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第34話 彼の行方

卑劣な「鉄の翼」を前に、シャムロックは一体どうするのか…?

「卑劣なことを……! フランチェスカを放しなさい! 彼女はこの戦いには関係ありません!」


 セレスティア専属メイドであるフランチェスカさんを拘束する「鉄の翼」に対しシャムロックが抵抗する。だが、それに対し相手は少しも動じることなくこう言った。


「関係あるかないかはこちらで決めます。それぐらいお分かりですよね、王女様?」


 「鉄の翼」の一人がいやらしい笑みをシャムロックに向ける。それでも、今自分が剣を置けば全てが終わってしまうことを知っているシャムロックは、なかなか剣を手放すことができない。すると、敵は更にこう続けた。


「これだけ言っても引くつもりがないのなら、何をされても構わないということですかね?」


 そう言って、敵はフランチェスカさんに手を伸ばす。そしてなんとあろうことか、やつは彼女の大きな胸を鷲掴みにしたのだ!


「い、いや……やめ、て……」


 フランチェスカさんが弱々しい声で悲鳴をあげる。それが余計にやつの加虐心を掻き立てるのか、今度はやつは余計に強く彼女の胸を掴んだのだ!


「い、痛い……!」

「や、やめてください! これ以上彼女に危害を加えないでください!」


 シャムロックが必死に叫ぶも、やつは尚もフランチェスカさんを放そうとしなかった。

 それはあまりに許しがたい光景だった。圧倒的有利な立場をもって相手を恐喝するのはまさに「鉄の翼」らしい、蛮行とも言える行為だった。

 女性に性的な嫌がらせをするなんて、人間のやることではない。俺は奥歯をギリッと噛み締めた。

 しかし、俺がいくら怒りで身体を震わせたところで、もっと辛い思いをしているシャムロックを助けることはできない。俺は、それがどうしようもなく悔しかった……。


「それでは王女、あなたは何をするべきかお分かりですね?」

「ぐっ……」


 彼女は最後の砦として剣を置くわけにはいかない。しかし、目の前で臣下が人としての尊厳を脅かされているというのに、それを見逃すことなど彼女に出来るわけもない。彼女は唇を噛み締めながら、その手の剣を地面に置いた。

 シエルの取り巻きが急いでシャムロックの剣を回収する。それを見て、フランチェスカさんを拘束している男はほくそ笑んだ。

 腹の底で怒りがふつふつと沸き立つ。あまりの苛立ちのせいで、俺は彼女たちの様子をこれ以上見ていることができなかった。


「この、悪魔が!」


 俺は思わず苛立ちを城外にいる敵に向けた。「メテオ・ストライク」を乱発し、躊躇いもなく敵を消し炭にしていく。だが……


「ハルトさん、落ち着いて、ください……」

「み、ミナト?」


 無茶をする俺の横に、いつしかミナトがやって来ていた。彼女は俺の手をその小さな両手で抑えていた。


「お気持ちは、分かります……」


 そう言う彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。そうだ、ミナトとフランチェスカさんは少し前までルームメイトだったんだ。彼女にとって、フランチェスカさんは姉のような存在だ。そんな人が酷い目に遭っているのを見て、動揺しないわけがない。

 俺の方が年上だっていうのに、餓鬼みたいに感情をぶつけたりして情けないったらない……。俺は心を落ち着けると、俯いているミナトを抱きしめた。


 俺は再び意識を城内に戻す。武器を失ったシャムロックが拘束されている。後ろ手に手を縛られ、もはや抵抗することは絶望的だった。

 しかし、シャムロックが武器を捨てたにも関わらず、フランチェスカさんを捕らえている男たちは彼女を放そうとしなかった。男は醜いその表情で言う。


「これで、我々の勝利は確定した。戦利品として、この女を好きに弄んでやろうか」


 男はゲスな笑みをフランチェスカさんに浴びせる。男がそう言うと、彼女は恐怖に顔を歪めて叫び声をあげてしまった。


「こ、この人でなしが! シエル! これが、あなたのやり方ですか!? こんな汚い方法で我々を蹂躙して楽しいですか!?」


 シャムロックはシエルを最大限に睨み、拘束を解かんばかりに暴れた。ここまで怒っている彼女を、当然ながら俺は見たことがなかった。だが、俺だって同じ気持ちだ。今すぐにでも駆け付けて、シエルを殴り飛ばしてやりたかった。


 一方、当の本人であるシエルは、他の「鉄の翼」とは違い、その表情を曇らせていた。シャムロックの言葉を受けた彼は、取り巻きの男たちにこう言った。


「やめろ! これ以上彼女を傷付けることは許さん! もし手を出すなら、俺がお前の首を刎ねるぞ!」


 シエルが剣を男の首に突きつける。その剣幕に男は黙り、フランチェスカさんの拘束を解いた。

 倒れるフランチェスカさん。彼女は放心状態になっており、立ち上がることができないようだった。

 シエルは一度、シャムロックやリア達を一瞥する。その表情からは、彼の感情を読み取ることができなかった。


「行くぞ」


 彼がそう言うと、「鉄の翼」は彼に付き従い前進していく。やつらが向かっている場所、それは恐らく、この先にある「王の間」だ。王様はまだ城内から脱出していない。このままでは、王様が危ない……!

