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呪われ少女と嘘の少年  作者: 子羊
第1章 新たな出会いとともに
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同族嫌悪

 

「と、とりあえず話は、うちの家でしてもらう! 逃しはしないぞ」


「はい、わかりました」


 面接の為に慌てていたことも、すっかり頭から抜けてしまっており、今をどうやって乗り越えるか、ひたすら考える。



 ちらりと雛乃の父親を盗み見る。

 雛乃の父親は、誰が見ても不機嫌だと分かるほどに苛ついていた。


 そんな様子を見たサングラスに真っ黒スーツのクロは、早口で尋ねる。


「当主様、ここは若い二人のこと。積もる話もきっとある事でしょう。当主様は、あちらの車にお乗りになられるというのはどうでしょう?」


 なかなか失礼な話ではあるのだが、苛ついている父親は、気づかない。


「ふん……わかった。そうするのだ」



 クロの言葉に頷き、隣の車に乗ろうと動く父親。

 ――なんか、素直だな


 その様子を見た雛乃も、苦笑いをしていた。


「さあ、二人ともこちらの車へ」


 クロにエスコートされ、テレビに出てきそうなほどの長さの車に乗り込む。明らかに今の悠冬には場違いであった。



 意を決して、クロの運転する車に二人して乗り込んだ。会話は一切なく、数分は立つ。


「あの、いきなりごめんなさい。巻き込んでしまって」


 先程はあんなにも、父親相手に怒りをぶつけていたのに。今は、しおらしい。


「理由を。理由を聞いてもいいかな?」


「お見合いをすることになって。でもお見合いなんかしてしまったら、私の結婚相手が決まってしまう。……だからとっさに」


「僕が近くにいたから?」


「えぇ、そういうこと。……っ。それに私の名前を呼んでたから、知り合いかと思って」


 なんとも言えない気まずい表情で、悠冬のことを見る。きっと後悔しているのだろう、自分の行動に。


「僕は貴女に一度だけ、会ったことがあるような気がして。それでただ、名前を呼んだだけで」


 あの髪飾りが印象に残っていたのだ。とっさに名前を呼んだのはいいが、もし違ったなら、恥ずかしくて顔向けできないところだったと溜息をつく。


「んー、私といつ会ったのかしら? ごめんなさい、覚えてなくて」


「いえ、いいんです。気にしないでください、雛乃さん」


「は、はい。本当にごめんなさい! 神木さん」


 お互い慣れていない言葉遣いで、話していることが丸わかりだ。たどたどしくも会話を繋いでいる時、車をスマートに運転しているクロの方に興味が湧いた。


「あの、クロさんでしたっけ。そういえばどうして僕の名前を」


「今日、お屋敷で面接をする予定でいらっしゃったでしょう。履歴書でお顔を拝見致しました」

 ――履歴書? ま、まさか。


「もしかして、今日受けるところって!」


「はい。お嬢様の執事として、働くということでしたよね?」


「ま、待って! クロ、今日から来る新しい……執事ってまさか」


 ――新しく来る? えっと、僕の事すでに働くことに決まっていたの? 面接しないで決めてもいいものなのか?


 頭の中は、すでにハテナでいっぱいだ。



「クスッ、それにしてもお嬢様は凄いですね。婚約者を執事として働かせるなんて、このクロは驚きでいっぱいです」


 車で話していた会話を絶対に、聞かれているはずなのに、表情にも一切出さない。

 このスルー力。

 ――クロさん、かっこいい


 雛乃の耳元に口を寄せ、ヒソヒソと話す。

「クロさんって何者なの? 雛乃さん」

「お父様の親友で、昔からお屋敷にいる凄腕のボディーガードってところかしらね。ほんとに凄い人」


 変わりゆく景色を眺めながら、いつものことよとでもいいそうに、雛乃は笑う。


「雛乃さんは怒っている時よりも、そうやって笑っている方が可愛いですね」


「な……何言ってんのよ! 馬鹿っ!!」


「いてっ」


 ポカッと軽く胸を叩かれ、痛くもないのに痛いと言ってしまった。

 雛乃の方を見ると痛いと言われて驚いたのだろうか。目を大きく開き、固まっている。


「ご、ごめ……痛かった?」


 聞こえるか分からないほどの小さな声。


「平気だよ、これくらい」


 悠冬ができる精一杯の声で、優しく声をかけ話を続けようとする。ふと、彼の纏う雰囲気が変わった。


「ねぇ、雛乃ちゃん。これが()ならさ、もっと本当の君を見せてよ。僕は君が――「なら、貴方も見せてよ。本当の自分ってやつを、()に」


 雛乃が悠冬の言葉に被せて、言いきった。


 悠冬の顔から表情がなくなった。無機質な、まるで人ではないような、そんな無表情。


 別人にでもなったのかというような変わり様に雛乃は動揺を隠せていない。雛乃は、その彼に怖がりながらも睨みつけた。


「同族嫌悪ってやつなのかな? なんか、不思議な気分だね、雛乃ちゃん」


「ごめんなさい、どうしてこんな気分になるのかが、自分でも分からないの」

 今までで一番、冷たく言い放した。


 悠冬を纏う雰囲気がなくなり、雛乃は胸をなで下ろす。


「雛乃ちゃんは、そんな話し方なのかな、本当に?」


 今までと同じ話し方なのに、薄ら寒さを感じ、雛乃の体が大きく震えたように見えた。


「……うっ」


「ごめん、ちょっとからかいすぎたかも。ごめんね。雛乃ちゃん」


「いや、私の婚約者兼執事なんだからこれくらいの軽口くらいなら、その……許す」


 その言葉に、悠冬は目を丸くする。


「うんうん、そっか。僕は執事かー、なら僕もクロさんみたいにお嬢様って呼ばなきゃね」


 怖がらせたお詫びにというように、ほわほわとした口調でおどけてみせる。


「呼ばなくていい! 恥ずかしいし、それにほら、婚約者なんでしょ!? よ、呼び捨てくらいしてみせなさいよっ」


 早口でまくしたてる雛乃。心なしか顔が赤い。


「僕は執事なんだけど」

「私が許可しているの!!」


「雛乃……ちゃん」

「駄目っ、呼び捨てがいーいーの!」


「うぐっ、ひひひーー雛乃。こ、これでいい?」


 異性の名前をしかも呼び捨てで呼ぶなど、初めての経験で悠冬の声は裏返ってしまった。


「……まあまあね。五十五点くらいかしら。もっとカッコ良く呼びなさいよ」


 満更でもなさそうに、そっぽを向く雛乃。その様子を見て、悠冬はデレデレだ。


 ――このお嬢様は随分とチョロいと思ってたけど、この子を可愛いと思ってしまう時点で、僕もだいぶチョロいな。


「ところで、雛乃は僕が婚約者でいいの?」


「ひっひな……んんっ。えぇ、私のお見合いの相手いつもおじさんばかりで」


「お、おじさんって」

 ――本当に、あの父親は何やってるんだろうか


「ゆ、悠冬は多少、胡散臭いとは思うけど、執事でもあるんだから。私は仲良くしたいと思ってるわよ」

 ちょっと怖いけどね、そんな言葉が聞こえた様な気がした。



「ん、あれ。今、悠冬って呼んだ!?」


「う……別にいいでしょう。だって執事なんだから」


 雛乃は耐えきれずに、お気に入りのクッションに顔を埋めて、悶絶していた。

 ――可愛いかよ



























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