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第7話 アオイ(※イラストあり)

ハルトとセレスティアはついにアルカディア城へと乗り込む!

挿絵(By みてみん)


 セレスティアがアルカディア王国の関係者にいったいどんな説明をしたのかは分からないが、その後は恐ろしいほどスムーズに段取りが取り行われた。


「ハルト様、ご武運を」


 シャムロックのどこかずれた励ましを背に俺は城の中へと向かう。会議室に王女が行くと混乱を招くので、彼女はひとまず自室へ帰るらしい。俺は彼女とのしばしの別れに不安を覚えながらも、心配をかけないようなんとか笑顔を作って彼女に手を振った。


 シャムロックが見えなくなると、俺はセレスティアに女装姿のまま関係者の前に連れて行かれた。とりあえず自己紹介をしてほしいと彼女が言うので、俺はぎこちないながらも自身の名前、自分が記憶喪失であること、そしてシャムロックたちに頼まれ死んでしまったハルカという人物の代わりを務める意志があることを伝えた。

 恐らく身分が高いと思われる老若男女が俺を眺めていたが、皆一様に俺のことを不思議なものを見る目で見つめていた。それもそうだ、先日死んでしまったばかりの人間のそっくりさんがタイミングよく現れるなんてご都合主義にもほどがあるからだ。


「ハルト殿は、ハルカ殿のご親戚か何かなのですか……?」

「いえ、ハルカには親戚がいないので、恐らく何の関係もないと思います」

「しかし、兄妹でも親戚でもなくて、ここまで似るものですか?」

「詳しい話に関しては、ハルトが記憶を取り戻してからにしてください。少なくとも、彼に邪悪な気配はありませんし、前勇者シエルのように資質に疑わしき点もありません。もし心配ならば彼には監視をつけます。それなら構いませんよね?」


 「あなた方は他に代案がおありですか?」とでも問いかけるようなセレスティアの目。それに対しよりよい答を持つ者はどうやらいないようだ。そこにいる誰もが「異議はありません」と言った。一応最終的な判断は王様にゆだねるとのことで、その前にこの件に関して議会が開かれるとのことだった。まあ、形式的なものだろうし、この調子なら否定されることはないのだろうけど。

 こうして俺は広い会議室を後にしようとした時だった。

 部屋の向こう側から、ずんずんと力強い足音が聞こえてくる。その音は、明らかな不機嫌さを物語るほど乱雑で、部屋にいる関係者が全員が冷や汗をかいているのが良く分かった。


「これは、厄介なのが来ましたね……」


 扉の方を見つめながらセレスティアがそう言う。一体誰がやって来るのかと問おうとするも、そんな暇もなくそのすぐ後に、緑を基調としている軍服の様な衣装を着た少女がこの部屋に現れた。

 バタンと、乱暴に開かれた扉。そして殴りこむように彼女はチャームポイントのショートポニーを激しく揺れさせて部屋へと突入してきたのだった。


「あ、アオイ! 会議室に入る時はノックくらいしなさい!」


 セレスティアの怒声などどこ吹く風か、アオイと呼ばれた少女は真っすぐ俺を睨みつけていた。そして無言のまままたずんずんと足音を立てて俺に迫って来た。


「ヘイ! アオイやめるネ! せめてちゃんと話を聞いてからにするネ!」


 後ろにいるのは、上は白と赤のキャミソールにアームカバー、下は黒のミニスカートのヘソ出しルックに、長い足を強調するような黒色のニーハイと、なかなかに刺激的な格好をしている僅かにカタコトの女性。どうやら彼女はアオイを止めに来ているようだ。しかし、肝心のアオイは歩みを止める様子はない。気が気でないセレスティアは俺を守ろうとアオイと俺との間に立とうとするが、


