手紙
私の焦がれる想いに彼は気付きもせず、むしろ私に無関心だった。飲み友達の中の一人としてせめて平等に見られたかったが、彼は特定して仲の良い女性が常に居た。 私が隣に座ることは許されず、同じテーブルを囲む事はあっても彼と二人で話をする事は叶わなかった。
ずっとずっと彼と二人で話がしたかった。隣に座りたかった。彼に話しかける勇気も出ず、彼に好かれる術も知らず、私はただの無能な恋する女だった。 三十を過ぎても恋愛の進め方など分からない、自分の売り出し方も分からない、何より拒否されるのが怖くて彼への特別な感情を表に晒す事も無い。彼には不釣り合いな魅力のない私。恥ずかしくて悔しくて、そんな私を本当に子供の様に彼は見た事だろう。裏腹に成熟する気持ちは、彼と睦まじく寄り添う女性に嫉妬し、ジレンマと焦燥で狂う。
彼は本当に教科書から抜き出てきたかのように完璧な男性だった。品が良く隙が無い完成された紳士で、意識しているのか無意識なのか、どちらにしてもその魅力に惹かれる女性は幾多居た。繰り返される日々、いつもの飲み会といつまでも続く片想い。状況は変わらないのに時間だけは動いている。変わらない状況と、動く時間は共存出来るのだなと気付き、少し面白かった。
ただの無能な恋する私を時間が運んでくれた。
最近彼の隣に居た女性を見掛けない。
それから彼は覚えていないかも知れないけれど、彼の隣に座って話をする機会が幾度か増えた。私は舞い上がって彼の目どころか顔を見る事すら出来ない。折角彼と差し向っているのに二人で話すのは恥ずかしくて、わざと別の人に話題を振った。
傍から見れば到底私が彼に恋をしているなんて想像出来ないだろう。三十を超えたいい年の女がまるで少女の様に顔を赤らめ、好きな男に色気の一つも披露出来ずに居る。どこまで幼稚で未熟なのか自分でも呆れる。 幼稚ついでにお手紙でも書こうか。
来週は彼のお誕生日らしい、お祝いしようと向こうの方でみんなが話している。