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出会い
彼は私のマニュアルだった。初めて出会った時彼が見せた表情は、まるで模範とも言える見事なまでの笑顔で、私が学びたかった笑顔がそこにあった。言葉の選び方、話すスピード、彼の纏う空気感、どれもが心地良い。
笑い声は良く響き、あの見事な笑顔と相俟って彼は更に光り輝く。その笑い声と彼の放つ輝きを浴びた私は心が震える程の快感を覚え、つまり彼に恋をした。私には彼が眩しく映るのだ。
私は元々そんなにお酒を飲まない方で、友人に誘われ飲みに出るようになり、少しずつ大人の世界を知っていった。そんな時、彼の様な素敵な紳士に出会ったものだから、それはとんでもない騒ぎだった。
騒ぎと言っても、私が胸の内で一人勝手に盛り上がっているだけ。三十手前の勢いだけで生きてきた世間知らずな女が、落ち着きのある魅力的な年上の男性に恋をする、よくある話、陳腐な私。
結末は歴然だった。