいの?
ともあれ、僕が見つけた少女はまさにそんな状態だった。
見た感じ、外傷はない。顔や手足などの肌が少し汚れているだけだ。
服はちゃんと着ている。半脱ぎでも全脱ぎでもないし、ボロボロになっていて目のやり場に困る状態でもない。
僕がいつも見ている服装だ。具体的には、学校で見ている。
僕の通う高校の女子の制服だ。紺色のセーラー服で、女子からの評判はよろしくない。あまり可愛くないって言われている。
女子には不評な反面、一部のマニアにはウケがいい。地味でレトロな雰囲気があるのがいいんだってさ。
僕は別に制服フェチじゃないし、どうでもいいけど。
って、この思考がどうでもいいね。彼女をどうにかしなきゃ。
どうにかって、どうするの? 変死体を見つけた場合は、どこに連絡すればいいんだっけ?
「ん……」
僕が死体の処理について考えていたら、少女が小さく声を発した。
死体じゃなかったみたいだ。気を失っているだけで、ちゃんと生きている。
要するに、ただの行き倒れ? 人騒がせな。
行き倒れなら行き倒れで助けないといけないね。
でも、弱ったな。
僕は運動が得意じゃない。腕っぷしにも自信がない。背は低いし、体の線は細くてなよなよしている。
つまり、気を失っている少女を運ぶことも難しい。
如月と別れる前に見つけていれば、彼に運んでもらえたのになあ。
この場にいるのは僕だけだし、見捨てるのも後味が悪いから、自分の力で対処しなきゃ。
できるかどうか分からないけど、抱き上げてみようとする。
背中と膝裏に手を入れて、いわゆるお姫様抱っこを試みる。
「うわ、軽っ」
思わず声が出てしまうほど、少女は軽かった。
気を失っているわけだし、全体重が僕の両腕にかかっているはずなのに、羽のように軽い。
いや、羽のようは言い過ぎたかな。
重みはあるけど、僕の細腕でも持ち上げられる程度だ。
これなら大丈夫そうだな。幸い、僕の家も近いし、十分運べる。
少女をお姫様抱っこしたままで、夜の住宅街を歩く。
顔が近くにあるから見てみれば、かなり可愛い。高校生にしてはちょっと子供っぽい気もするけど、美少女と言って差し支えない容姿だ。
美少女だから助けたわけじゃない。性別も年齢も関係なく、誰かが倒れていれば助けていた。
僕が特別に優しいとは言えない。困っている人を見れば、下心抜きでも助けたいと思うものだ。
それでも、相手が美少女だと得した気分になる。
大怪我をしているようにも見えないし、役得だと思える余裕があった。
善意半分、下心半分で、少女を僕の家に連れ込む。
ごくごく普通の一軒家だ。豪邸でもないし、あばら家でもない。
一人暮らしだから、ただいまも言わずに家に入る。お姫様抱っこをしつつドアを開けるのが少し大変だった。
誰もいない家の中は、当然真っ暗だ。
暗くても自分の家では迷わない。僕の部屋に行き、ベッドに少女を寝かせた。
制服だと寝苦しいかもしれない。脱がせるのはダメだし、我慢してもらおう。
体を拭いてあげたいけど、それもまずい。起きればシャワーを浴びてもらえばいいや。
傷はないし、おでこに手を当ててみるけど熱もない。苦しそうにしている様子もなくて、普通に眠っているだけに見える。このまま寝かせておいても平気だろう。
問題は、僕がどこで寝るかだけど、ソファーかどこかでいいかな。
お風呂に入り、冷凍食品で夕飯を済ませてから、リビングにあるソファーで横になった。
明日、少女が起きれば事情を聞かせてもらおう。
もしも起きなかったら、学校の友人に相談するかな。女子もいるし、女性同士なら色々とやりやすい。
ざっくりと予定を決めて、僕も眠りにつく。




