11オブザデッド
「くそ、これでは母船に戻ることはできないホネ!」
佐伯庸介が、ボロボロになったキホンテキニイキノコレナーイの船体を眺めて言った。
「誰カ船ノ修理ヲスル為ニ残ッタ方ガ良イデスネ。知力ノ高イ人ガ良イデショウ」
お掃除ロボットのリョウゴが言った。いかにも知力の高そうなことを言っているが、このロボットの知力は1である。だが、誰もその言葉に異論をはさんだりはしなかった。彼は知力が+10されそうな人間用の眼鏡をかけていたからだ。眼鏡すごい!!
「ならば私が残ろう」
目元に隈のある白衣の博物学者、リンネ・リーンカーネイションが言った。『全ての叡智を持つ匣=スマートフォン』を持ちこんでいるが、残念ながらこのにゃんにゃんにゃ~ご☆星は圏外であり、それがどこまで役に立つかはわからない。
知力6である彼の他には、知力5であるユーカリ、突く突く法師、みなとが手を挙げた。残った連中は、ユーカリの木(の着ぐるみをかぶった子ども)に知力で負けていることを大人として恥ずべきだと思う。リョウゴは周りのみんなからは知力11だと思われているのでこちらのチームに加わった。
かくして、生き残りのうち、佐伯庸介、社蓄の星、スゴイ=カネスキー伯爵、ジェム、久限、織島霧香、大巣浪流、Myケル・Myヤーズ、モズク酢、ねく、梵日 王、香ばしいゴマ油チョコBB+、藻武 英太(もぶ•えいた)が、斥候として宇宙海賊の拠点を探しに行くことになる。
にゃんにゃんにゃ~ご☆星は、岩肌の露出した殺風景な星だった。そこかしこに残る戦争の痕跡が痛々しい。
斥候部隊は周囲に注意を払いながら真剣に進んだ。小説家の佐伯庸介は良い感じの長さの大腿骨を、研究者のジェムは数珠を、そして聖職者のみなとは割と高価だけど最高級ではない数珠を、得物のように構えて歩いている。まさか同じチームに数珠を持ってる奴が二人もいるとは思わなかった……。
「敵だホネ!!」
佐伯庸介が叫ぶ。
全員が声に反応して振り向けば、突撃銃を持ったにゃんにゃんにゃ~ご☆星人たちが突撃してくる。
――にゃあああああああああん♪
銃口からは、とてもこの世のものとは思えぬ可愛らしい光線が発射された。
「くっ、オン・ベイシラ・マンダラ・ソワカ!」
ドスケベな礼装的な服を着たジェムは、数珠を携えたままマントラを唱える。しかし、ジェムはあくまでも僧侶や聖職者ではなく研究者。ドスケベな礼装的な服と数珠のおかげで雰囲気はバッチリだったが、そのままにゃんにゃんビームに焼き尽くされて死んだ。ドスケベな礼装がいったいなんのことかはわからないけど、わたしはデンジャラスビーストが好きです。(持ってない)
「まともにやりあってもダメホネ!」
佐伯庸介は大腿骨でにゃんにゃんにゃ~ご☆星人たちを叩き伏せる。最終的には物理だ。物理にかなう肉体言語はないのだ。
「敵の出てきた場所はあそこだぜ。このまま突っ込もう!」
大巣浪流が叫び、殺風景な岩肌のある一点を指さした。そこには小さな扉のようなものがあり、にゃんにゃんにゃ~ご☆星人の兵士たちはそこから出入りをしているようだった。
一同は頷き、その場に向けて一斉に走り始める。
「まったく大博打だな! でもこういう時の俺はツイてるんだ!」
腕力1、幸運9という尖ったステータスの持ち主ながら、ここまで生き残ってこれたのは生まれ持ってのリアルラックの為だろう。大巣浪流は飛び交うビームをよけながらまっすぐ走って行く。幸運とは数値だけで測れるものではない。
が、そんな彼の運命も唐突に終わりを告げた。
「ああ~、待ってほしいのねん~」
颯爽と駆け抜ける大巣浪流の足を掴んで転ばせるのは、梵日 王だ。彼が持ちこんだのは『不幸』だった。本人曰くてれん社長の殺戮をお手伝いするために地球からついてきた神で、なんか自分が死ぬ時幸運デバフをかけるとか書いてありますが、これらはあくまですべてフレーバーなので実際には何の効果もないです! ありません!
