アリとキリギリス (もうひとつの昔話21)
照りつける夏の日射しのもと、アリはせっせと食料集めにいそしんでいました。
と、そのとき。
草むらから歌声が聞こえてきます。
アリがそこをのぞき見ますと、キリギリスが楽しそうに歌っていました。
季節が秋になりました。
アリはかわらず毎日、朝から晩まで食料集めに汗を流していました。やがて来る冬のために、できるだけ多くの食べ物を集めていたのです。
そんなアリを見て、
「アリさんはよく働きますなあ」
キリギリスが草むらから声をかけました。
「もうじき冬ですからね。雪が降る前に、できるだけ食べ物を蓄えようと思いまして。ところでキリギリスさん、そんなにのんびりしてて、冬の間はだいじょうぶなんですか?」
「心配なんだけど、わたしはなんだか、ちっとも働く気がしなくてね」
キリギリスは苦笑いをして答えました。
冬が来ました。
雪が降りつもっても、アリの家は地面の下であったかです。
食料もたくさん蓄えてあります。
――キリギリスさん、食べ物がなくて、きっとこまってるだろうな。
心配になり、キリギリスの家に行ってみました。
キリギリスはベッドに横たわっており、ひさびさに見る姿はあわれなほどにやせほそっていました。
「そんなにやせちゃって、ずっとなにも食べてないのでは?」
「ああ、食う物がないからな。ひどい栄養失調で、すでに手遅れだって、医者にそう言われたよ」
キリギリスが苦笑いを浮かべます。
「わたしの食料を分けてさしあげます。それを食べれば、きっと元気になりますよ」
「ありがとう。でも、えんりょするよ。君が苦労して集めたものだからな。それに、オレは後悔はしていないんだ。やりたいことはみんなやったからね」
夏から秋と、好きなことをして人生を楽しんできたので、こうなることは覚悟のうえだったと言います。
そのあと。
キリギリスはそのまま、眠るように息を引き取ったのでした。
その日。
アリは健康診断を受けました。
キリギリスの死をまのあたりにして、自分も健康に不安をおぼえたのです。
検診結果が出て……。
「あと一週間の命です」
なんと、医者からガンの告知をされました。
「そんな、たったの一週間だなんて」
アリはショックにうちのめされました。
「はい、お気の毒ですが。残りの人生、どうか有意義に過ごされてください」
いまさらそんなことを言われても、自分に残された時間はわずか一週間しかありません。
蓄えてある食料さえ食べきれません。
これまでの人生。
やりたいことをすべてがまんして、ずっと働きづくめの毎日でした。
アリはつくづく思いました。
――好きなことをして生きるんだったなあ。