3オブザデッド
ついに、イワミとさっちんのダブルドロップキックにより、部屋のドアが吹き飛んだ。
「やりましたわ!」
「やったなっちん!」
誰が喋っているのかわかるように、あざといキャラ付けをされたさっちんが最後尾に立ち、非戦闘民であるみんなを逃していく。さっちんは全身甲冑(宇宙仕様)を着ているため年齢性別不詳だ。モンコメ騎士団紋章旗(地面に突き立て周囲の仲間の能力を大幅に上昇、リジェネ、ダメージ無効を付与した気になれる。自身は行動不可となる)を使い、周囲の能力を上昇させた気分になっている。
だが実際に上昇させているわけではないので、周囲の人たちにはなんにもならないし、さっちんはゾンビに囲まれて普通に殴り殺された。しかし殿を見事に勤め上げた彼は、まさしく英雄であっただろう。
知力10のアレイスター・クロウリーJr.が先頭を走る。12歳 長い銀髪に金の瞳をもった子どもだ。法の書を抱えたアレイスターは後少しでドアへと抜け出せる。その後少しだ。さっちんの横を必死に通り抜けた。よし、これで廊下へ脱出──。
「えっ………………!?」
顔が青ざめた。立ち止まったアレイスターは、廊下にあふれているゾンビを見て、絶句する。まさか、この部屋以外にもゾンビがいたなんて、知力10でも見抜けなかった──。
アレイスターが喰われている横をすり抜けようとした自営業の太もやしだが、彼はスチーヴン・セガールの顔を持つメタボなおっさんだった。
「あっ、腹が、腹が、つっかえて!」
そのとき、太もやしの脳裏をただひとつ握りしめてやってきた持ち物──思い出が突き抜けてゆく。クリスマスだからと勇気を出して意中の女性を食事に誘ったら、礼儀正しくスルーされた想い出だ。
「もうクリスマスか・・・、今年も彼女は出来なかった。でも俺は一人じゃない、てれんさんと、死に場所を求める仲間たちが一緒だ!」
そう言いながら太もやしはゾンビに全身を喰われて死んだ。人は人生に三度のモテ期が訪れると言う。彼にとっては、大量のゾンビにモッテモテの今こそが、そうだったのかもしれない……。
どんどんいこう。月だ。うさぎを持って、仕事は潮の満ち引きを少々。外見はまるい。つまり……? 地球の衛星である、月なのでは……? じゃあ、月です。Moonです。宇宙船の中の一室には月がありました。というわけで、月はゾンビにガジガジと噛みつかれて、ゾンビムーンと化してしまった。ムジュラの仮面みたいなアレだ。
しかし月にも矜持というものがある。月は最期、ゾンビを巻き添えに爆散した。死してみすぼらしい姿を晒したくなかったのだろう。多くのゾンビが月の爆散に巻き込まれてその岩石群に押しつぶされた。
月の隣にいた月影さん(灰色兎の異名で警察を翻弄するスリと空き巣のプロ)は、普通の冴えない眼鏡の男。仕事の時だけ仮面を被る人物だ。灰色兎の仮面をかぶって、ゾンビの懐からちょいちょいと財布を抜き取っていたのだが、月の爆発に巻き込まれて死んだ。しかし、財布を抜き取られたゾンビは皆、誰も自分が財布を取られたことには気づいていなかった。凄まじい腕前であった…………。
運送業のはにぃは内心、めちゃくちゃ慌てていた。その懐には、新型感染ウィルス入りの瓶が入っている。「あれ、もしかしてこれ、俺のせい!?」みたいな感じだ。ウィルスは異星の開拓プロジェクトで使われるらしい……とだけ、説明をされていた。だが、その正体がなにかとは教えられていなかったのだ。
「あっ!」と悲鳴をあげるゾンビに突き飛ばされて、瓶が床にこぼれてしまった。次の瞬間だ。ゾンビたちは奇声をあげながら突っ込んできて、皆がその瓶に殺到した。いったいなにが入っていたんだ……。しかもゾンビがどんどん凶暴になっていくし、ブラックホールゾンビとか、メテオゾンビとかが生み出されていく……。
いや、待てよ。ということは、今のうちに脱出ができるのでは……? しかし瓶からこぼれた煙を一度でも吸い込んだはにぃは、その場に卒倒して絶命した。本当になにが入っていたのか。それは永遠の謎であった……。
黄泉比良坂 伊賦夜はぶいちゅーばーだ。ノートPCにその萌え絵が映し出されている。電脳生命体なのだろう。ちなみに今回はぶいちゅーばーで参加している人が三人ぐらいいました。だいたいみんな、F.E.H.Uさんみたいなものだと思っています。
伊賦夜はここぞとばかりに放送を開始する。ゾンビが出たのだ。今こそ再生数稼ぎのチャンスだ。放送が始まった。「実はぁ、最近、寒くなってきましたよねえ~」 伊賦夜は開幕のトークを大事にするぶいちゅーばーなのだ。ゾンビにノートPCが踏み潰された。ぐちゃり。結局、本体はどこにいたのだろうか。
薄毛のイケメン、トリニャティは鉄道運転手だ。プリンを買った時に付いてくるプラスチックのスプーンを大事そうに抱えて宇宙にやってきたイケメンだ。イケメンにはイケメンムーブというものがある。このときのトリニャティのイケメンムーブは、「俺には構わず先に行け!」だった。
ちなみにここでクリティカルを出して唯一生き残った人物は、このときのムーブのおかげで生き延びれたということにしたい。さすがイケメンだ……。
さて、廊下は左右に別れている。どちらにもゾンビがひしめいているが、どちらかは結成された警備隊の詰め所になっているはずだ。そちらに逃げればいい。
都督六合諸軍事宇宙大将軍同志アーノルドNTは迷わずに右を指差す。「あっちだ! あっちが詰め所だ!」と。方天戟を振り回しながら、道を作ってゆく。筋骨隆々としたマッチョ型アンドロイドの肌にはゾンビの牙も通らない! やったぜ都督六合諸軍事宇宙大将軍同志アーノルドNT!