しかし実際に大巣浪流は梵日 王と共ににゃんにゃんビームに巻き込まれて死んだ!
「くそっ、やっぱり職業:疫病神の奴なんかと同じチームに入るんじゃなかった……!」
それがリアルラックだけで宇宙時代を駆け抜けたギャンブラーの最期のセリフだった。
「あらやだ、どうやらおばちゃんもここまでみたいねぇ……」
部隊の後ろの方を走っていた香ばしいゴマ油チョコBB+も、頭部の傷からゴマ油を流して地面に倒れた。チョコ○BBをゴマ油で炒めてチョコで固めた試食飯を配るスーパーのおばちゃん(原文ママ)である。ものすごい方向のキャラの立て方だ……。わたしは今年はリボビタンフィールを飲んでます……。カフェインゼロなので……。
だが彼女は一人ではない。ぬらりと黒光るモズク酢が、全身からお酢の香りを漂わせながら、同じように地面に倒れ込んだ。
「アンタの試食品、俺のお酢をかけるとイケると思うんだ……」
「あらやだ……」
モズク酢は、ゴマ油チョコBB+に一滴の酢を垂らすと、そのままビームに呑まれて蒸発した。ゴマ油チョコBB+もまた光に呑まれた。得体の知れない試供品だけが、空しく風にさらされる。いったいなんだったんだこの一連の流れは……。
「これは……!」
料理人としての矜持からついついつまみ食いしたくなってしまったMyケル・Myヤーズは、それを口に放り込み、そして滂沱の涙を流した。当然、美味しいはずだ。モズク酢の説明にはしっかり(美味しい)と書いてあったのだから。
白色の作業着に青いマスクをつけたMyケルは、至高とも言えるこの料理にたどり着けたことを感謝すると、愛用の包丁をずらりと抜き放ち、味方の跡を追うにゃんにゃんにゃ~ご☆星人たちをバッタバッタと切り捨て始めた。しかし、正面からのビームには対処が間に合わずに死んだ。
「フフ……こんな料理……作ってみたかったなぁ……」
よし、けっこう減ってきた!!!
残った斥候たちは、拠点への突入に成功する。
残りは佐伯庸介、社蓄の星、スゴイ=カネスキー伯爵、久限、織島霧香、ねく、藻武 英太(もぶ•えいた)。
拠点の中には、大量の小型デスバハムートが配備されていた。
「やめろ、それ以上奥に踏み込むな!」
にゃんにゃんにゃ~ご☆星人の宇宙海賊たちは、焦るような口調で、背後から銃を持って追いかけてくる。
『どうやら、奥に何かがあるようだね』
喋る代わりに、手製の看板に文字を書いて、くまの着ぐるみである久限が言った。
「ククク……、よほどの金銀財宝でもあるのかな? カーネカネカネカネ……」
「金銀財宝か……。それだけのものがあれば、きっと……」
板垣退助ばりの髭を蓄えたスゴイ=カネスキー伯爵と、Googleplayカードを握りしめたねくが口々に呟く。ねくの見た目はタンノくんだ。
「金銀財宝かはともかく、よほどの弱みであることは間違いないわ」
純日本人普通顔アラサー女性の織島霧香が言い、それに一同は同意する形になる。
いずれにせよ、ここで退き返すという選択肢はもはや取れない。中に何があるかを確かめねばならないだろう。
大量の小型デスバハムートの大群の中に、一同は突っ込んでいく。
佐伯庸介は、握りしめた大腿骨を手に奮戦を続けていたが、デスバハムートの装甲は非常に硬いデスダークネス合金でできていた。モンハンでも骨武器は攻撃力は高いが切れ味がすぐ落ちてしまうように、数体のデスバハムートを葬ったところでついに限界が来た。
「昔勇者で今は骨4巻、電撃文庫より2月10日発売!!」
最後になにかを叫ばせようと思ったら、これしかないと思って……。怒られたら、修正します!!
