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第10話 Do you need me?

引続きミナトです。

「ハルト、改めて彼女を紹介します。彼女はミナトといって、今はシャムロック様の親衛隊で働いています。ハンマー捌きには定評があり、入隊してからまだ半年ほどではありますが、既に「鉄の翼」との戦いにおける活躍には枚挙に暇がありません」


 セレスティアがそう言うと、本人よりもフランチェスカさんの方が誇らしげにミナトの後姿を見つめていた。それだけで、ミナトと彼女が長い時間を共に過ごして来たことがよく分かる。

 ミナトを前にしているからか、セレスティアはミナトの出自などについては言及を避けたが、俺は事前に彼女からミナトの素性をある程度は聞かされていた。

 彼女はハルカが目を掛けていて、出身世界やフルネームすらも明らかにしないながらも、その高い戦闘力を買われて親衛隊に入隊したらしい。そのせいか、中には彼女のことを心から信用していない人間もいるらしい。しかしそんな人間からハルカは彼女を守り共に戦った。だから、ミナトもハルカのことを敬愛し、心から信頼していたようだ。


 そんな大切な人が、一緒に戦っていた戦場で死んだ。彼女はハルカの死を目の当たりにし何を思ったのだろうか? そんなこと、考えただけで胸が締め付けられる。だからこそ、セレスティアは本当に彼女のことを心配していた。もう立ち直れないのではないか、そうとまで思ったそうだ。

 しかし、実際は初対面の俺に対してもちゃんと挨拶もできたし、笑顔も向けることができた。この調子なら、きっと彼女は立ち直れると俺は率直に思ったのだった。


「あなたが勇者の任務に就けば、彼女はあなたの部下になります。必ずや、期待に応えてくれることでしょう」


 セレスティアはそう言って彼女の肩に手を触れた。


「そうか。じゃあ、君の活躍に期待するよ。君が頑張ってくれれば、早くプレセアとの和平も進むだろうしね」


 そうすれば、俺の勇者代行任務も早めに終われるし、シャムロック達を笑顔にすることもできる。それに何より、死の事実すら公表してもらえないハルカを、ようやく弔うことができる。そのためにも、彼女にはなんとか頑張ってほしいものだ。


「ハルトさん」


 ふと、ミナトが俺の名前を呼ぶ。そして俺の前に出る。その表情は真剣そのものだ。


「なんだい?」

「わたし、頑張ります。頑張って、あなたの役に立ちます。だから、わたしを、使ってください、お願いします……」


 そう言って、ミナトは頭を下げた。口調こそ強くないもののそこには強い懇願の意思が含まれているような気がして、俺は少しの間返事をすることすら忘れ彼女のことを見つめてしまっていた。


「ハルト、どうしましたか?」

「え? い、いや、別に……」


 呆けていた俺は、セレスティアの言葉で我に返った。そして返答を待ち続けている少女に対しこう言った。


「ミナトには本当に期待しているから、必ず一緒に戦ってもらうよ。だから頼んだよ」

「はい!」


 俺の言葉に対しミナトは力強く返事をした。俺はそれからフランチェスカさんにも自己紹介を済ませ、セレスティアと共に部屋を後にした。部屋を出るその瞬間まで、ミナトが俺のことをジッと見ていたのが、強く俺の中に印象付けられていた。

 部屋から出るとセレスティアが言った。


「正直意外でした。あの子が初対面の人とあれほど言葉を交わすなんて……」

「そうなんですか?」

「はい。彼女は極度の人見知りなので、いつもはフランチェスカの背中に隠れる一方なんですよ。まるで、あなたとは昔から深い絆で結ばれているかのようでしたね」


 本気とも冗談ともつかない口調で彼女はそう言った。


「ところで、今日は色々なことがあってお疲れでしょう。これから夕食の準備をしますので、あなたを城の食堂へ……」


 言いかけてセレスティアの動きが止まる。俺は彼女が見つめている方に向かって視線を動かす。するとそこには、先程別れたばかりのアオイの姿があったのだ。

 初対面で妙なことをしてしまったせいで、俺は無性に気恥ずかしさを感じてしまっていた。そしてそれは恐らく向こうも同じなのだろう。彼女は頬を紅くして、分かりやすいくらいに目を泳がせていた。そんな俺たちの様子を見て大袈裟にセレスティアが溜息をつく。


「な、何よ!? あんた何か文句あるの!?」

「別に文句はありませんよ。ただ、色恋沙汰にうつつを抜かすのも大概にした方がいいと思っただけです。そんなの、『切れたナイフ』と呼ばれているあなたらしくありません」

「そんな風に呼ばれたことなんてないわよ! あと色恋沙汰にうつつを抜かしてもいない!」


 二人のやりとりはさながら漫才の様だ。突っ込み疲れて息も絶え絶えになっているアオイだったが、どうやら俺に話があるらしく、仰々しく咳払いをしてようやく話を切り出した。


