番外編 胸の大きさが戦力の決定的な差だと思っていたのか?
骨休め的なお話です。本編とは直接関係ありませんので、読み飛ばしていただいても大丈夫です笑
「ハルトさんは、胸の大きな女の子と、胸の小さな女の子、どちらが、好きでしょうか……?」
俺は思わず唖然とした。そりゃそうだ、これから風呂に入ろうと意気揚々と浴室に向かって歩いていたら、いきなりミナトからそんなことを尋ねられたら驚くに決まっている。
俺はてっきり、彼女が冗談でそんなことを尋ねたのかと思った。だが、よくよく考えると、彼女はあまり冗談を言うようなタイプではない。それに、実際今の彼女はものすごーく、真剣な表情で俺のことを見つめていたのだ。
「え、ええと……」
俺は正直、どう応えていいのか分からなかった。ぶっちゃけた話をしてしまうと、俺はあまり胸の大きさに拘りはなかった。
しかしだ、俺は今ミナトにどちらが好みかと聞かれ、そのまま「どっちでもいいんじゃない?」と応えてしまうのはあまりに冷たいんじゃないだろうか……? 男には分からない事だが、胸の問題は女の子にとってはかなりセンシティブな話題だ。しかもミナトは思春期真っ只中の年頃の女の子だ。そんな子にとって、胸の問題は大変にデリケートなことだと俺は思う。
彼女がなぜ、俺にそう尋ねたのか。それは単に、彼女が自身の胸の大きさを気にしているということに他ならない。
だがそうは言っても、別に胸の大きさで人の価値が決まるかと言うと、決してそんなことはない。彼女の胸は確かに小さい。むしろ無い。真っ平らだ! と言って差し支えないくらいだ。だが、彼女は可愛く、愛らしく、美しく、尊く、崇高な存在だ。いくら胸が小さかろうとそれが一体何の問題か? 否! 問題などある訳がない!
だから、俺は正直な気持ちを伝えようと思う。君は悩むことなんてないんだ、と。胸の大きさなど、瑣末なことに過ぎないのだ、と。
「俺は、胸の大きさがどうであれ、ミナトは可愛いと思うよ」
そう、それが俺の正直な気持ち。だからミナト、君は前を向きなさい! お父さんはどんな君も愛してあげるから! それに対し、ミナトが答えた。
「……ありがとう、ございます。それでは、強いて言うなら、胸の小さなわたしと、胸の大きなわたし、どちらがいいですか?」
うぐ、今日はなかなか引き下がらないな……。どうやら、彼女の胸の悩みは相当なようだ。これは本当に真剣に相談に乗ってあげた方がいいだろう。俺は今度は真面目な表情で尋ねた。
「急にどうしたの? ミナトはまだ十四歳じゃないか。十四歳でそんなに胸の大きさを気にすることはないと思うよ」
俺がそう言うと、ミナトは唇を噛んで下を向いてしまう。そしてそのまま、絞り出すように呟いた。
「年齢は、関係ないんです……。周りには、胸の大きな方が沢山います……。シャムロック王女も胸が大きくて美しいですし、セレスティアも胸が大きくてカッコイイですし、リアも胸が大きくて元気ですし、アオイは……………………まあ、いいです」
「いやいや! それ聞いたらアオイ怒るよ!?」
「と、とにかく、周りの人は、こんなに胸が大きいのに、わたしだけ小さいなんて、こんなの、不利すぎます……」
もはやミナトは泣きそうだった。ん? 不利って、一体何が不利なんだろうか……?