社蓄の星は、どんな環境でも安全に快眠できる寝袋(目覚まし付き)を使っての持久戦に持ちこんだ。どんな場所でも安全に快眠できるので、中で眠っている間は安全だ。しかし、社蓄根性のしみついた社蓄の星は、仲間たちが残業しているのに、先に眠ることなどできるわけがなかった。
「お先に失礼します!」
自らの死期を悟り、デスバハムート一体の片足にしがみつくと、寝袋から這い出して動力パイプを引き千切り、爆発に巻き込まれて死亡した。
社蓄たるもの、例え寝袋とはいえ布団の中で死んで良いはずがない。爆炎の中に消える彼の笑顔は安らかだった。死んだ目に、わずかに生気が宿って見えた。社畜こわい。そういえば、職業って指定されたときに『社畜』系で書いた人すごいいました。まあ社畜ってなんか使いやすいよね……。わかる……。
久限は、看板を振り回しながら小型デスバハムートを蹴散らしていく。看板を使って意思疎通を図る都合上、こうした緊急の場においては意思伝達が一歩遅れてしまう。それこそがまさに久限の命運をわけた。
目の前のデスバハムートを破壊した久限は、誰よりも先に一番奥の部屋に辿りつく。そして、そこで久限は見てしまった。この拠点でにゃんにゃんにゃ~ご☆星人が必死に守ろうとしていたものの正体を。しかし、遊園地職員の矜持としてそれを叫ぶことはできず、看板に文字をしたためている隙に、放たれた強大な暗黒破壊交光線に呑み込まれてしまった。
スゴイ=カネスキー伯爵以下4人は、ついに最後の大広間にたどり着く。
「こ、これは……」
ねくが叫んだそれは、厳重にKEEP OUTのガムテープが貼り付けられている物体だった。そこにはでかでかと『にゃんにゃんにゃ~ご☆星破壊爆弾』と描かれている。そこにはSwitchならぬ真っ赤なスイッチまで……。なんて、なんてもう、おあつらえ向きの……。
しかもだ、その破壊爆弾の前には、ぷるぷると震えている新米らしき兵士が立っていた。涙目でこっちを見つめている。いやいや、違うの、わたしたちは別に、そう、遊びに来ただけで!
「て、敵……敵、敵…………」
「待って!」
薬剤師の織島霧香が恥も外聞もなく叫ぶ。
「そう……あの、クスリ! いいクスリあげるから!」
「そうだ、カネならあるゼニ! この世で一番価値をもつのはカネゼニ! 俺たちの仲間になるがいいゼニ!」
しかし新米のにゃんにゃんにゃ~ご☆星人はぷるぷると震えながら、ゆっくりとスイッチに手を伸ばしてゆく。
「捕まったら……拷問……死ぬことも許されぬ、苦痛と、責め苦……いやだ、そんなの……コロシ、コロシテ……コロシテクレ……とつぶやくだけの、生き地獄……」
「しないっすからそんなの!」
どこからどう見てもただの高校生にしか見えない藻武 英太(もぶ•えいた)は持っていたバナナを差し出す。あっ、こいつ持ち物ひとつって書いてあるのに三本も持ってきてやがる! ずるい!