だがそこに、ブラックホールゾンビが現れた。ブラックホールゾンビはゆらりと体をゆすりながら、都督六合諸軍事宇宙大将軍同志アーノルドNTの前に現れる。その手のひらを差し出してきた。現れたブラックホールに、体が吸い込まれてゆく。だが、ただでは死ななかった。吸い込まれる際に、方天戟の一撃がブラックホールゾンビの右腕を奪い取った!
よろめくブラックホールゾンビ。そこに役者のヒフミと、その執事、執事服を着たペンギンのペンギンバトラーが立ちはだかった。こいつを倒さなければ前に行けない。ならば、と整腸剤を握るヒフミが不敵に笑う。
「やれやれ、ゾンビっていうのは、腹を壊さないものなのかねえ」
「さあて、魚の干物の味もわからないんでしょう」
ヒフミが整腸剤を握ったままブラックホールゾンビの顔面を殴り飛ばす。そこに、魚の干物を持ったペンギンバトラーがその横っ面をひっぱたいた。ふたりのツープラトンにブラックホールゾンビは吹き飛ばされる。だが、ブラックホールゾンビの残した最期の一撃はヒフミとペンギンバトラーを道連れに飲み込み、虚無へと消えていった。
さて、残りは五人だ。(殺すのめちゃくちゃカロリー使う! 久しぶりだから! ああでもなんか思い出してきた、この感覚!!!!)
「それにしても、どうしてこんなにゾンビがあふれているのか!」
「わかりません! 知力が高い人はみんな死にました!」
山田まると、山田まるの抱えたPCであるヴァーチャル暇人、桜木ねくろが叫び合う。ここにいる知力が最高のキャラは4なのだ。
「ああっ、またゾンビが! ゾンビが! これもう他の人全員、すでに死んでいるのでは!?」
「だったら本当に3話で終わりになりますね!!!」
山田まるは現れたゾンビに紙袋をかさかさと鳴らして誘惑する。ゾンビは五体が誘惑されたものの、その五体まとめて追いついてきたメテオゾンビがメテオパンチをぶちかましてきたので、爆砕された。一緒に持っていたPCの、桜木ねくろも粉砕された。
イワミが大好きだったあの子の前歯の重みを、ポケットに感じながら、メテオゾンビと対峙する。メテオゾンビは全身が隕石で構成されたゾンビだ。ゾンビとは……? ともあれ、腕力10のイワミと互角の勝負を繰り広げる。だが、イワミは締め切り前だった。これが万全のコンディションなら一蹴できていたものの、メテオゾンビと相打ちになった。
残りは、ふたり。
もうじき、詰め所が見えてきた。あちらにゾンビの姿はない。蓋の空いた2Lペットボトルに手足が生えている、お茶の妖精の焙じ茶が振り返る。
「あと少しで、生き残る茶!」
そこにいたのは、青天井廻だ。FXで有り金全部溶かす人の顔をしていた。魔法のカードが手のひらからパラパラとこぼれ落ちる。
「だめだ……出なかった……ブラダマンテちゃんが、出なかったんだよ……。もう、駄目だ……」
「駄目じゃないです茶! 後少し、もうちょっとで!」
「ああ、俺はもう、ここまで、だ………………」
「青天井廻!!」
そのとき、青天井廻がゾンビに抱きつかれて、ゾンビの群れへと押し流されていった。焙じ茶の伸ばした手は、もう届かない。
目の前で、ゾンビが次々と撃ち殺されてゆく。助けが来たのだ。しかし、多くの仲間が殺されてしまった。焙じ茶は崩れ落ちる。
「くそう、どうして、どうしてゾンビが……どうじてゾンビがいるんです茶ー!!!」
なぜ、船内にゾンビが溢れてきたのか……。その謎は、解けなかった。まさか、船内に裏切り者がいるのだろうか……? 誰か、ゾンビを手引きした人が……?
いやそんなバカな。自分たちは鋼の絆で結ばれた最高の仲間たちだ。裏切り者なんて、いるはずないんだ!
こうして、ワープは成功して、次なる星が近づいてきた。
地球で待つ人たちのために、住める星を探すのだ──。
***死亡者***
さっちん
アレイスター・クロウリーJr.
太もやし
月
月影
はにぃ
黄泉比良坂 伊賦夜
トリニャティ
都督六合諸軍事宇宙大将軍同志アーノルドNT
ヒフミ
ペンギンバトラー
山田まる
桜木ねくろ
イワミ
青天井廻