第31話 女の子のキモチ?
ドレスを脱ぎすて下着姿となった魔術師アイギスと対峙するハルト!
眼前には、煌びやかな衣装を脱ぎ棄て、下着姿となった「鉄の翼」の魔術師アイギス。いつもであれば、敵がどんな格好をしていても気になることなどない。命のやりとりにそんなことは関係ないからだ。にも関わらず、今の俺は明らかに目の前の美女のあられもない姿に動揺していた。
「ふふふ、どうやら更に興奮してきたようですわね。もっとわらわの身体を近くで見るがよいぞ」
「ふ、ふざけないで……! 私が、戦いの最中に、興奮なんて、するわけない!」
俺はふら付く足で必死に踏ん張りフェロニカを構える。だが、どうしてもアイギスが気になって集中できない。俺はなんとか自分を保たせようと顔を叩くも、身体の奥から湧きあがってくる様な熱さを止めることがどうしてもできない……。
「おやめなさい、それではせっかくのそなたの美しいかんばせが台無しですわ。無理をすることはないぞ。欲望に無理に逆らうことは身体に悪い。素直に、自身を慰めてみてはどうかの?」
「自身を、慰める……?」
「そう。そなた、さっきからそなたの大事なところが気になっているのではないか? それを沈めるには、その美しい指でさすってやるしか方法はないぞ」
俺の大事なところを、指でさするだって……? な、何を言っているんだ!? そんなの、お、男が一人でするアレと同じじゃないか!? ってか何考えてるんだ俺は!?
そ、そんなことできる訳がない! 今は確かに俺は女の姿をしているけど、俺はれっきとした男なんだ! 男には男のプライドってものがある。もし、この姿でそんなことをしてしまったら、俺は永遠に男の魂を失いかねない……。
いや、ってかそもそも戦ってる最中にそんなことやる人がいるわけない! 普通に考えておかしいよそんなの!
「う、うるさい! 私の心を惑わそうたって、そうはいかないんだから! たああ!」
俺は迷いを振り切るために走り出す。
「うーむ、そなたは随分と強情なのだな。しかし、そんな頑ななそなたが乱れ狂う姿を想像するだけで、わらわも興奮してきてしまうぞ」
なんか物凄く気色の悪いこと言っているけど知ったことか! こんなヤバい敵さっさと片付けてやると、俺は一気に彼女の元へと走り寄る。だが、そんな俺に対しアイギスは余裕を見せながらこう言った。
「攻撃があまりに直線的ぞ。それではわらわには通用せねわ」
うるさい! あんたの戯言には付き合わない! 俺は気にせず突っ走る。
「はあ、そなたは本当に頑固なのだな……。そんなそなたにはこれを与えよう。『スリミー・ボム』!」
彼女が何やら宣言すると、彼女は剣の先から何やら青色の魔力弾の様なものを放った。この程度なら弾き返せると踏み、俺はそれをフェロニカで迎え撃つ。だが、予想外なことに、俺がそれに触れる直前、風船が割れるようにそれは破裂してしまったのだ!
しまったと思ったところで遅い。破裂した魔力弾が雨のように降り注ぎ、俺はその液体を全身に浴びてしまっていた。
これが毒だったなら、俺は間違いなく死んでいたことだろう。だが、俺は死んではいなかった。それどころか、少しの痛みも感じることはなかった。
「な、なんだ、これは……?」
「ふふ、面白いようにかかってくれたのう。それは粘液で相手の動きを遅くするもの。でも、効果はそれだけではないぞ」
痛みはない。だが、さっきからおかしいと思っていた下半身の疼きがより一層強くなっていた! さっきは耐えられるレベルだったが、これはもう、限度を超えている!
「な、何これえええ……!?」
俺は堪え切れずベトベトの地面にのたうち回る。勇者にはあるまじき姿だろうが、俺も意識が飛びそうでどうすることもできなかった。
「これはさっきの『ハッピー・デイズ』と同じ効果を有する魔術。それだけ粘液を浴びてしまっては、もうそなたに逃れる術はないぞ」
こ、これは、さすがにヤバい! 意識が、なくなる……。理性が、吹き飛ぶ……!