「ね、ほら、バナナ! ありますから! めっちゃうまいっすよバナナ! ほっぺた落ちますから!」
「ほっぺたが落ちる………………!? とんでもない…………拷問…………コロシテ、コロシテ……」
「なんで都合の悪いところだけ受け取ってくれるんスかね!? てかそもそもどうしてここに星を破壊するための爆弾が!?」
「我らにゃんにゃんにゃ~ご☆星人は、拷問よりも死を選びがちなタイプ…………今週のラッキー自害方法は…………惑星ごと木っ端微塵………………」
「めざましテレビの星占いかよ!!!!!」
全力で突っ込みを入れる藻武 英太(もぶ•えいた)。だがその全力っぷりはあまりにも全力過ぎた。全力過ぎてしまったために、新米にゃんにゃんにゃ~ご☆星人は涙をその目いっぱいにためて、そして。
『あ』
スイッチを押した。
船の修理を行っていたリンネ・リーンカーネイション、ユーカリ、突く突く法師、みなと、そしてリョウゴ。彼らもこの星全体を覆う震動に気づいていた。
「まずいな。これではこの星は爆発する!」
リンネがスマートフォンを片手に叫んだ。
「そんな、ならどうすれば良いカリ!?」
仮面をつけたユーカリの木、ユーカリが狼狽も露わに尋ねる。
「船の修理は終わっている。キホンテキニイキノコレナーイに乗り込むんだ!」
「なるほど、キホンテキニイキノコレナーイでこの星から脱出すれば、生き残れますね」
袈裟姿にメガネの聖職者(寺)、みなとも頷く。
「ええ、キホンテキニイキノコレナーイに乗れば生き残れます。私たちは助かりますよ、ご主人様!」
奴隷の突く突く法師も言った。彼はモザイクだ。外見設定がモザイクなので、モザイクがかかっているとかじゃなくて、モザイクそのものなのだろう。所持品のご主人様に愛おしげに話しかけているが、ご主人様は所持品なので特に返事とかはしてくれなかった。人間がアイテムになっているときの扱いには一生困ります。
「ナラバ乗リ込ミマショウ。キホンテキニイキノコレナーイニ!」
リョウゴもバケツをひっくり返したような頭で頷く。
「もちろん斥候部隊のことが気がかりだ。ギリギリまでこの地点で待つ」
博物学者のリンネは、白衣をバサッと翻して言った。
「それで脱出は間に合うのカリ?」
「もちろんだ。応急処置だが船はきちんと大気圏外に脱出できる。知力3以上の人間ならばミスをすることもない、簡単な処置ではあるがね」
「なら安心ですね。拙僧どもは全員知力が5以上、どこにも間違う要素はありません」
惑星の震動は大きくなるばかりだ。彼らはそのまま、キホンテキニイキノコレナーイに乗り込んだ。生き延び、生き残るために──。
「エンジンを温めておこう。リョウゴくん、スイッチを頼む」
「了解シマシタ」
リョウゴが、自らの担当したエンジンを動かすべく、スイッチを押す。超重力エンジンがうなりをあげ、宇宙探査船キホンテキニイキノコレナーイもまた、大きく振動を始めた。そしてその振動の結果、リョウゴのかけていたメガネがポロッと落ちた。
「あっ」
「あっ」
「アッ」
その瞬間、誰もが己の運命を悟ったことだろう。知力が3以上あれば、どんな奴だってたどり着ける解だったはずだ。察することができないのはリョウゴだけだった。
暴走した超重力エネルギーは、星が爆発の為に溜め込んでいたエネルギーとの干渉を起こし、強大な超重力崩壊を引き起こした。発生したマイクロブラックホールがすべてを飲み込んでく過程で、時間は永遠に近く引き伸ばされていく。
かくて宇宙船キホンテキニイキノコレナーイは、分子レベルで分解され、この世界から跡形もなく消滅した。
にゃんにゃんにゃ~ご☆星は宇宙の藻屑と化した。




