第27話 小さな戦乙女、ここにあり(※挿絵あり)
セレスティアの懸念とは何か?
「アイアン・デストロイヤー!」
ミナトの強烈な一撃が炸裂し、「鉄の翼」が遥か彼方へ吹き飛ばされる。まさに「駆逐艦」の名のままに、彼女のハンマーは容赦なく敵の陣形を破壊していく。
小柄な体躯、可愛らしいゴスロリ衣装、幼さを色濃く残すその表情。どれをとっても戦いに向いている要素などないのに、彼女は恐ろしいほどに研ぎ澄まされた戦士であった。
普段はその見た目通り彼女は控えめで、とても優しい少女なんだ。だが、一度火がつけば彼女はその性質を百八十度転換させる。
俺たちの邪魔をする者、罪なき人々を傷つける者、彼女の行く手を阻む者を、彼女は絶対に許さない。その手に持った鋼鉄の雷を容赦なく炸裂させ、仇なす者を粉砕する!
「この小娘がっ!」
敵が魔力弾を照射する。だが、彼女はそれを、
「無駄な、ことを!!」
その手のハンマー・シャリオヴァルトで容易く打ち返してしまった。弾き返された魔力弾はスピード・威力共に倍以上となり、ダイナマイトに匹敵する力が発射した者を襲った。それはもはや、目視できるレベルをとうに超えていた。
そんな強烈な一撃を食らった敵は、もう二度と立ち上がることはなかった。小さな女の子と油断していた敵たちの一部は、彼女のあまりの恐ろしさに尻尾を巻いて逃げ出したのだ。
これが、我が親衛隊一のパワーを誇るミナトの力だ。持久力に若干の難はあるが、それでも彼女のパワーはそれを補って余りある。
『流石だなミナト! その調子で敵を蹴散らしてやれ!』
『は、はい……。ハルトさんのお役に立てるように、わたし、頑張ります』
頑張っているミナトの頭を撫でてあげたかったが、残念ながら今の俺とミナトの間には実際には物理的にかなりの距離があるのでそれは叶わない。この戦いが終わったら思う存分撫でるとしよう。……じゅるり。おっといかんいかん、考えたらついヨダレが……。
『Oh! ハルト今とっても気持ち悪いfaceしてるネ!』
『しまった! リアに見られていた!?』
『イェース! こっちは何事もなくて暇なのデスよ』
リアは大あくびをしながらそんなことを言う。
『いやいや、そっち忙しかったらヤバいでしょ……』
アオイが呆れてツッコミを入れる。でも実際アオイの言う通りだ。リアたちはもしものために城に残ってもらっているのであって、本当に活躍するようなことがあっては非常にマズいのだ。だからリアには今日一日ずっとそのまま暇であることを望みたいところだ。
『セレスティア、そっちの具合はどうですか?』
『そうですね、あいも変わらず、といったところでしょうか。どちらとも、決め手を欠いている状態です』
さっきのセレスティアの言葉が気になりもう一度尋ねてみたが、やはりセレスティアはそれらしいことははっきりとは言わない。どうやら、彼女が確証を持つまでは待つよりほかない様だ。
『ここは、少し打って出ましょうか。ミナト』
『は、はい!』
『これからアレをやります。体力の方は大丈夫ですか?』
『だ、大丈夫です。準備します』
セレスティアとミナトが何やら話しているが、俺もアオイも一体何の話をしているのかは分からなかった。すると、セレスティアが突然ワンド「シャルロッテ」を構え、ある物を出現させた。
それは、宙に浮かぶ何やら四角い物体だった。セレスティアの魔術はこれまで色々見てきたが、こんなものを見るのは初めてだった。リアもアオイもこれにはピンとこないのか首をかしげている。すると、ドS時に見せるセレスティアの悪い笑顔がここで現れた。俺は恐る恐る尋ねた。
『セレスティア、それは一体……?』
『これは「マグネット・キューブ」です。その名の通り、磁石の力でモノを吸い寄せる力を持ちます。ただし、何でもかんでも引き寄せるのではなく、特定の条件を指定することができるのです』
『えっと、それってつまり、どういうことですか……?』
『例えば、条件を「邪悪」としましょう。すると、ここにいる人間の中で邪気を含んだ人間だけを選び出し、この「マグネット・キューブ」は引き寄せることができるのです。これさえあれば、隠れている敵をあぶり出すことができます。まあ、あなたの「聖なる加護」の応用といったところですかね』
それはなかなかに衝撃的な魔術だった。「鉄の翼」は最初こそ大がかりな攻撃を仕掛けてきていたが、その後はゲリラ戦のように姿を隠しながら攻撃を仕掛けてきていた。もし彼女の「マグネット・キューブ」が本当に敵を引き寄せるなら、隠れている敵をあぶり出すことも可能だろう。
だが、いくらセレスティアといえども、それほど広範囲に渡る力を長時間使えるとは考えづらい。それに、もしあぶり出せた所で、こちらにも決定打がなければ魔力の浪費に終わってしまう可能性もある。