気付かない内に、俺の手がフェロニカを放し、指が俺の身体の下の方へと向かっていく。それだけは駄目! と強く思っても、もはやたがの外れた理性でどうにかなるものではなかった。
俺の右手の人差し指が、本来であれば男の俺にはあるはずもない場所へと向かい、そしてついに、それに触れてしまった……。
すると、これまで聞いたことがないほど卑猥な粘着性の音が俺に耳に届いた。それと同時に、感じたこともないような快感が俺の身体を走りぬけたのだ。
「ひゃ!?」
思わず甘い声が漏れてしまう。俺は必死に抑えようとするが、暴走する欲望がそれを許さない。次から次へと、俺は自身を慰めようとしていく。
「あ、ん、くう……」
「ああ、実に美しい……。そうやって、羞恥に顔を染めながらも、欲望に忠実になっているそなたは誠に美しい……。よし、ここはもっと強烈なものを……」
彼女自身も欲望を抑えきれなくなったのか、更に俺に毒牙を伸ばそうとする。しかし、その時だった。
「そこまでだ変態が! グラビティ・バインド!」
「なに!?」
どこから現れたのか、隙をついたセレスティアが超重力の魔術をアイギスに食らわせた! 俺に夢中になっていたアイギスはまともに攻撃を受け、強烈な重力に耐えきれず地面に突っ伏した。するとセレスティアは脳内で俺に話しかけた。
『しっかりしてくださいハルト! 大丈夫ですか!?』
『あなたには、これが大丈夫に、見えますか……?』
俺は涙目で俺を女体化させた張本人を睨んだ。
『す、すみません! まさかこんなことになるとは、思っていなくて……』
セレスティアはすっかり顔を真っ赤にし、俺をどんな目で見ていいのか分からずオロオロしてしまっている。どうやら、さっきの俺の痴態は彼女にしっかり見られていたらしい……。うぅ、こんなんじゃもう本当にお嫁にいけない……。
セレスティアはオホンと咳払いし、今度は真面目な表情で言った。
『げ、現状第三分隊がなんとか頑張っているお陰で、王様やシャムロック様たちはご無事なようです。ですが、このままでは彼女たちが突破されるのも時間の問題です……。そのために、せめてあなただけでもあちらに送らなければなりません! そこで、その破廉恥女を攻略する方法を思い付きました』
『ほ、本当ですか? 一体、俺はどうすれば……』
俺が尋ねると、セレスティアは苦悶の表情を浮かべて言った。
『危険ですが、あなたの女体化を解くより他に方法はないでしょう……。女性の身体でなくなれば、その女の怪しい魔術は効かなくなるはずです』
『え!? で、でも、そんなことをして、もし、俺が男であることがバレたら……』
『もちろん、そうしたらとんでもないことになります……。ですから、これは一種の賭けです。絶対に、あなたが男であることを悟られる訳にはいかない。だから、あなたは一瞬でその女を戦闘不能にしなければなりません』
簡単そうにとんでもないことを宣うセレスティア。だが、実際俺にはそれしか選択肢は残されていなかった。これ以上悩んでいる時間もない。俺は意を決さざるを得なかった。アイギスにかかっている魔術がもう切れる。俺は一瞬に全てを賭けることにしたのだった。
「くっ、小賢しいことをしてくれる!」
「くそ、魔術が解けたか!」
グラビティ・バインドが解けたアイギスを、セレスティアは悔しそうに睨みつけた。
「ふん、もう二度と同じ攻撃は受けぬわ! この僅かな時間にわらわにトドメをさせなかったのが運の尽きよ! わらわはお前などには興味がない。わらわは、ハルカだけが……いない! 一体どこ、に……!?」
彼女はどうやら俺の姿を見つけたようだ。だが、そうだとしてももう遅い。時間さえ稼げれば、もう俺は十分だ。
俺はフェロニカを頭上に掲げる。その上には、無数のミサイル。発射準備はもうできている!
俺が男であることは悟らせない。悪いが、そのヤバい格好のまま倒れてもらうぞ!
「もう、あんたのオモチャになるのはまっぴらごめんだ! 核弾頭!」
俺が剣を振ると、ミサイルが一斉に照射される。アイギスは逃れようとするが、
「『あおいの糸!』
アオイがアイギスを糸で絡め取り、逃れさせない!
そして光のミサイルがアイギスに突っ込む!
「ろ、『ロリ・ポップ』!」
アイギスは何やら桜色の防御壁を展開させたようだったが、俺の怒りの攻撃を防ぎきることは不可能だ! さっきの俺の醜態ごと記憶を吹き飛ばすがいいさ!
「きゃあああああ!」
爆発を起こし、アイギスが吹き飛ばされる。やはり防御壁の力か、どうやら彼女は死んではいない様子だったが、地面に倒れた彼女はもはや戦闘が行える様な状態ではなかった。これ以上何かしでかさないよう、アオイはしっかりとその身体をもう一度拘束したのだった。
「ぐ……。不覚、ですわ……」
「まったく、どんなカッコして戦ってんのよ」
「う、うるさい、ですわ……。それよりも、今、ハルカの姿が、違って見えたような、気がしたのだが……」
アイギスがそう言うと、アオイは俺を見つめた。だが、当然ながら俺はもうハルカの姿に戻っている。いつまでも危険を冒して男の格好でいる訳はないのである。
「何にも違くないわよ? あんた頭でも打ったんじゃないの?」
「そ、そうか……。いつかわらわは、あの美しいハルカを、この手に……」
そう呟き、アイギスが気絶する。こんな色んな意味でヤバい敵とは、できれば二度と戦いたくないものだ……。
俺がアイギスに勝利し、ここでの乱戦もだいぶアルカディア騎士団が優勢になってきた。だが、それでもやはり敵の数が多い。この調子ではなかなかリア達の元に辿りつけそうもない。
「リア、待っていて……」
俺は城を睨みながらそう呟くことしかできないことが、もどかしくて仕方がないのだった。
リアやシャムロックたちを無事に救いだせるのだろうか?