しかし、よくよく考えると周りの人は確かに胸が大きい人が多い。実際、俺が女体化した時も結構胸はあるんだよなあ……。まあ、皆は一緒に戦う戦友であって、別に変な目で見たりしないから全然気にしていなかったのだけれど。そう考えると、ミナトが周りと自分を比較して自己嫌悪に陥ってしまう理由も分からんでもない。
しかしまあ、いくら嘆かれた所で俺には胸を大きくする手段は思いつかんぞ。
あ、いや待て。こういうことが得意そうな人がいるじゃないか。全くもって役に立たない変な能力使いと言えば……
「セレスティア」
「なんですか……? 今、凄く失礼なことを考えられていませんでしたか……?」
怒りマークをピクピクさせているセレスティア。俺は彼女をなだめつつ、かくかくしかじか内容を伝えた。
「なるほど、胸を大きくする手段ですか。確かに、私ならできない事はありませんね」
「本当ですか? 良かったね、ミナト」
「はい……」
「ですが、この魔術はまだ人間には誰にも試したことがないので、少し実験をする必要があります」
「人間にはって……。それ以外なら試したことあるんですか……?」
「魔術の進歩に犠牲はつきものですから」
「試したのかよ!?」
俺のツッコミをいつも通り華麗にスルーするセレスティア。相変わらず自分に都合の悪いことが耳に通らない人だ……。
「それで、一体どうすればいいんですか?」
「もちろん実験をします。ハルト、実験台になってください」
「なんでよ!? ミナトは駄目なのに俺はいいの!?」
「ハルトは優しいですし、身体も強いので、何をやっても問題ないと思いましたので」
「あなたって人は……」
俺は呆れて思わず溜息をついた。一方、ミナトはすまなさそうに俺の方を見つめていた。きっと、かなりその魔術とやらに興味があるのだろう。だが確かに、使ったこともない魔術を彼女にかけるのは危険だし、保護者として俺は嫌だ。だったら、俺が実験台になってやるしかないのかもしれない……。俺は一度溜息をついてから、やむなく了承した。そしてきっとロクな実験じゃないだろうと思ったので、ミナトは自分の部屋に帰らせ、俺たちはセレスティアの私室に向かったのである。
「さ、これで心おきなく実験ができますね」
「ほ、本当に大丈夫なんですかそれ……? まさか、し、死んだり、しませんよね……?」
「まさか。こんなしょうもない実験で勇者の命を失わせるような真似は致しませんよ」
しょうもないとか自分で言っちゃってるしね……。もうなんでもいいや……。
「ということで、早速女体化を施しました」
「はや!? ってか上半身裸じゃないですか!? 服を寄越しなさいよ!?」
「これから胸の大きさを変更する魔術を掛けるのですよ? あまりに大きくなりすぎて服が破れてしまっては服がもったいないじゃないですか? なので、服は諦めてください」
本当にこの鬼畜眼鏡は無茶苦茶を言いよる……。どうせお願いしたって着せてくれないだろうし、見られているのは彼女一人だ。ここはもう、諦めるとしよう……。
「それじゃ、お願いします」
「お、潔いですね。もう恥ずかしい部分を隠そうともしていない」
「もう慣れました。それに、あなたは恥ずかしがった方が楽しそうなので、恥ずかしがるのは止めたのです」
「チッ……」
「本当にあなたって、俺のことなんだと思ってるのかしら……」
気を取り直して、俺は裸のままセレスティアに向き直る。彼女が言った。
「それではまず、胸のサイズを縮小する魔術をかけましょう。大きくし過ぎて戻れなくなっては困りますからね」
「はいはい、どうぞー」
「あなたも、随分と緊張感がないですね……。それではいきます! 『ミニマム・チェスト!』」
ネーミングセンスがいつもよりショボいことには一切ツッコまず、俺はなされるがまま「ミニマム・チェスト」を食らった。すると……
「お、おおおお!? 胸が、俺のGはあったであろうおっぱいが、AAAくらいまで萎んでるう!?」
「これは成功です! こうも上手くいくとは、もう少し誰かで試してみたいくらいです!」
「いやそんなのただの嫌がらせですからやめてくださいよね……って、あれ、誰か来た?」
突然セレスティアの私室の扉をノックする音が響き渡る。そしてドアの向こうからアオイの声が飛び込んできた。
「セレスティアいる? ちょっとハルトの訓練の件で相談があるんだけど」
え、俺? と俺は口に出そうとするも、セレスティアが口の前で人差し指を立て、それを阻む。セレスティアは何食わぬ顔で、「どうぞ、お入りください」と言ってアオイを招いた。そしてアオイはゆっくりと扉を開けた。
「『ミニマム・チェスト』!」
「は? って何!?」
入って来たアオイの胸目がけてセレスティアが「ミニマム・チェスト」を食らわせた。突然のことに事態が全く理解出来ないアオイ。しかし、異常はすぐに現れた……。
「え? 何? ……って、ちょおおお!? あたしの胸があああ!?」
見る見るうちに、アオイの胸が小さく……ってあれ? これって小さくなってなくね? ってかむしろ、逆だ!?
「うおおおお!?」
「あ、アオイ!?」
小さくなるどころか、元々普通の大きさだった胸が逆にどんどん大きくなっていたのだ! いつしか服がパンパンになるほどに胸は膨れ上がり、そして、そして……
「うひいいい!?」
ビリッ! と、アオイの服が弾け飛んだ! そして、シャムロック以上のサイズとなった巨乳が、完全に露わになってしまっていた!
「いやああああ!? 見るな変態いいいい!? ってかなんであんたも裸なのよおお!?」
「ごごごごごごめん!? ってセレスティア! これはどういうことですか!?」
「こ、これは、効き目を逆にしてしまいました!」
キリッ、の効果音がつきそうなほどキリッとした様子でセレスティアが言う。この人、まるで反省してないぞ!?
「あんた何やってんのよ!? あたしはこんなこと頼んでない! しかも、こんなこと、ハルトの前でするなんて!」
怒り心頭ですっかり剥き出しの胸を隠すこともせずアオイはセレスティアに掴みかかる。流石のセレスティアも本気でヤバいと思ったのか、謝ろうとするも、もはやアオイは聞く耳など持っていなかった。ってかアオイはまず胸を隠してよ!? 上裸の俺が言うことじゃないけどさ!
