動く
お酒の力もあったのか、私は彼に隣に座ろうとする女性を断るなんて最低だと伝えた。私を隣に座らせてくれた彼は私の癇癪を優しく宥めてくれた。私の方に体を向け、私の話を聞く為だけにその体とその時間を使ってくれていたのが分かった。
笑顔は穏やかで優しく、相変わらず心地良い。片想いを打ち明ける事は出来なかったが、あなたの隣に座りたいと、あなたが居ないと寂しいと、話す言葉の端々に想いが溢れているのが自分でも分かった。ずっと彼に私を見て欲しかったから、私の想いに気付いて欲しかったから、もっと二人でお話がしたかったから。言葉が止まらなかった。
お揃いの物を一緒に買いに行こうと彼が申し出てくれた。あまりにも予想外の言葉に正直驚いた。彼らしくないと思った。間違っても私の知っている彼は、軽々しく女性を誘う様な人では無かったから。お揃いの物を一緒に買いに行くという事が、一緒の物を身に着けるという事がどういう意味か分かっているのだろうか。
益々自分の幼稚さを実感する。ただ純真に直向きに彼を求めていたつもりが、いざ手が届きそうになると躊躇する。
届かない筈の本当は求めてはいけない光に手を伸ばしてしまったから。蓋をされた個室の中に籠る輝きだと知っていたのに、蓋の中を覗き込んでしまったから。
いつの間にか目の前には私を引き寄せる一筋の光のみが映っていた。
何かを眩ませる光に変わったのだと気付く。
私は悪戯に自制の無い無垢な子供の様に、個室からこぼれる一筋の光をゆっくりと手繰り寄せる。どこまでも純真に、ただ直向きに彼に恋をしたから。
私の姿も照らしてくれると、彼に夢を見たから。
今度の休み、お揃いの物を買う為に初めて彼と二人で出掛ける。
「一緒に行く!」と伝えると、彼は私に笑顔をくれた。