 既に城外の敵の数はかなり減少した。やるなら、今しかなかった。


「エアー・ライド!」


 俺は風の力を使い一気に上昇気流に乗る。


「ハルカを援護します!」


 下でセレスティアが全員に向かって叫ぶ。お陰で、敵の魔力弾などが俺に飛んで来ることはなかった。

 飛ぶ! 鳥になったように、風をその身に受け、俺の身体は高く高く舞い上がる! だが、この魔術にも限度がある。一定の高度以上は進むことができないんだ。俺は城を目視する。シャムロック達がいる場所は分かっている。後は、そこに向かって突っ込むだけだ!


「行っけええええ!」


 俺は王の間付近に狙いを定め、そこに向かって飛び込んでいった。

 激しく窓が割れる音が鳴り響く。ガラスの破片で身体を切ろうが知ったことじゃない。俺は絶対王様たちを助けるんだ!


「なんだ!?」

「勇者だ! 捕まえろ!」


 「鉄の翼」が俺に気付き、大勢で俺に襲いかかる。

 遠くの方で、シエルが驚愕の表情を浮かべている。


「ハルト……ハルカ様!」


 シャムロックの笑顔も俺の目に飛び込んでくる。今すぐに助ける! 俺は敵に向かって突撃しようとした。だが、すぐに……


「そこまでだ勇者! この女がどうなってもいいのか!?」


 さっきまで通信で聞いていた、あのゲスな男の声が俺の耳に飛び込んだのだ。俺が声の方へと振り向くと……


「シャ、シャムロック……!?」


 男はシャムロックの喉元に刃物を突き付けていた。

 またしても人質を取る気か!? しかも、俺の大切なあの子を……!?


「こうしてやる!」

「いやあ!?」


 男はもう一方の手に持っていたナイフで、シャムロックの服を切り裂いた! 前が切り裂かれ、彼女の清楚な下着が露わになる。それだけでなく、やつは彼女の胸までも乱暴に掴んだのだ!


「い、いやああ!」

「やめろお! 貴様ああああ!?」

「ふはははははは! これでは王女も勇者も肩なしだな!」


 あまりのことに、もはや俺は自分をコントロールできなくなる。俺の速さなら、彼女らにこれ以上危害を加えられる前にあいつの首を刎ねることができるはずだ! 頭に血が上っている俺は、あと一歩で本当にそれを行動に移すところだった。だが、その瞬間、驚愕の事態が起こったのだ!


 崩れ落ちる男。首からは大量の血が噴出されていた。


「え……? い、いやああああ!?」


 叫ぶシャムロック。なんと、彼女に乱暴をした男の首が切り裂かれていたのだ! 地面に倒れ、少しの間動いていた男だったが、それも長くは続かない。大量の血を撒き散らした後、男はピクリとも動かなくなった。

 やつを切った者、それはなんと……あのシエルだった。

 シエルは怒っているのか、それとも剣を振るったことで肩が痛むのか、その表情を極限まで厳しくさせていた。


「し、シエル、様……?」


 あまりに衝撃的な事態にシャムロックは完全に混乱している。すると、シエルは自身の上着を脱ぎ、下着が露出してしまっているシャムロックにそれを掛けてあげたのだった。


「ど、どうして……?」

「やつが酷いことをして、申し訳ない……。これは、俺の責任だ……」


 そう言って、シエルは彼女から離れていく。向かう先は、やはり王の間だ。シンと静まりかえった城内に、シエルの足音だけが響く。俺たちは、その様子を黙って見送ることしかできなかった。

 

「はあああ!」


 王の間に続く大きな扉がシエルによって破壊される。その奥には、玉座に座った王様の姿があった。

 だが、俺はすぐにシエルが王様に危害を加えるようなことはないと、なぜか直感的に思っていた。それは他の皆も同じなのだろう。シャムロックも、リアもカミラも、誰もその場から動こうとしなかったのだ(もちろん「鉄の翼」に拘束されているからなのだが)。


 王様に向かって歩くシエル。右肩からの出血がまだ止まっていないのか、彼は時折その表情を歪める。そしてついに、彼は王様の前にまで至ったのだ。


「シエルか……。久しいな」


 あまり仰々しい声は出さず、いつものように自然な様子の王様がそう言う。


「お久しぶりです、陛下」


 シエルは軽く王様に会釈する。今の彼にとって、王様は憎むべき存在のはずなのに、彼が頭を下げたことに俺は驚いた。そして同時に、シエルが王様を殺すためにここに乗り込んできた訳ではないと、改めて確信を持ったのだった。


「勇者としてお前を呼んでおきながら、あんな目に遭わせたことを恨んでいるのか?」


 王様がシエルに問いかける。だが、シエルは(かぶり)を振って否定する。


「違います。あれは俺の落ち度だ。逆恨みで人を殺すほど、落ちぶれてはいないつもりです」

「ほう……。それなら、俺に一体何の用だ?」

「あなたに聞きたいことがあって来ました。だからどうか、俺の問いに正直に応えてください。あなたをどうするかは、その後で決めますので」


 シエルが言う。そこにいる誰もが息を飲んだことは言うまでもないだろう。

ついに王と対峙するシエル。

彼の目的とは?

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