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1-4章

 キドゥは七メートルほどもありそうな城壁に囲まれた町だった。

 事前の説明で聞いていたキドゥのフレイヤ荒野に向けて開かれているという門がなぜか閉まっていた。

 それどころか、城門や城壁の上に完全武装の兵士達が巡回していた。

 明らかに異変が起こっていて、そのことに気づいたのかサハエルさんはマントのフードを被り直した後、俺の方を見て、


「……フードを被ってもらっていいかな?」

「……分かりました」


 俺は言われたとおりフードを深く被って顔を隠し、油断なく周囲を見回した。

 俺とサハエルさんの通行証は英雄機関という魔族人類双方が設立した安全保障機関が発行したもので、かなりの効力があるらしい。国王による直接保証なみ、ということだから、これを見せれば他国の王族並みの対応も期待できるはずだ。

 にもかかわらずサハエルさんがたかだか城門をくぐるだけで慎重になっているところを見ると、かなりの異常事態だと想像できた。


「通行証はギリギリまで見せないで。英雄機関の人間だとばれると厄介だし、それに君が記憶を失っているというのもややこしくなるかも知れないから」


 それからサハエルさんが、


「ちょっと行ってくるね」


 と俺に断ってから門の方に一人で向かった。

 分厚い木でできた城門の脇の石造りの城壁の一部がくり抜かれ、鉄格子がはまった穴が空いていて、そこで門衛と話ができるらしい。

 サハエルさんは鉄格子越しに門衛と少しの間、話しをし、それからすぐに戻ってきた。


「大丈夫。入れてくれるって。なんか今キドゥは魔獣に襲われているらしいの。城門を閉めているのはそれが理由だって。出て行くのも禁止になっていて困っている商隊もいっぱいあるって」


 それから思案げな顔で


「状況によっては英雄機関の所属を明かして、協力しないといけないわね……」


 とつぶやいた。

 サハエルさんと俺は薄く開けられた城門をすり抜けるようにキドゥに入った。

 キドゥは、フレイヤ荒野の岩と土の大地から一転、道は石畳に覆われ、家は煉瓦造りのかなりちゃんとした町だったが、見る限り人通りがほとんどなかった。

 疑問に思いながらサハエルさんを見ると、


「魔獣がもう城門の中にいるってことだから、みんな家の中に隠れているんでしょ……結局、それじゃあなんの解決にもならないんだけどね。魔獣は城壁くらいの分厚さならともかく家の壁くらい簡単に突破するから」


 サハエルさんは門衛からオススメの宿の場所を聞いていたようで、まっすぐ裏通りにあったそこに向かい、突然の客に驚く宿屋の主人と交渉してとりあえず三日間部屋を押さえた。当然のように同じ部屋だった。

 窓はあるが隣はすぐに建物で日当たりは良くない。そもそも窓ガラスなどないから木戸が上げられてその隙間から光が入ってくるような状態だ。

 部屋のほとんどを占めるベッドは粗末な木製で、その上に藁を敷き詰め、麻のシーツ、ペラペラの毛織物の掛け布団といった感じである。ベッドの数は一つ。そういうものらしいし、そもそもフレイヤ荒野では抱き合って寝たわけで、今さらなのだが、それでも何となくイヤらしい気持ちになった。

 サハエルさんがベッドの右側に自分の荷物を置いたから、俺が左側に荷物を置くと、


「貴重品は置かないでね。こういうところの安全面は保証できないから」

「あー、なるほど。貴重品はこの場合……」

「通行証とお金、あと武器かな。君の場合武器はないけど。とにかくそれさえあれば次の町まで行けるでしょ?」

「了解です」

「じゃあ、ちょっと色々見て回りましょ」

「はい」


 部屋の錠前はトンカチで叩いたら壊れそうな古びた代物で、サハエルさんの言うとおりかなり不安が残ったが、どのみち貴重品は持って歩いていると自分に言い聞かせて、俺はサハエルさんと一緒に宿を出た。

 キドゥは規模としては三千人くらいの町らしい。

 この世界では中堅規模だ。ちなみに魔族は人間よりもはるかに人口が少ないようで、魔族の世界で三千規模だとかなりの大都市、ということになるとのこと。

 城壁に完全に囲まれており、フレイヤ荒野に面している範囲は五メートルを超え、そこ以外も三メートル程度の高さが確保されている。

 キドゥの主な産業は魔獣の身体から採れる素材を利用した工芸品等で、腱や毛皮や牙など多くの加工業者がいるが、とりわけ『玉』の加工に優れており、そのせいで商人の出入りも多い。魔獣の体内からまれに発見される光を発する『玉』は、非常な高値で取引される装飾品なのである。

 そして『玉』を狙って『獣狩り』がこの町を拠点に魔獣狩りに赴く。

 通常、一人では到底戦えない魔獣と戦うために集団で行動する『獣狩り』なので、武器を持って命がけの狩りに出る彼らが多数いれば、治安の低下が心配になるが、キドゥはフレイヤ荒野に面していることで兵士も多数配備されており、今のところ問題は無い、と言うのが宿屋の主人の言葉だった。

 サハエルさんと俺はキドゥを三時間ほど見て回った。歩き始めてすぐに時刻を知らせるためなのか鐘が鳴るのが聞こえてきたが、とにかく人通りがない、ということに尽きる。宿屋に来るまではまだ一人、二人見かけたが今はまったくいない。規模がそれなりに大きい町なので、人影のない町並みは寒々しささえ感じさせた。

 もちろん城壁内に侵入しているという魔獣も見つからない。

 フレイヤ荒野でサハエルさんが倒した魔獣を思い出しながら、あの大きさの怪物がいたらすぐに見つかりそうなものだけど……と考えたが、なんせ魔獣と言うくらいだから、姿隠しの魔術を使えるのかも知れなかった。

 なんの成果もなく、そろそろ帰ろうか、と言う流れになってきたところで、


「お前たち! こんなところで何をしている!?」


 振り向くと五人ばかりの兵士が不機嫌な顔でこちらを見ていた。

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