第26話 聖なる加護
セレスティアの作戦はこうだ。
俺とアオイ、そして別任務でこちらの地方に来ていた他四名の計六名による第一分隊がクラグイエの「鉄の翼」鎮圧を、セレスティア、ミナト、他四名の計六名による第二分隊が城よりほど近いミハイロバ通りの「鉄の翼」と戦いつつセオグラード中心街の守りを固め、リア他二名による計三名による第三分隊がもしもの時にシャムロック王女並びに城を守るという内容だ。
『「鉄の翼」が攻撃を仕掛けているのは、王国東部の商業都市クラグイエ、王国南部にある王国第二の都市であるクラリエ、そしてセオグラード中心街のミハイロバ通りです。どこも多くの人が集まる場所であり、多くの人が被害に遭っています。我々は一刻も早くやつらを倒さねばなりませんが、ハルト達がクラグイエにいる以上、これ以上セオグラードの守りを手薄にする訳にもいきません。クラリエには別隊が急行しています。我々は、残り二カ所の「鉄の翼」鎮圧に全力を注ぎます! よろしいですか?』
俺たち二人はクラグイエでこれ以上被害を出さないように全力を尽くさなければならない。ここの「鉄の翼」を鎮圧することさえできれば、アオイの「あおいの糸」による空間跳躍を使って一瞬にしてセオグラードまで移動できる。それに、セオグラードにはセレスティアもミナトもリアもいる。彼女らがあちらにいる限り、あちらの守りが薄くなることはない。ここはセレスティアの作戦に素直に従うのが一番だろう。
『あんたの作戦に文句はないわ! それより、クラリスとラウラはいつここに到着するの? せめてエアハート姉妹が来てくれないと、あたしらだけじゃ数が足りないわ』
「もう着いていますよ、アオイさん」
俺とアオイはいきなり現れた人物に驚いて同時に振り返った。そこにはなんと驚くべきことに、ここからそれなりに距離のあるところにいたはずの、クラリス・エアハートとラウラ・エアハートの双子であるエアハート姉妹が悠然と佇んでいたのだ。
彼女らは日本のくノ一のような格好の通り、圧倒的なスピードを誇っていた。その速さは間違いなく親衛隊内ではNo. 1だろう。
「あ、相変わらずねあんたたちは……。結構走ったでしょうに、全然息も上がってないのね」
アオイが半ば呆れながらそう言うと、エアハート姉妹の妹、ラウラが言った。
「この程度の距離、我々エアハート姉妹には造作もないこと。我々であれば、セオグラードから走ってきたところで息など上がりません」
ラウラは引き締まった表情でそう言う。彼女の表情は実に忍といった感じでキリッとしているが、その一方で髪型がツインテールなのはまたギャップがあってとても可愛らしいと俺はこっそり思った。
「いやいや、そりゃいくらなんでも無理でしょ……」
「す、すみません、うちの妹物凄い強がりなものでして……」
「知ってるわよそんくらい。まったく、あんたたち双子のくせに全然性格似てないのね」
実際、クラリスとラウラの顔は瓜二つだ。だが、アオイが言うように性格に関しては真逆もいいところだった。
と、いつまでもこんなのんびり話をしている場合じゃない。さっきから「鉄の翼」は散発的に攻撃を行なっている。これ以上被害を出さないうちに敵を倒さなければならない。他の二人はまだ到着していないが、エアハート姉妹がいるなら戦力としては十分だ。
「よし、行くぞみんな! 『鉄の翼」を倒すぞ!」
「了解!」「お任せを!」「御意!」
いつもセレスティアがやる役目を担うのは少し荷が重い気もしたが、勇者である俺がみんなをまとめるのは当然と言えば当然のことだ。俺はセオグラードを守るセレスティアたちに想いを馳せながらそこから走り出した。
エアハート姉妹が持ち前のスピードを活かし、建物から建物へと飛び移って行く。そしてある塔の上に「鉄の翼」の一人がいるのを見つけた! 敵と相対するクラリスたち。敵はナイフを使って攻撃を仕掛けようとするが、それよりも早くエアハート姉妹がクナイを繰り出し、ナイフをはたき落とす。丸腰になった相手の両腕を二人で一本ずつ持つと、彼女たちは敵を掴んだまま塔の縁から跳躍した。
エアハート姉妹は恐ろしいほどの跳躍力を駆使し、そのまままた違う塔へと飛び移る。そして跳躍している途中で、エアハート姉妹は掴んでいた男を地面に向かって投げてしまった!
