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0-3章


 すさまじい、の一言だった。

 何が、ではない。

 ジーメオンと幻獣の双方だ。両者の戦いは、人類の切り札『鑓の勇者』であるサハエルをもってしても衝撃を受けるほどだった。

 その戦いは神話で語られる神々の戦いにも思えた。

 ジーメオンは衝撃を自在に操り、幻獣は城ほどの巨体から繰り出される破壊を縦横無尽に振るった。

 大地は何度も揺るがされ、地下の大空洞どころかこの大陸が崩れるのではないかという恐怖を何度も味わった。

 改めてジーメオンが自分に帰還を促したのは決してサハエルを侮っていたわけではなく、戦闘力を正しく認識していたからだ、ということをサハエルは理解した。理解せざるを得なかった。

 それほど、魔族と人間の能力の差は隔絶していた。

 サハエルもなにもしなかったわけではない。

 要所要所でバラキエルの無属性攻撃を使い、幻獣を攻撃した。

 だが、一発一発はしょせんジーメオンの魔術による物理衝撃波の一撃と変わらず、効果が高いとは思えなかった。

 一方、幻獣の攻撃は一撃でも受ければそのまま再起不能になるレベル。

 分の悪い戦いは三日に及んだ。

 ジーメオンはもちろんバラキエルからのフィードバックを受けているサハエルでさえ、きつい。

 気を抜くと気を失いそうになる。だが、それはすなわち死を意味する。

 ジーメオンのほうは戦闘前に宣言していたとおり、強力な再生の魔術がかかっているようで、幻獣の攻撃によって合計八回四肢を失ったが、しばらくするとすべて再生した。しかもそのうち五回はサハエルを護るためにジーメオンが身体を張った結果の四肢損失であった。

 もはやサハエルは自分がなんのためにここにいるのか分からくなっていた。

 むしろいない方がジーメオンはより効率的に動けたのではないか。そんな風に考えてしまう。

 それでももはや逃げることにも意味はない。せめてわずかなダメージでもないよりましと言い聞かせて、バラキエルのエネルギーが溜まる度に即座に闘気に変換し幻獣を攻撃することに徹した。

 幻獣のダメージもそれなりに溜まっているようで、すぐに攻撃を仕掛けてこず地面にうずくまるようにしてジーメオンが仕掛けてくることを待つ様子を見せ始めた。

 その状況が半日ほど続き、衝撃波が七層連なる大魔術を放った直後のジーメオンがサハエルのすぐ横に降り立った。魔族の灰色の顔にもさすがに疲労の色が濃い。再生の魔術も体力は再生してくれないのだろう。

 幻獣もまた距離のある地点に降りたってうずくまってサハエルたちを見ている。表層を覆う毛はちぎれ、赤黒い血とともにあちこちで固まっている。幻獣は右肩辺りのその血の塊を嘗め取ろうとするが、その間も視線はこちらから離さない。

 サハエルはちらっとジーメオンの顔を見て、


「……どうしたの? こっちはあと少しでまた使えるけど?」


 バラキエルを叩いて強気の振りをしたま告げたサハエルの言葉にジーメオンは、


「実は少々無理をお願いしたい」

「言ってみて。何とかしてみせる」

「すまぬ……一刻、時間を稼いでもらいたい」

「一刻?」

「幻獣の回復力が思った以上だ。このままでは私の体力が先に尽きる」

「……! 本当に……?」

「それを阻止するためには、私が最大の魔術を使う必要がある。だがそれには準備が必要なのだ。その時間がおよそ一刻」


 サハエルは瞬間で計算した。

 一刻で幻獣を倒せと言われれば、無理に決まっている。だが一刻時間をもたせろ、というのであればなんとかなる可能性がある。

 幻獣の攻撃を身体で受け止めることは不可能だろうが、聖鑓で弾けば問題ないはずだ。そして自分にはその技術がある。鑓の勇者として鍛え上げられた技術が。

 だから、


「一刻ね。それくらいなら何とかなると思う。うん。その任務、あたしに任せて」


 サハエルは胸を張って請け負った。


「……助かる」


 頭を下げるジーメオンに、お礼を言うのはこっちの方だと思ったが、何も口に出しては言わなかった。

 気合い入れのために顔を叩いたサハエルはそれから鑓を手にずいっと前に出た。ジーメオンはサハエルの背後に立ったままだ。

 幻獣の視線が一瞬こちらに向かった。だがすぐにジーメオンに戻る。幻獣もまた自分の主敵はジーメオンだと認識しているのだ。このまま幻獣がジーメオンを注視し続け、ジーメオンの狙いに気づけば最大の魔術で仕留めるという計画は頓挫してしまうかも知れない。

 そうはさせない。

 幻獣の目もこちらに釘付けにする。

 サハエルはあえて聖鑓の炎属性モードを起動する。

 聖鑓を炎蛇が包んだ。

 属性攻撃は意味が無いのは既に知っている。だが、炎は気になるものだ。人間であってももちろん。獣ならばなおさらだ。

 そして今はダメージを与えることが目的ではない。あくまで時間稼ぎ。

 思った通り、幻獣は炎を纏った鑓に完全に視線を移した。

 改めて敵として認識された、と考えていいだろう。

 ここから先は一瞬の油断もできない。

 ジーメオンの助けはない。

 サハエルは「どっせぃ!!!!」と叫んで幻獣に向かって駆け出した。

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