『本当にそれ大丈夫? それ使ったせいで状況が悪化したら困るわよ』
アオイもどうやら同じことを考えているらしく、怪訝そうな様子で「マグネット・キューブ」とやらを吟味しているようだった。だが、肝心のセレスティアは自信を滲ませる。
『甘いですねアオイ。私が勝算もなしにこんなことをするとお思いですか? それに、今回の私の役割はあくまで導入だけです。いつもそうですが、この作戦の主役は私ではありませんので』
不敵な笑みを浮かべ、セレスティアは出現させた「マグネット・キューブ」の前に立つ。そしてそれに魔術を込め始めた。すると、空中にただ浮いているだけだったそれが急激に回転を始めたのだ。
キューブは回転を続ける。しかしそれからしばらくは何も変化がないように見えた。だが、しばらくすると……
『嘘……? ほ、本当に、敵が……』
『引っ張られてきているデース!』
隠れていたはずの敵が、少しずつこちらに引き寄せられてきているのだ。何かに引っ張られている様子を見るに、セレスティアが言う様に「マグネット・キューブ」がちゃんと作動しているのが良く分かった。
しかし、肝心のセレスティアは少し辛そうだった。普段では見せないほど息が荒くなり、時折身体がよろけそうになってしまっていたのだ。
どうやら予想通り、この魔術は魔力の消費量は相当なようだった。俺は思わず言った。
『セレスティア! さすがにこれ以上はまずいですよ! これでは、あなたが倒れてしまいます!』
もはや相当数の敵が姿を露わにしている。もうここは引いて、こちらからやつらに攻撃を加えた方が良い。そう、俺は思ったのだが……
『準備は、できましたよ! ミナト!』
そんな思考を遮るかのように、セレスティアがミナトの名前を高らかに叫んだのだ。それにつられ、全員が一気にミナトに意識を集中させる。
すると、なぜかミナトの周りには残り四人の親衛隊員がいて、全員が魔力の収束に意識を集中させていたのだ。一体何をやっているのかと思っていると、突然その内の一人が前に躍り出て、ミナトの頭の上に魔力弾の様なものを出現させたのだ。
しかし、それは敵に向かっていくことなくミナトの頭上で停止しているだけだった。一体これに何の意味があるのかと訝しがっていると、ずっと静かだったミナトがようやく動き出し、彼女にしては珍しく声を荒げてこう言ったのだ。
『「ナパーム」、いきます!』
そう宣言し、ミナトが「シャリオヴァルト」を振りかぶった。そして、
『たああああああああ!』
頭上に浮かぶ光弾を思いきり撃ち抜いたのだ! とんでもないスピードで撃ち出される光弾。それは迷いなく敵の内の一人へと向かった!
そして次の瞬間、敵に衝突した魔力弾がなんと、大爆発を起こしたのだった!
『ま、マジ……?』
あまりの破壊力に開いた口が塞がらないアオイ。でも、それは俺だって同じことだ。彼女のパワーは凄いが、まさか、これほどまでとは……。しかし、驚くのはこれだけではなかった。
最初の一人と同じ様に、残りの三人が順々にミナトの頭上に光弾を出現させる。ミナトはそれを、休む間もなくどんどん撃ちだしていったのだ。
しばらくして、セレスティアの「マグネット・キューブ」が消滅してしまう。これにより、敵はようやく自由を手にすることができた。だが、ミナトたちの目からやつらが逃れることは叶わない。
セレスティアは確かに言った。自分は導入だと。それはまさにその通りのことだったんだ。
ミナトが「ナパーム」を連射する。そしてそれは容赦なく敵を吹き飛ばしていったのだ!
一、二、三、四、五、六、七、八、九、十!
十人もの敵が、一瞬にして消失する。あまりに圧倒的なその姿に、俺は彼女に畏怖の念すら覚えてしまうほどだった。
『はあ、はあ、はあ……』
二十発ほど「ナパーム」を撃った頃、ミナトは既に肩で息をするほどになっていた。威力は尋常ではないが、やはりさっきのセレスティア同様魔力の消費量は並大抵ではないようだ。それでも……
『「うおおおおお!」「凄いぜミナトさん!」』
多くの騎士団員が彼女の圧倒的な力に影響を受けていたようだった。
ミナトたちのお陰で、士気は十分すぎるほどに上がった。もしかしたら、これもセレスティアの作戦の内だったのかもしれない。これが膠着状態を打破するには十分すぎるほどの起爆剤となったのは、間違いなさそうだった。
『二人ともお疲れ様。俺たちも負けてられないな! アオイ! クラリス! ラウラ! 俺たちも頑張るぞ!』
『おお!!』
二人の戦いっぷりを見て、俺たちのボルテージも最高潮となった。このまま一気に、「鉄の翼」を壊滅させる。俺たちはそう意気ごみ、更にギアを上げたのだった。
ミナト躍動!
次回に続く!