「うわあああ!?」
空中で手を離された敵はただ地球の引力に引き寄せられるのみだ。どれだけ叫ぼうとも、その運命はピクリとも動きはしない。罪のない人々を傷つけた報いを受ける他に、彼に選択肢はないのである!
「さすがだな。俺も負けてられない!」
即行で一人を戦闘不能にしたエアハート姉妹に倣い、俺もスピードを速めた。これ以上街を破壊する訳にもいかないので、大規模な炎魔術はできない。それなら、今ここで俺にできる魔術は、あれしかない! そして俺はハルカ譲りであるあの魔術を発動させた!
「聖なる加護!」
俺を中心として、円形に展開された光が街中へと広がっていく。聖なる光は無垢な人々を悪意から守る。その代わりに、悪意を持つ者には一切の容赦はない。
方々で悲鳴が聞こえる。「鉄の翼」が俺の「聖なる加護」に捕らえられた証拠だ。だがこれで終わると思ったら大間違いだ! 俺はカッと目を開いた。
「はああああ!」
そして一気に「聖なる加護」にありったけの魔力を送りこんだ。
「うぎゃああああ……」
俺の光を全身に浴び「鉄の翼」が更なる絶叫を上げ、そして断末魔を残して光に溶けていく。「聖なる加護」を受けた悪魔たちは、もはや影も形も残ることはないのだった。
「あ、あんた、いくらなんでも凄すぎない……?」
あまりに大規模かつ高威力な魔術を使ったせいで、流石のアオイも驚きを隠しきれないようだ。
「アオイの指導のおかげだよ」
「あ、あたし、ここまで凄いこと教えてないわよ……。これじゃあたしの出番なんてないんじゃないの……?」
「……いや、正直、今の魔術で体力がかなり減ってるんだ。だが、肝心の『鉄の翼』は、まだ半分ほどしか倒れていないはずだ……」
実際、この魔術は地に足を付けていた者しか捕えることはできない。要は、建物の上に逃れさえすれば、簡単に逃げられてしまうということだ。
今の魔術による俺の疲労は色濃い。現状満足に動けなくなっている俺よりも、今はアオイやエアハート姉妹の方が圧倒的に活躍できるはずだ。
「そ、そう……。あの、こんな時に言うことじゃないけど、ホントに、あんたって何者? 『聖なる加護』は、ハルカが得意としていた魔術だったし、あんたは風の魔術も、炎の魔術も使える。そんな人間、あたしは聞いたことがないわ……」
「やっぱり、おかしいよね……?」
それは当然、俺自身自覚があることだ。こんなの、普通はおかしいと思うに決まっている。俺の魔術はあまりに際限がなさすぎて、とても人間業とは思えないはずだから。
「べ、別に、だからって、あたしはあんたのこと変な目で見たりしないからね! 確かに、ちょっと凄すぎるけど、それはあんたの人間性とは、関係ないわけだし……」
「アオイ……」
「ほ、ほら! まだ敵は全然倒せてないのよ? あんたは早く体力回復して。あたしはその内に、粗方片付けてきちゃうから!」
アオイは俺の背中をバシッと叩いてそう言った。そしてそのまま走って俺から離れていった。
相変わらず直接的な言葉ではないけど、俺はアオイの言葉が堪らなく嬉しかった。
今はただ、自分にできることをやろう。それだけを誓い、俺は再び回復魔術を使うべく魔力の収集を開始した。
『そちらは調子が良さそうですね、ハルト』
その時、不意に話しかけてきたのはセレスティアだった。彼女の魔術により、今の彼女の姿がはっきりと分かる。遠くではミナトが戦っている姿も見える。見た所、こちらが優勢なのは間違いなさそうだった。
『そちらも、の間違いじゃない? そっちの方が騎士団も多いだろうし、そもそもセレスティアとミナトがいれば楽勝じゃない?』
俺は心からそう思って彼女にそう言った。だが、意外にもセレスティアの表情は冴えなかった。彼女はすっきりしない表情で言う。
『優勢なのは、間違いはないのですが……』
『どうしたの? 何か気がかりなことでもあるの?』
だが、俺がそう尋ねても彼女は歯切れ悪く答えるだけだった。
『申し訳ないのですが、今ははっきりしたことは言えません……。ハルト、あなたは今はとにかく、目の前の敵に集中してください。確証が持てたら、あなたには真っ先にお伝えしますので』
そう言って、彼女は俺に頭を下げた。
釈然としないものが残ったが、彼女がそう言うなら仕方ない。ちょうど良い感じで体力も回復したので、俺は迷いを振り払い、再び走り出したのだった。
続きます!