「ちょっと、あんたに話があるのよ」

「俺に? もしかして、さっきのをまだ怒ってる、とか……?」


 俺がそう言うと、途端にアオイの顔が耳まで真っ赤になる。セレスティアはそんな彼女をいじりたい様子だったが、それでは一向に話が進まないのでこれ以上口を挟むのは慎んでくれた。


「さ、さっきのはもう忘れたわ。そうじゃなくて、話ってのはあんたの今後についてよ。勇者としてやっていくなら、戦いに勝てるように訓練しないと駄目でしょ? あんた魔力はかなり凄いみたいだけど、戦闘に関してはてんで素人よね?」


 それは全く否定出来なかった。この世界に来たせいか時折いきなり魔術が使えることはあるが、それを完璧に使いこなせるかと言われると正直まだそこまでの自信はなかった。


「素人のままじゃ、これから先の戦いに生き残るのは容易なことじゃないわ。そうでしょ、セレスティア?」

「それは、そうですが……」

「だからハルト、あんたは戦い方を知る必要があるのよ。そのためには、強い人間に師事するのが一番手っ取り早いと思わない?」

「それはつまり、君が俺に戦い方を教えてくれるってこと……?」


 そう俺が尋ねると、どこからともなくアオイは槍を取り出した。彼女のその身のこなしは、やはり親衛隊一の実力に違わないものだった。彼女は俺に向かって得物を構えてこう言った。


「あんたに、覚悟があるのならね」


 俺は彼女の鋭い眼光に、思わずたじろぐ。

 しかし、なぜ彼女は俺に訓練をつけてくれると申し出てくれたんだろうか? 俺は彼女にとってみれば、ただのハルカのニセモノのはず。しかも初対面から俺はあんなやらかしをしてしまった……。にも関わらず、彼女が俺のために動いてくれる理由はなんだろう? 俺には見当がつかなかった。


「アオイ、こう言うのも失礼ですが、そんなことを言い出すなんてあなたらしくはありませんね。あなたはどちらかと言うとチームプレイより個人技の人だ。何が狙いですか? 場合によっては、私はあなたの申し出を許可できないかもしれません」

「別に何もないわよ。あたしがこいつを使って何をやろうって言うのよ?」

「私はあなたを疑っているわけではありません。私はただ……」


 セレスティアは歯切れが悪い。アオイを疑っているわけではないのなら、そんなことを聞いてどうしようというのだろうか?


「なによ、煮え切らないわね。それこそあんたらしくないわ。容赦なく急所を抉るのがセレスティアのはずじゃないの?」


 アオイが微かに唇の端を吊り上げて言う。


「それは、もう昔のことじゃないですか……。だから私はあなたに殴られたんですから。あんまりしつこく言うようならあの時のリベンジマッチでもしますか?」


 セレスティアはどこからともなく杖を取り出しながらそんなことを言う。いったい何の話をしているのか分からないが、このままでは埒があかない。


「セレスティア、せっかくアオイが指導してくれると言っているんですし、断る理由はないと思うんですが?」

「いや、私も別にそのことに反対しているわけではありません。実際、親衛隊で総合力がナンバーワンなのは、悔しいですがアオイです。私が気にしているのは、あなた自身のことですよ」


 アオイ自身のこと? うーむ、いよいよ彼女の意図していることが分からないな。

 しかし、肝心のアオイは今の言葉で合点がいったらしく、大袈裟にセレスティアに対して溜息をついて見せた。


「あんた、それこそ余計なお世話よ。あたしはもう前を向いてんのよ。だからこそそいつを鍛えるって言ってんの。そいつが早いとこ戦力になればあたしたちの目標は早く達成する。そうすれば、あたしはさっさと元の世界に帰らせてもらうわ。これはそのためのもの。それ以上でも以下でもないわ」


 アオイの眼光は鋭い。それを見てセレスティアもようやく諦めがついたらしく、「分かりました。では、彼をあなたにお願いします」と言った。アオイはそれに対し「分かりゃいいのよ」と言い、満足気な表情を浮かべた。


「それじゃハルト、明日から訓練だからね。遅れたら承知しないから」

「あ、ああ。よろしく頼むよ」


 俺がそう言うと、アオイはヒラヒラと手を振って引き上げていった。


「強い人なんですね、アオイは」


 俺は彼女から受けた印象をそのまま言葉にした。だが、セレスティアは何も応えなかった。彼女はただ、アオイが消えた方を黙って見つめているだけだった。

唐突にハルト×アオイの師弟関係結成。

アオイの意図は? そしてセレスティアの懸念とは?

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