「アオイ、まっ……」

「邪魔よ……」


 アオイはそんなセレスティアを軽々と突き飛ばしてしまった。どうやら魔術を使ったのか、不意をつかれたセレスティアはその場に倒れ込んでしまった。そしてついに、アオイは俺の息が掛かるくらいの距離までやって来た。


「な、なに……?」

「あんた、それは何様のつもり?」

「な、何様って、俺は別、に!?」


 いつしか壁際に追いやられていた俺は、アオイに思いきり壁ドンを食らっていた。だが残念ながらこれは全くときめいたりはしない。だって彼女はすごい剣幕で俺のこと睨んでいるんだ。いったいなんだというのか? 俺はこの子にこんなことされるようなことをいつしたというのだろうか?


「アオイ! いいから彼から離れなさい! これ以上は懲罰ものですよ!」


 床に倒れ込みながらも、セレスティアがアオイを叱責する。だがそんなものは意に介さずアオイが言う。


「うっさい! あんたもいったい何考えてるのよ!? ハルカが死んで、まだ一週間と経たない内にこんなニセモノ連れて来て! あんたはハルカを冒涜するつもりなの!?」


 アオイは俺から離れ、今度はセレスティアに詰め寄ろうとする。セレスティアはアオイに気圧されないように同じく声を張り上げる。


「違います! 私だって辛いんです! ですが、今は一刻を争う大切な時! ハルカの死はどうしても国民に知られてはならないのです! それに関してはあなたも納得したはず! ですから、そのためには代役を立てることはどうしても必要なのです!」


 そう言うセレスティアの表情は実に辛そうだった。俺は、さっき俺が彼女と初めて出会った時の彼女の涙を思い出していた。そうだ、セレスティアだって辛いんだ。だが立場上仕方なくこの様な手段を取っているに過ぎない。その一方でアオイはただ感情に任せて責めやすい人を責めているだけじゃないのか?

 アオイとハルカとの関係は知らない。だけど、俺が彼女の代役を引き受ける以上、この場を見過ごす訳にはいかない。俺を意を決して一歩を踏み出した。


 しかし、その時だった。

 突如として、俺の中に今まで名前以外ほとんど何も浮かんでこなかった「記憶」のようなものが、暗闇から浮かび上がって来たような、そんな感覚に俺は襲われた。

 だがそれは、どれも俺が体験し得ぬ「記憶」だった。

 俺は自分自身の過去を思い出すことができないでいる。しかし、今日まで俺がこの世界に存在していなかったことだけは確かだ。だって、もしハルカと瓜二つである俺がこの世界にいたら、ハルカとの関わりを疑われその存在が公にならないはずがない。だが、実際はシャムロックもセレスティアも俺のことを知らなかった。それはつまり、少なくとも俺がこの世界で生活を送っていたという事実はないということの証明に他ならないのではないだろうか。

 にも関わらず、その「記憶」のようなものは、確かにリアリティを持って俺に語りかけてきたんだ。”アオイと俺が一緒の時間を過ごしていた”というありもしない「記憶」が、俺の脳内をすっかり埋め尽くしてしまっていたのだった。


 身体の自由がきかなくなり、俺はなされるがままに一歩を踏み出す。そしてそのまま眼前のアオイへと向かった。

 俺の変化を感じ取ったのか、アオイが怪訝な表情を俺に向けた。


「な、なによ?」


 しかし俺は彼女の問いかけを無視し、尚も彼女に近づく。俺の変化に気付いたのか、今度はアオイが動揺した表情を浮かべた。

 アオイとの距離が一気に近づく。互いの吐息がかかるほどの距離になる。アオイはさっきのような激情ではなく、明確に変化した俺への疑問を顔全体で表現していた。

 そして、聞こえないくらいの声で何かを呟いた。


「……る、か?」


 彼女が何を言ったのかは理解出来なかった。

 「記憶」は尚も、俺にアオイへの気持ちを増長させる。そしてなんと俺はそのまま、彼女の身体を抱きしめてしまったのだった!

ハルトの行動の意味は…

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