アオイがセレスティアからワンド「シャルロッテ」を奪おうとしてもみくちゃになる。そのせいでなんだか良く分からない魔力弾の様なものが照射され、部屋の本などを吹き飛ばしてしまった。
「な、何事デスか!? 物凄いbigなsoundが聞こえたケド」
「あ、危ないリア! こっちに来ちゃ……」
「え? うわあ!? なんネ!?」
「ど、どうしてこうも胸に当たる!?」
シャルロッテから照射された何がしかがリアの胸を直撃する。すると……!?
「こ、これはああああぁぁぁ ……」
「「リア!?」」
なんと光を食らったリアの身体が……どんどん縮小してしまったのだ! 漫画みたいにシュルシュルという効果音を響かせて小さくなっていくリア。そして、その身体は五歳くらいの人のサイズで止まったのだった。
「こ、これは、どういうことです……!?」
俺はセレスティアを睨む。さすがにセレスティアも動揺の色が隠せない。
「こ、こんな効果は想定していなかったのですが……。ど、どうして、リアが子供に……?」
「あんたの魔術は一体どうなってんのよ!? 早く元に戻しなさい!」
「それは……できません。今何の魔術をかけたのかもわからなかったですし……」
「うへえ、マジでしゅカ……。ワタシはどうしちゃらいいにょれしゅかネ……?」
幼児になってしまい、余計に言語がたどたどしくなるリア。服のサイズがあまりに違うのか、リアの身体は服ですっぽり覆われており、辛うじて危険な状態になるのだけは避けられていた。
し、しかし困った……。ここにいるのは、胸を断崖絶壁レベルにされた裸の俺、明らかに身体に似つかわしくない爆乳化を果たしてしまったアオイ、そして身体をまるごと幼児化されたリアと、もはや意味不明だった。
そしてそこに、なぜかタイミング良く、いや悪く現れたのは、あろうことかミナトだった!
ま、マズイ……。こんな状況を見られたら、大人である俺たちの常識が疑われる……。もう二度と、俺のことを父親への敬愛の眼差しで見てくれなくなる……。え? 最初から見てないって! うるさいよ! って乗りツッコミをやっている場合じゃない! 俺は素早くこの部屋の壁に掛けてある服を引っぺがして着込む。おかげで間一髪のところで、俺は裸を見られずに済んだ。
「み、ミナト……」
「は、ハルトさん、これは……」
もはや自棄だ。ってか文字数多いしそろそろ終わらせないと……。俺はアオイたちを見回し、そしてミナトにこう言った。
「ミナト、これは、胸の大きさを気にするがあまり、禁忌にその手を染めた愚か者たちの末路なんだよ……」
「き、禁忌、ですか……?」
「ああそうだ。胸を追い求めるあまり、人体操作を行った結果なんだ。見てみるんだミナト。アオイのあの胸、童顔のアオイには全然似合っていないだろ?」
「は?」
切れるアオイは無視だ!
「見てみろあのリアを。あんなに小さくなってはもう胸はないぞ。何のライバルかは知らないけど、ライバルが一人脱落して良かったね」
「しょ、しょれはあんまりネ、ハルト……」
幼児の意見など聞いていられない!
「そして見るんだ、あのマッドサイエンティストならぬマッドマジシャンを。力を求めるあまりこんな悲惨な事態を招いたんだ。ミナトは、あんな風にはなりたくないだろう?」
「ぐっ、流石に何も言い返せません……」
当たり前だ! 反省せよ!
「なあミナト、こんな状態を見ても、君はまだ胸が大きい方がいいと思うかな? 俺はそうは思わないよ。俺は胸の大きさなんか関係なくミナトが大好きだ。だから胸の大きさなど気にすることなかれ。分かった、ミナト?」
俺の熱弁を前に、ミナトは言葉を失っていた。引いている訳じゃない。彼女は、目を輝かせていた。どうやら俺の気持ちはしっかり通じたらしい。彼女はようやく微笑みを作って言った。
「分かりました、ハルトさん。もう、胸のことは言いません……。あの、好きと言ってくださって、ありがとうございます……」
ミナトは俺のことを一度ギュッと抱きしめ、そのままスタスタと部屋を出ていこうとする。部屋を出る直前、彼女はもう一度俺のことを嬉しそうに見つめてくれたのだった。ああ、俺の愛しきマイドーターよ……。
「ふう、これで万事解決。そうだ、セレスティア、そろそろ俺の女体化を解いて……」
ふと、殺気のする方へ振り向いた俺を、かつてないほどの暴力が襲ったことは言うまでもないだろう。いいさ。ミナトからの信頼が守られるなら、俺への理不尽な暴力など甘んじて受けよう。あ、でも、服をむしり取るのだけはやめて!? せっかく着たんだからさ!? こんな格好じゃ城内を歩けないからさあ!?
かくして俺は、アオイとリアによる追い剥ぎにあい、今度は丸裸とされてしまった。そして、同じく罰を受けたセレスティアと共に、小一時間説教を受ける羽目になったのだった……。
チャンチャン。
滑ってなければいいと切に願う(必死




