AIBI
ある日彼女が車にはねられて亡くなった。
あまりに突然のことだった。
昨日繋いだ手、昨日重ねた唇、昨日見た笑顔、確かに昨日まで目の前にあったのだ。
また明日会おうと約束した、また明日も会えると思っていた、会えるのが普通だと思っていた。
それなのに
彼女はもうこの世にいないのだ。信じられなかった。
その日の夜から僕は気持ちの悪い女の幻覚を見るようになった。ボロボロに破けた服、死んだ魚のような焦点の合わない目、ガリガリ痩せ細ったその姿はまさに骨と皮だけだった。
その女は四六時中僕に付き纏った。家でも、通学路でも、学校でも、どこに行こうが、その女は僕の背後にいた。僕の精神は少しずつ蝕まれていった。
そんなある日、ふとその女の髪を見ると、緑色のヘアピンが見えた。それは僕が彼女に初めてあげたプレゼントと同じ物だった。
嘘だ
彼女があんな化け物なわけない、こんなの嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
彼女はニタニタと笑いながらこう言った。
「死んでも離れない」