23-4オブザデッド
高次元生命体フェフの周囲を、33人+提督が取り囲んでいた。
その足はくさびで縫い留められ、触手の一本に掃除機が刺さっている。なにが起きたのかもしれないけど、本人はすごいしょんぼりしていた。
「くっそう、どうしてこうなっちゃったかな……。最強無敵の鹿角皇帝なろうエンペラーを作って待ってたのに……。もうだめだよ、80億年間は、なんの意味もなかったよ……。とほほ」
とほほ、とか言う辺り、だいぶ余裕がありそうな気がする……。
「僕もね、本当はスマブラやりたかったんだ……。でもひとりでしかできないから、拗ねてたんだよ……。八人対戦、やりたかったけど、相手してくれるのがゾンビしかいないし、コミュニケーション取れないし……はぁ、もっと先に素直になっておけばよかったなあ。とほほのほー」
注意深く様子をうかがっていると、F.E.H.Uのホログラム映像が現れた。彼女は相変わらずかわいらしくて、そして慈愛に満ちた清涼な声で高次元生命体フェフに語りかける。
「あの……ご主人様、もう、やめましょう……? ね、罪を償ってください……。ご主人様は本当は、優しくて、暖かくて、愛に満ちたお方なんですよね……?」
「自分の創造主を敬いたい気持ちはわかるけど、フェフさん。それはさすがに盲目がすぎると思うよ」
提督が突っ込みを入れる。33人も全員で「そーだそーだ!」と口を揃えた。
高次元生命体フェフは「はぁぁぁぁ」と大きくため息をつく。そこにはまるで、嘲るような意図があった。
「しょうがないなあ。なんかこれ、逃げるみたいで嫌だったんだけど……」
ふわっ、と高次元生命体フェフの身体が薄くなってゆく。提督はその可能性を考えていた。しかし、えっ、ちょっ、と思わず手を伸ばしてしまう。
「なにそれ! ズルい!」
「うわはははははは! 僕は高次元生命体だから、別の次元に逃げることもできるのだ! 残念でしたー!」
F.E.H.Uもまた、手を伸ばす。
「そんな、ご主人様! 罪を償ってくださいっ!」
「罪ってのはね、償えるから罪なんだよ。もう償えないようになった大罪は、罪でもなんでもないんだよね……」
「そんなの屁理屈ですっ!」
眉根を寄せて怒鳴るけれど、そんなこと高次元生命体フェフには知ったこっちゃないのだ。
「さらばだー!」
高笑いをあげて去ってゆく高次元生命体フェフ。ここまで追い詰めて、さらに逃がしてしまうなんて。
またいつかどこかで、あの厄介者は現れて、世界中に悪の波動を振りまくだろう。あんなのが神出鬼没なんて、生きている気がしない。もうおしまいだ。世界は闇に包まれた。
提督はがっくりと肩を落とす。さあ、どうしたもんか、と帰ろうとして──。
そこに、死神が現れた。
「え?」
火時計の火がともるように、次々と死神が現れてゆく。その数、なんと十体。いつかどこかで見た死神たちだ。
「あ、あなたたちは……えっ!?」
そして、その死神に周囲を取り囲まれて、正座している鹿角フェフがいた。高次元生命体モードではなく、130センチの幼女の姿であった。
「ど、どうして……」
死神が、一番フレンドリーなあの死神が口を開く。
『この者を我がコミュニティに招き入れるのが、我らの悲願だったのだ』
『高次元生命体は、低次元の生命体によからぬ影響を与える存在だ。だからこそ、相互監視し合わなければならない』
『しかしこの者は、我欲が強すぎる。やはりここで処分するのが妥当じゃないか』
『私たち高次元生命体の身にいたった存在を、ただで殺すのは少々酷では?』
どうやら会議は紛糾しているらしい。その中で鹿角フェフは、青ざめながら「あーあ、マジなやつ出てきちゃったよ、マジなやつ……。マジだよ、これ、マジかぁ……マジはやだなあ……死にたくないなあ……」とうめいている。どうやらスーパーおしおきタイムが始まりそうな流れだった。
『しかし、ここで高次元生命体フェフを殺すというのも、実は骨が折れる話だ。逃げ回られてしまえば、こちらにも被害が出る可能性がある』
彼ら死神たち──というか、もはや死神と呼ぶ必要もあるまい──もとい、高次元生命体は、こちらを見た。
『ひとつ、いい方法がある』
それは話しやすかったあの死神の言葉だと、提督はすぐにわかった。
『この者の悪性を弱めるために、善性存在と融合させるのだ。さすれば、我らコミュニティに迎え入れやすくなろう』
『なるほど、それも面白いな』
『納得みが高い』
『それで行こう候』
いやしかし、その善性存在とは……?
『お前だ』
指し示されたのは──F.E.H.Uであった。
「ぼ、僕……ですか?」
『そう。お前がもっとも、この男と親和性が高い。融合成功確率が高いのだ』
チラチラと、F.E.H.Uは提督を見つめている。まるで、上官の指示を待つ下士官のようだ。
提督は「行ってらっしゃい」と告げた。その言葉に、F.E.H.Uはまるでショックを受けたような顔をした。
「そう、なんだ……。僕、いらない子、なんだね……」
「そんなはずないよ」
力強く否定し、提督がずいっと近寄る。F.E.H.Uは顔を赤くしながら提督を見上げた。
「キミはわたしたちの大切な仲間だった。だから、追い出すような真似をするはずがないさ。でもね、キミは自由になってほしいって思う。融合すれば、身体だって手に入るんだろう? 余計なものに縛られる必要もなくなる。その新しい旅立ちを、わたしたちは応援したいんだ」
そう言うと、エマ・ウッズや越谷 杏子も口を揃えて「そうだそうだ」と言った。
顔を赤くしてうつむいたF.E.H.Uは、小さな声で「ありがとうございます」とお礼を口に出す。
「……みなさんと過ごしたこの旅を、僕は絶対、忘れないから……」
「ん」
手を振って、F.E.H.Uは鹿角フェフの体の中へと入っていった。高次元生命体がなにかをすると、その影は完全にひとつとなる。
善と悪が相殺され、光が弾ける。その後に生み出されたのは、ひとりのきょとんと目を瞬かせた無害な130センチの金髪幼女だった。
「あれ? ここどこ? あっ、てれんさんじゃん、やっほー」
「う、うん」
恐る恐る、提督は話を振る。
「フェフさん、エルフの村と言えば?」
「焼く」
鹿角フェフは高次元生命体連中についばまれた。
『こいつ、もとに戻ってないのでは』
『殺しといたほうがいいのでは』
『いや、そんなはずはないんだが……』
「ただの茶目っ気じゃないか!」
鹿角フェフは憤慨していた。どうやら悪が多少強かったため、そういう性質が残されてしまった、と。ただそれだけの話のようだ。
『にしても、付き合わせてしまったな』
「いいよ、別に。てかこれから行くところもないしね……。なんかこう、高次元生命体サマの力で、住めそうな星とか探してくれないかな……」
『では、地球をもとに戻してやろう』
「え!?!?!?」
さすがにきょう一番驚いた。神龍かよ。
『といっても、鹿角フェフのように銀河系の時の流れを遅くするような力は、私たちにはない。私たちはお前たちを過去に飛ばすのがやっとだ。それでもよければ、だが』
「い、いいよ、ぜんぜんいいよ! ねえみんな!」
振り返り叫ぶ。33人は全員同意してくれた。
「いやあ、なんというか、仲間が殺されたりしたことはあったけど、結局お世話になりっぱなしだったね。どうしてそこまでしてくれるの?」
『言っただろう、縁があった、と』
「キミたちみたいな人たちと、縁なんて………………ん?」
提督は、誰よりも参加者を覚えている。なんといっても、ずっと318人を管理しながら、このクリスマス企画を進めてきたからだ。
そんな提督は目を凝らした。まさかとは思うが、その顔に、面影が……? いや、ある、のか……?
『高次元生命体へのなり方は、肉体が滅んだ後、精神だけが常に生き続けることだ。情報生命体とも似ているが、少し違う。どうすればいいか、などということはわからない。だが、長いときだけが人を変化させてゆく。80億年経った鹿角フェフが、高次元生命体に成ったようにな』
第三惑星にたどり着いた時点で、80億年が経っていた。
そういえば初めて死神が現れたのは、第二惑星にたどり着いてからだったか。
では、第一惑星に残された連中には、どれぐらいの時が流れていた。
「マジで……? えっ、あの星に残された人たち!?」
『まあな。こんな姿になってしまったが、なんとか生き残ったよ』
死神はさらに砕けた口調で、笑ったような気がした。
去ってゆく10体と、そこにあらたに加わった無害な鹿角フェフ。合計11体の高次元生命体の後ろ姿が、あの第一惑星で生き残った十名の姿に重なって見えたのだった。
***惑星移住者もとい、高次元生命体化存在***
羅芋 酔錬
ケフィア=ヨーグルッチ
秀三郎
わさお
ナヌラーク
なる
ベンギンレイム
周雨
尿酸値ヤバイマン
アロム
***生存者もとい■■■■化存在***
水野力
足の生えたじゃがたらいも
ブルース・フォー
ヌメット・スネーク
シグルド
日柳すみれ
ぺぺぽん
みさと
永瀬-Ⅲ
さけさかな
箱野ねこ
栗
JUNY
しろてん
アポロ
原稿が終わらないあかり
羽海野渉
かどくら
クラウン
オレンジ・キッシュ
雨乃 時雨
タンドリー
エマ・ウッズ
シール・アイリスフレイム
リョクア
宣伝部長
ジルオール
越谷 杏子
黒無
古馬海
ジイ・ファンタジー
ウニみちながサガ
ニコラウス
33名/318名
宇宙船なろう号に乗り込んだ後に、提督を含む34名は、過去の地球へと転移箚せられた。
ようやくこれでスマブラができる──。そう思って、心からの笑顔を浮かべた提督だったが、しかし転移先の地球についた瞬間に叫び声をあげた。
窓の外から眺めたそれは、ドロドロのマグマの塊である──。
「なにここ!!!!!」
そこは80億+46億年前の地球。
まさしく正真正銘の、過去の地球。
「惑星できたてホヤホヤじゃん!!!!!!!!!!」
こうして、まったく小回りの効かないかつての部下たちの貢献により、提督以下33名は古代の地球にたどり着いた。
しかし、心配しないでほしい。
君たちもまた、こうして高次元生命体に長く接触したことにより、時を超える不老不死としての力を手に入れたのだから。
こうして、33名は創世神として地球の歴史深くに関わってゆくことになるのだが──。
それは、24話のエピローグで明らかになるだろう。
次回更新:24話『エピローグオブザデッド』 26日19時




